91 / 114
91、過去の涙
地面に叩きつけられると悟り、ぎゅっと目を瞑った。
だけど、次の瞬間に感じた衝撃は想像よりも軽く、全身を打った痛みも無かった。
「ぐっ……!」
呻くような声と共に、二度目の衝撃。
目を開けると、顔をしかめて私をみつめるジェンスと目が合った。
「レイシー! 無事か!?」
「ジェンス……」
体の下に感じるのはジェンスの腕のぬくもりだった。落ちた私を受け止めてくれたのだ。二度目の衝撃は、ジェンスが尻餅をついたためだろう。
「レイシー! レイシール!」
私の目から涙が一筋、つうっと頬を伝った。
私を呼ぶジェンスの声を最後に、私は意識を失ったのだった。
ここがゲームの世界だと気づいてからしばらくは、ふわふわとした感覚で生きていた気がする。
「生まれ変わった」と思いながらも、どこか現実感を得られなかった。
お兄様を凍死から救ったのも、ジェンスを凍死から救ったのも、シナリオ通りに進ませたくなかったからで、彼らの生命をどうあっても救いたかったからじゃない。
ここは架空の世界。彼らは架空のキャラ。
そんな気持ちが拭えなかった。
いつかパッと終わる世界、醒める夢の中だとどこかで思っていて、それなら好きに過ごそうと気楽に生きてきた。
だけど、違ったんだ。ここは、ゲームの世界ではあっても、ここに生きている人々は皆、ちゃんと自分でものを考えて生きていて、誰かを愛したり愛されたいと願ったりしている。
私は、ゲームの世界に生まれ変わってしまった現実の人間ではなくて、たまたま違う世界の記憶を持って生まれてしまっただけの、この世界の人間なんだ。
他の皆と同じ、ただの人間なんだ。
「レイシー。レイシール」
私を呼ぶ声が聞こえる。
私を愛していると、この世界の人間だと、認めてくれる声がする。
私はここで生きていると、教えてくれる声がする。
その声に導かれるように、私は目を開けた。
「レイシー! 目が覚めたか?」
私の手を握って顔を覗き込んでいたジェンスが目を見開いた。
「わたし……?」
「医務室だよ。よかった……」
ジェンスがほーっと息を吐く。
「レイシール! 気分はどうだ?」
ジェンスの肩越しに、お兄様が覗き込んでくる。
お兄様とジェンスが生きている。そのことに、何故だか今さら、ものすごく安堵がこみ上げてきて、私はぼろぼろ泣き出した。
「ふぇっ……ふえぇ~んっ」
突然泣き出した私に、ジェンスとお兄様は慌てふためいた。
「怖かったなレイシー! よしよし、もう大丈夫だ!」
「どけ、ジェンスロッド! レイシール! お兄様がついているからな!」
ごめんなさい、二人とも。怖くて泣いたんじゃないんです。
この涙は本当は、あの時に、二人が凍死の運命を免れた時に、「二人が無事で良かった」って流すべき涙だったんです。
あの頃の私には流せなかった涙を、今ようやく流しているだけなんです。
あなたにおすすめの小説
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜
矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】
公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。
この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。
小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。
だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。
どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。
それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――?
*異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。
*「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
悪役令嬢の取り巻き令嬢(モブ)だけど実は影で暗躍してたなんて意外でしょ?
無味無臭(不定期更新)
恋愛
無能な悪役令嬢に変わってシナリオ通り進めていたがある日悪役令嬢にハブられたルル。
「いいんですか?その態度」