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しおりを挟むお茶会の参加者が決まった。
ディオンは四年生の名前を見てピシリと硬直した。
「ディオンさん、どうしたっすか?めっちゃ固まってるっぽいすけど」
ジャンが首を傾げる。
「今年のお茶会は盛り上がりそうだな」
エドワードがふっと優雅に微笑んで言う。
「ええ。本当に」
「例年にはない盛り上がりを期待しますね」
シャルロッテとナサニエルもうんうんと頷く。
ディオンが硬直した理由を知っていそうなエドワードら三人を見て、ジャンは頬を膨らませた。
「なんすか。俺だけ仲間外れにして。これは平民いじめっすよね?生徒会の中で俺だけ平民だから「平民の分際で生徒会なんて生意気なのよこの身の程知らずの雌猫が!」ってインク壷を投げつけて制服を汚して「あーら、平民にお似合いの制服になったじゃない!」ってせせら笑うつもりなんすね?」
「馬鹿だな、ジャン……私がお前にそんなことをするはずがないだろ……?」
エドワードが隣に座っているジャンの手にそっと自分の手を重ねる。
「仲間外れにした訳じゃないんだ。わかってくれ、子猫ちゃん……」
「殿下……」
フィレンディア王国王太子エドワードと平民特待生ジャン・ヴィンスレッドは瞳を潤ませてみつめあった。二人の世界だ。背景に薔薇が見える。
「あらいやだ。わたくしが婚約者としてふがいないばかりに、あのような平民に殿下の心を奪われて。わたくし、このまま断罪されてしまうのね」
シャルロッテが頬に手を当てて小さく溜め息を吐く。
「シャルロッテ!貴様は私の婚約者でありながら、いじめなどという非道な真似を!そんな女と結婚できるか!私は真実の愛に生きる!」
「いけません殿下。このままだと俺、「ざまぁ」されちゃうっす」
「ええい!うるさい!くだらない寸劇するな!」
王太子と公爵令嬢と平民男子による「真実の愛ごっこ」に苛立ったディオンは席を立って怒鳴りつけた。
「何をいきり立っているんだ? 五月休暇の前に学期末テストの首席を招いて茶会を開くのは毎年の恒例行事じゃないか」
フィレンディア王国の王立学園では毎年、生徒会が主催で二学期末のテストで男女別に各学年一位の者(生徒会役員が一位だった場合は次席の者)を招いてお茶会を開くことになっている。
本日、テスト結果が発表され、各学年の参加者が決まったところだった。
ディオンが何故、参加者の名前を見て硬直したのか、その理由を知っている癖にしゃあしゃあと尋ねてくるエドワードに、ディオンは怒りのまなざしを送った。
「そんなに熱い目で見るな。私にはシャルロッテがいるからお前の想いには答えられない」
「申し訳ありません、ディオン様……」
「だから、茶化すな!」
隙あらばふざける王太子とその婚約者にキレっぱなしのディオンを見て、ジャンは首を傾げた。
「でも、本当になんで硬直してるんすか? 参加者に苦手な相手でもいたんすか?」
ジャンの疑問に、ディオンは「うぐっ」と呻いた。
「ああ、そうか。ジャンは去年から入ってきた編入生だから、「エイブリー・コットの悲劇」を知らないんだな」
「なんすか、それ」
エイブリー・コットの悲劇。
それはこの学園の生徒であれば誰でも知っていると言っていいほど有名な話だ。
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