ガリ勉令嬢ですが、嘘告されたので誓約書にサインをお願いします!

荒瀬ヤヒロ

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第9話





 公爵令息が怒りに打ち震える光景を、ダイアンとティオーナは力なく見守っていた。
 床には開けてももらえなかった包みが転がっている。先ほどロージスが壁に叩きつけたのだ。

「……勉強しないと死ぬ病気なのかあの女ぁっ!!」
「ほんとに手強いなー」
「困ったわね」

 神妙な顔をしながらも、ダイアンとティオーナはちょっとおもしろいなとも感じていた。思い出すのは、入学してすぐのテスト結果が張り出された後のこと。
 あの時も、ロージスはハリィメル・レミントンへの怒りに打ち震えていたのだ。

 子供の頃から優秀で、学業で人に負けた経験などなかったロージスが、聞いたこともない男爵家の令嬢に負かされたのだ。ダイアンとティオーナも驚いたが、ロージスの荒れようはひどかった。人前では平然としていたが、ダイアンとティオーナの前では怒鳴ったり足を踏み鳴らしたりしては憤懣を叫んでいた。ハリィメル・レミントンへの。

 それからも、テストのたびにロージスは「今度こそレミントンに勝つ!」と言っていた。

 なのに、あまりにも勝てないものだから。
 自尊心を傷つけられ続けたロージスには、ちょっとした息抜きが必要だと思った。
 それで嘘告なんて持ちかけてみたのだが、息抜きどころか余計に自尊心を傷つけられる事態になっている。

「ちょっとからかってやって、レミントン嬢の悔しがる顔でも見たらすっきりするかな、と思ったんだけどな」
「逆にロージスが悔しがっているわね」

 余程そっけない対応をされたらしく、ロージスは床を拳で叩いた格好のまま顔を上げない。

「これは無理だな。才女を騙すのは諦めよう」
「そうね。これ以上はロージスがかわいそうだわ」

 公爵令息が賢い女性に本格的に苦手意識を持ったら困る。
 幸い、というかなんというか、ハリィメルはロージスが話しかけてこなくなっても、文句を言ってきたりはしないだろう。平然としている姿しか想像できない。

「よし。ロージス、レミントン嬢のことは忘れて、明日からは元の生活に戻っ――」
「いやだ」

 下を向いたまま、ロージスが唸るように言った。

「このままで終われるか……あんな地味女にこけにされたまま逃げ出すなんてできねえっ!」

 ロージスはがばっと顔を上げて叫んだ。

「あの女、絶対に落としてやるっ!!」

 拳を握るロージスを見て、ダイアンとティオーナは顔を見合わせた後で肩をすくめた。


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