ガリ勉令嬢ですが、嘘告されたので誓約書にサインをお願いします!

荒瀬ヤヒロ

文字の大きさ
49 / 62

第49話

しおりを挟む



 月曜の朝、寝台から身を起こしたハリィメルはだるい体にむち打って立ち上がった。
 昨日より、熱は大分下がったようだ。

(大丈夫。行ける。私は、やれる)

 頭が重く、ともすればふらつきそうになるが、ハリィメルはのろのろと登校する準備を始めた。

「ハリィメル!? なにをしているの?」

 制服を着て降りてきた娘を見て、母が慌てて駆け寄ってくる。

「そんなに真っ赤な顔をして、まだ熱があるじゃない! 寝ていないと」
「学校に行くの。テストだもの」
「馬鹿言わないで! こんな状態でテストなんて無理よ」

 玄関から出ようとするのを母に止められて、ハリィメルはその手を乱暴に振り払った。

「そうやって、テストを受けさせないで退学させるつもりね!? 思いどおりにはならないから!」
「ハリィメル……」

 とにかくテストのことで頭がいっぱいのハリィメルには、母の表情を見る余裕もなかった。どんなに邪魔をされても絶対にテストを受けてやると決意し、肩に力を入れて背筋を伸ばした。
 普段より重たい扉を開けて外に出て、太陽のまぶしさにくらくらしながら辻馬車の停留所へ足を向けようとした。
 だが、門から出ようとしたところで、何故か立派な馬車が門の前に停まった。

「ハリィメル?」

 馬車から降りてきたロージスが、ハリィメルの姿を見て目を見開いた。
 彼の姿を一目見て、ハリィメルは思いがけずほっと安堵した。

(具合は悪くなさそう……よかった)

 自分を助けたせいで、ロージスまでテスト当日に熱を出していたらどうしよう、と熱に浮かされながらずっと気になっていたのだ。

「お前……ずいぶん具合が悪そうじゃないか! なんで学校に行こうとしているんだ?」

 ロージスの元気な姿に胸を撫で下ろしたハリィメルだが、そう言われてむっと口を引き結んだ。

「あなたには、関係ないでしょう」

 そっけなく言って、彼の横をすり抜けて道を歩き出す。

「待てハリィメル! まさか辻馬車に乗って行く気か? その体調で!」

 まさかもなにも、それしか登校手段がないのだ。ハリィメルはうるさく騒ぐ男を無視して歩みを進めた。

「待てって! 無理するなよ。そんな状態でテストを受けても……」
「いいからっ、もう邪魔しないでください!」

 母も家から出てきてロージスとハリィメルのやりとりをはらはらと見守っている。
 なにがなんでもテストを受けると言い張るハリィメルに、ロージスはひとつ溜め息を吐いてからこう提案してきた。

「わかった。だが、辻馬車には乗せられない。この馬車に乗るんだ」

 公爵家の馬車に乗れと迫られて、ハリィメルは露骨に嫌そうな表情で首を横に振った。

「駄目だ。この馬車に乗るか、寝台に戻るかだ。どちらかを選べ」

(なんで、あなたにそんなことを言われないといけないのよ)

 ハリィメルは内心でそう憤ったが、ここでの言い合いに体力を費やすのは避けたかった。
 長い時間逡巡した末に、ハリィメルはしぶしぶ公爵家の馬車に乗り込んだ。


しおりを挟む
感想 150

あなたにおすすめの小説

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

離婚したいけれど、政略結婚だから子供を残して実家に戻らないといけない。子供を手放さないようにするなら、どんな手段があるのでしょうか?

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 カーゾン侯爵令嬢のアルフィンは、多くのライバル王女公女を押し退けて、大陸一の貴公子コーンウォリス公爵キャスバルの正室となった。だがそれはキャスバルが身分の低い賢女と愛し合うための偽装結婚だった。アルフィンは離婚を決意するが、子供を残して出ていく気にはならなかった。キャスバルと賢女への嫌がらせに、子供を連れって逃げるつもりだった。だが偽装結婚には隠された理由があったのだ。

【完結】母になります。

たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。 この子、わたしの子供なの? 旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら? ふふっ、でも、可愛いわよね? わたしとお友達にならない? 事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。 ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ! だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。

妹に婚約者を奪われ、舞踏会で婚約破棄を言い渡された姉は、怒りに魔力を暴発させた。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

愛しい義兄が罠に嵌められ追放されたので、聖女は祈りを止めてついていくことにしました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  グレイスは元々孤児だった。孤児院前に捨てられたことで、何とか命を繋ぎ止めることができたが、孤児院の責任者は、領主の補助金を着服していた。人数によって助成金が支払われるため、餓死はさせないが、ギリギリの食糧で、最低限の生活をしていた。だがそこに、正義感に溢れる領主の若様が視察にやってきた。孤児達は救われた。その時からグレイスは若様に恋焦がれていた。だが、幸か不幸か、グレイスには並外れた魔力があった。しかも魔窟を封印する事のできる聖なる魔力だった。グレイスは領主シーモア公爵家に養女に迎えられた。義妹として若様と一緒に暮らせるようになったが、絶対に結ばれることのない義兄妹の関係になってしまった。グレイスは密かに恋する義兄のために厳しい訓練に耐え、封印を護る聖女となった。義兄にためになると言われ、王太子との婚約も泣く泣く受けた。だが、その結果は、公明正大ゆえに疎まれた義兄の追放だった。ブチ切れた聖女グレイスは封印を放り出して義兄についていくことにした。

妹に婚約者を奪われたので、田舎暮らしを始めます

tartan321
恋愛
最後の結末は?????? 本編は完結いたしました。お読み頂きましてありがとうございます。一度完結といたします。これからは、後日談を書いていきます。

妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。

追放された古代神の巫女は規格外

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「今代の守護神の聖女はアランデル公爵家令嬢ビクトリアと神託が下った。  これにより次期王妃はビクトリアとなる。  今日まで王太子殿下の婚約者であったアメリ嬢は、聖女候補の役目を解かれることになるので、王太子殿下との婚約を解消され、元の身分に戻ることになる。  これはアメリ嬢にあてはめられる事ではなく、全ての聖女候補も同様である。  元の身分に戻り、それぞれの実家に帰ってもらう」 アメリは捨て子と結婚を嫌った王太子と、王妃になりたい公爵家令嬢の罠にはまり、元の孤児の身分にされ、神殿まで追放になってしまった。  だがそれが、国と神殿の滅びの序曲だった。

処理中です...