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46、いなくなりません。

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「ニチカさん……私の婚約者はジェンスロッド・サイタマー。頭文字は「J」です」

 とりあえず、ニチカの誤解だけは解いておこう。私がアルベルトに興味がないとわかれば今後は突っかかってこなくなるかもしれないし。

「その婚約者、たぶんそのうちとうし……いなくなるわよ!」

 今、凍死って言おうとしたな、おい。不吉なこと言うんじゃないよ、こんな公衆の面前で。

 なるほど。たぶん、ニチカはジェンスの死の時期がずれてると思ってるんだな。何故かまだ生きているけど、こいつは凍死するキャラ、という目でジェンスを見ているのだろう。
 そして、ジェンスがいなくなれば、私はアルベルトの婚約者となると思いこんでいるのだ。ゲームではそうだったから。

 冗談じゃない。

「いなくなりません。私の婚約者はジェンスロッド・サイタマーです」

 私がいる限り、ジェンスを凍死させたりしない。いなくなりません。埼玉は永久に不滅です!

 力強く言うと、ニチカがちょっと怯んだ。
 私はニチカを少し睨みつけて、これ以上の不用意な発言をしないように目と態度で教え込もうとした。
 だが、その時、

「きゃっ」

 人だかりの一部が崩れて、前の方にいた女の子達が倒れ込んできた。私はその子達に押されて、床に倒れそうになった。

「レイシール!」

 ティアナが慌てて支えてくれる。二、三人の女の子が床に膝をついて、私を見上げて顔を青くした。

「も、申し訳ございません!」
「後ろから押されて……っ」
「ホーカイド様に危害を加えるつもりは……」

 ルイスが眉をしかめながら、人だかりの前に立って距離を取らせる。

「あっ……ホーカイド様、何か、落とされたようです」

 立ち上がった女の子の一人が、床を指さした。

 そこに、私のハンカチが落ちていた。Lの字と雪の結晶を刺繍したハンカチ。そして、ハンカチから転がり出した愛の妙薬も。

 この場に集まった生徒達の目に、私のポケットから落ちたそれらが触れる。

 掲示板に貼り付けられたものとお揃いのハンカチは、今説明した通り本当はジェンスに贈るつもりだったからいいとして、愛の妙薬が私のポケットから出てきたことに、人だかりが息を飲む。

 うわあ。ややこしいことになりそうだなぁ。

 えてして群衆というものは真実よりも刺激的なエピソードの方に飛びつくものだ。周りの男達を虜にしようとして公爵令嬢が薬を盛っていたという方が、真実よりも断然おもしろいだろう。

 もちろん、説明すれば皆ちゃんと理解してくれるだろう。だが、真実を理解するのと、おもしろおかしく噂を楽しむのとは、まったくの別物、別腹なのだ。




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