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第18話
しおりを挟む図書室のテーブルに勉強道具を広げながらうっかり欠伸をしてしまい、ハリィメルは慌てて口を押さえた。
昨夜は少し遅くまで勉強していて寝不足なのだ。
それもこれも、ロージスのせいである。
奴がやたらと触れてくるせいで、ハリィメルは学校にいる間中少しも気が抜けないのだ。触れられないよう、隙を見せないよう、気を張ってしまっている。
そのせいで勉強も思うように進まず、寝る時間を削る羽目になっている。
このままではいけない。これではロージスの思うつぼではないか。
(はあ……もうやめようかな)
くだらない企みに屈するようで業腹だが、嘘告だと知っていた上で意趣返しをしたのだと打ち明けて軽く謝罪して終わりにすべきかとハリィメルは考えた。
そもそもの発端は向こうなのだから、ハリィメルが一度頭を下げればそれ以上は要求されないはずだ。それ以後もハリィメルの邪魔をしてくるようなら、教師に相談するしかない。
それにしても、ハリィメルの足を引っ張りたいがためだけの理由で、よくも好きでもない相手の手や髪に触れられるものだ。
ハリィメルの反応を見て、陰でダイアンとティオーナと笑っているのかもしれないな、と参考書をめくりながら溜め息を吐いた。ハリィメルには、ひとを貶めることのなにが楽しいのかさっぱりわからない。
(まあ、彼らになんと言われていようとかまわない。興味もないわ)
ガリ勉でも勘違い女でも、好きなように呼べばいいのだ。
そう考えて、勉強に戻ろうとノートに目を落とした時だった。
不意に、背後からなにかがふわりと覆い被さってきた。
伸びてきた腕が首に絡み、椅子の背もたれ越しに他人の気配が伝わってくる。
ハリィメルの背中がぞわっと総毛立った。
***
放課後の図書室でいつものように勉強を始めたハリィメルの背後にそっと忍び寄ったロージスは、一気に距離を詰めてハリィメルがこちらに気づかないうちに彼女の首に手を回してそっと抱きしめた。
ハリィメルの胸の前で交差させた両手の片方の拳にはプレゼントであるペンダントが握られている。
(よーし。ハリィメルが振り向いて目が合ったら、照れて慌てるハリィメルの首にそっとペンダントをかける……そして、至近距離で甘い声で囁いてやればイチコロだ!)
自分の思いどおりにことが進むと、ロージスが確信した次の瞬間だった。
ロージスの想像に違わず、ハリィメルが腰を浮かせて振り向いた。
と、同時に、パァンッと力強い音が響き、頭を揺さぶられたロージスは「!?」と声にならない声をあげて二、三歩後ろに下がった。倒れるのはどうにか堪えたが、頬が熱くなりじんじんと痛みが広がっていく。
なにが起きたかわからず呆然と視線を動かしたロージスの目に、片手を上げて青ざめているハリィメルの姿が映る。
ハリィメルに頬を叩かれたのだということを理解するのに、ロージスの脳は少々の時間を要した。
「も、申し訳ありません。鳥肌が立って、つい……」
謝罪するハリィメルの硬い声が、ふたりの間に重たく落ちた。
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