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第7話 侯爵令息クラウス・ベルンマイヤーの報告
しおりを挟むその日、エリザベートは常に令嬢達に囲まれていた。
エリザベートは口数が少ない上に、無表情で喜怒哀楽をほとんど表に出さないため近寄りがたいと普段は敬遠されているはずなのだが、ミリアの暴挙によって傷つけられた彼女を誰もが労っているようだった。
エリザベートが囲まれているのに反して、アレンの周りには令嬢が寄ってこなかった。いつもの正反対である。
どうやら、令嬢達の間では「エリザベート様があんな目にあったのに、助けもしなかった殿下ってどうなの?」という雰囲気になっているらしい。
放課後、生徒会室までやってきたエリザベートにも数人の令嬢が付いてきて、エリザベートだけを生徒会室に残して去らねばならないことを心から嘆いていた。
「随分、いたわられたようだな」
令嬢達からいつもの熱のこもった目ではなくちょっと冷たい視線を送られ続けたアレンが刺々しく言う。エリザベートは常と変わらぬ素っ気ない態度でアレンの前を通り過ぎた。
「皆様、わたくしを心配してくださっただけですわ」
いつもの定位置である窓辺に寄り、こちらへ背を向ける。それを横目で睨んで、アレンはふん、と鼻を鳴らした。
「それで、エリオットはスカーレット嬢に話を聞いたんだろう?ミリア嬢に関して何かわかったか?」
「いや。謎が深まっただけだ」
クラウスに尋ねられて、エリオットは正直にそう答えた。
忽然と姿を消したミリアに動揺しているうちに昼休みが終わってしまったので、スカーレットからも詳しい話が聞けなかった。ただ、ミリアには誰かを傷つけるつもりはないとスカーレットは断言した。
その言葉を信じるほど馬鹿ではない。が、スカーレットの堂々とした態度や思慮深い瞳を思い出すと、彼女が嘘を吐くとは思えなくなる。
「私も少し周りの生徒に話を聞いてみたんだが、バークス家の令嬢達に悪い噂などはないな。スカーレット嬢の方は淑女の鑑と名高いし、ミリア嬢も特に奇行は報告されていない」
「嘘だろ……?」
「残念ながら事実だ。二人とも、社交は常識的にこなしているし、令嬢のスカートをめくったとか胸を揉んだとかタックルをかましたという話も一切ない」
クラウスの報告に、エリオット達は眉をしかめた。
「エリザベートに手を出す前に他の令嬢にもやっていると思っていたが……」
「私もそう思っていました。最初から王太子の婚約者である公爵令嬢を狙うとは。普通は小さな虫などから始まって、徐々に小動物に移り、最終的に人間に至るものですが」
クラウスが言っているのは快楽殺人鬼の特徴である。
「エリザベート嬢がバークス家に謝罪を求めるのであれば協力しますが……」
「その必要はありません。あのような目に遭ったなど、ビルフォード公爵家の名誉にかけて口にすることは出来ません」
エリザベートは無かったことにしたいらしい。
「わかった。なら、今回は父上にも報告しない。ただ、ミリア嬢への警戒は怠るな」
アレンの言葉に、エリオット達は頷いた。
「では、わたくしは今日はこれで失礼させていただきます」
エリザベートは素っ気なく一礼すると、止める間もなく生徒会室を出ていった。
「本当に、愛想のない女だな」
アレンがちっ、と舌を打った。
「そう言うな。朝、あんなことがあった上に、一日いっぱい人に囲まれていたんだ。気疲れしたんだろう」
「ですね。普段はおひとりで過ごすことを好まれているので」
「むしろ、あんな目に遭ったのによく授業に出たな」
エリオットがアレンをたしなめると、クラウスとガイも頷いて同意した。だが、アレンは面白くなさそうな顔で三人を睨みつける。
「あれは、友人がいないだけだ。未来の王太子妃だというのに、人望がないなどと話にならん。今日はあんなことがあったから心配されていたが、どうせすぐに見放されるだろう。笑顔のひとつも浮かべられん令嬢など、政略で決められた婚約者でもなければ誰が側に置きたいものか」
アレンの言いように、エリオットは溜め息を吐いた。
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