道産子令嬢は雪かき中 〜ヒロインに構っている暇がありません〜

荒瀬ヤヒロ

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92、夜の訪問者

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 ジェンスとお兄様に送られて寮に戻ると、アンナが号泣した。
 心配させてしまったことを謝ると、いっそう激しく泣かれてしまった。どうすりゃいいのよ。

 とりあえず、過保護に世話を焼いてくれるアンナに逆らわずに大人しくしておいた。
 私が起きている限りアンナはあれやこれやと動き回って落ち着かなかったので、早々に休ませてもらうことにした。
 ベッドに潜り込むと、すぐにとろとろと眠気がやってきて、私はそれに抗わずに目を閉じた。


 夜半、何か小さな音がして、私は目を覚ました。

 耳を澄ますと、コツ、と小さな音がする。気のせいではない。
 私は身を起こして辺りを見回した。またコツ、と音がする。窓からだ。

 私はそーっとベッドから抜け出して、窓辺に寄ってカーテンを開けた。
 窓の外、バルコニーに見知らぬ少女が立っていて、窓ガラス越しにニコッと笑った。

『初めまして。私はクララ・ナラーと申します。二年生です』

 そう書いた紙をガラス越しに広げて、クララ・ナラーは私をみつめる。自己紹介の下に書かれた一文を目にして、私は窓を開ける決意をした。

『レオナルド・ヒョーゴン様の使いで来ました。』

 窓を開けると、冷たい夜風が吹き込んでくる。

「夜分に失礼いたします。レイシール様」

 クララ・ナラーは小声でそう言って、にっこり微笑む。

「レオナルド様本人が夜中の女子寮に侵入したりしたら、万一見つかった時にレイシール様の名誉に傷がつきますから、私が代わりに」
「……どうやって来たの?」
「ああ。縄梯子を昇って」

 なんてことはないように言うクララ・ナラーの言葉が真実だというのは、手すりに引っかかっている鉤爪とそれに繋がる縄梯子が垂れているのを見てわかった。クララ・ナラー、どうやらただ者ではないらしい。

「レオナルド様とは幼馴染なんです。彼がガキ大将だった頃に、私が子分その1でした。ちなみに、ガウェイン・オッサカーが子分その2です」

 クララ・ナラーはにこにこと言う。公爵令嬢の部屋に忍び込んでいるというのに、動じる様子は微塵もない。さすが奈良県。悠久の古都の貫禄を感じさせる度胸だ。

「レイシール様。レオナルド様より伝言です」

 クララは言った。

「リリーナ・オッサカーを捕らえるために、協力してほしい」


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