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第8話 公爵令息エリオット・フレインの決意
しおりを挟むエリオットには婚約者がいない。
女は嫌いだ。親戚の中にはうるさく言ってくる者もあるが、たとえお飾りであろうと特定の女を自分の隣に置くつもりはない。
フレイン公爵家の子供はエリオット一人なので、将来は未婚のまま養子を迎えるかもしれない。アレンには、エリザベートとの間の子供を一人くれと頼んである。
そんなエリオットには言う資格がないのであろうが、アレンのエリザベートに対する態度は褒められたものではない。
確かに、エリザベートはアレンの言うように無愛想で態度も冷たい。しかし、学園では生徒会副会長としてアレンを支え、学業の合間に王太子妃教育も修めているのだから婚約者として瑕疵はない。アレンにはもう少しエリザベートを認め、優しくするように言っているのだが、アレンの態度は頑なだ。
(もう少し、仲良くなる努力をするべきなんじゃないのか?)
そうは思うのだが、婚約者を作らないエリオットでは言っても説得力がないし、クラウスとガイはそんなに心配しなくても大丈夫だろうという態度だ。
そういえば、クラウスとガイにも婚約者はいるが、普段から一緒にいる訳ではない。顔を合わせれば挨拶もするし用があれば話すが、恋人のような振る舞いは目にしたことがない。
(世の中の婚約者ってそんなもんなのか?)
別にイチャイチャしろという訳ではないが、自分の周囲の男女が冷めすぎている気がしないでもない。
そんな風に考えながら放課後の裏庭を一人歩いていると、生け垣の向こうから男女の言い争う声が聞こえてきた。
(痴話喧嘩か?)
関わりあいになりたくないので立ち去ろうとしたエリオットだが、男の声が「待ってくれ、ミリア」と言ったのが聞こえて足を止めた。
生け垣の陰に隠れて様子を窺うと、ミリアが一人の男子生徒に食ってかかっているのが見えた。
「ちゃんとお姉様を説得してよ!それでも婚約者なの?」
(スカーレット嬢の婚約者?)
エリオットは男をよく見ようと目を凝らした。茶髪に柔和な顔つきの、平凡な青年に見えた。気が弱いのか、ミリアに詰め寄られてたじたじになっている。
「お姉様にはふさわしくないのよっ!私は絶対に認めないから!」
ミリアは愛らしい顔を歪めて怒りに拳を握っている。
エリオットは頭を働かせた。姉の婚約者に鬱憤をぶつける妹。妹に押し切られる婚約者。姉の境遇に不満を抱く妹。
(まさか……姉の婚約者に言い寄っているのか?)
こんな人目のないところで密会しているのだ。その可能性は高い。
(姉から婚約者を奪うつもりなのか?だとしたら、エリザベート嬢にちょっかいを掛けるのは何が目的なんだ?)
とにかく、ミリアが何かを企んでいることは間違いない。エリオットはスカーレットのことが心配になった。タックル技術が抜きんでていることを除けば完璧な令嬢であるスカーレットが、奇行に走る義妹に婚約者を奪われて傷つく姿など見たくない。
ミリアが歩み去っていくのを、スカーレットの婚約者が追いかけていく。それを見送りながら、エリオットはミリアの企みを暴き、エリザベートと―――スカーレットを守ると心に決めた。
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