英雄王アルフリードの誕生、前。~「なるべく早めに産んでくれ」~

荒瀬ヤヒロ

文字の大きさ
4 / 79

第4話 ルティアとガルヴィード

しおりを挟む





 ルティアは伯爵令嬢である。
 貴族たるもの、政略結婚は常識だ。顔を見たこともない相手に嫁ぐことだって珍しくない。
 貴族の令嬢に課されるのは、いかに家格が高く条件のいい相手に嫁ぐかということだ。
 ルティアの家格はそれほど高くない。伯爵位の中では真ん中より少し上あたりに位置される家柄だ。
 その伯爵令嬢が、王太子と結婚できるなら、それはもう一族を挙げて歓喜する慶事だ。
 それなのに何故、ルティアがこれほど暴れて嫌がるのか。
 それはひとえに、ルティアと王太子ガルヴィードが、不倶戴天の仇敵であるからに他ならない。
 たとえばそう、貴族達が夢の内容について話し合うために集まった王宮で、無理矢理連れて来られたルティアと嫌でも出迎えなければならなかった王太子が、顔を合わせるなり互いの顔面をホールドして膠着状態に陥ったように。

「さて、あの夢が未来に起きることなのは異論ないですな」
「ええ。まったく恐ろしいことです」
「しかし、大きな希望がある」
「今から騎士団を増強しましょう!」
「教会も魔王の復活について調べています」
「大魔法使いは自身の魔法を他の優秀な魔法使いに伝えるといっています」
「とにかく、我々は未来の英雄を最大限に支えるため、出来る限りのことを始めましょう!」
「なにはともあれ、まずは英雄の誕生のための準備を」
「そうですな。今日で婚約を整えてしまいましょう」
「異議なし」

「「異議ありっ!!」」

 ルティアとガルヴィードは声を揃えて怒鳴った。

「「なんでっ、こいつとっ、婚約しなきゃならんのだっ!!」」
「英雄誕生のためだ」

 渾身の叫びは国王に一言で切って落とされた。

「そうですよ王太子。英雄のためです。早く産ませてください」
「ルティア様も、不安だとは思いますが、この国を、人々を救うためです。英雄の母となる栄誉を与えられたと思って……」
「いやああああっ!!無理無理無理!なんでこの陰険目つき悪王太子野郎の子どもなんて産まなきゃならないのー!?」
「誰が陰険だ!!こっちだってごめんだ!!産ませてたまるかあああーーっっ!!」
「では伯爵、こちらの婚約宣誓書にサインを……」
「はい。では、これで」
「「勝手に進めんなっ!!」」

 まだ午前中だというのに、すでに婚約が整えられつつある。こんな時に限って王侯貴族の仕事が早い。

 ルティアは隣の王太子の顔を見上げた。
 漆黒の髪に同じ色の瞳、背の高い彼は黒狼の騎士との異名を持つ。ややつり目気味の瞳にすっきりした鼻梁、白い肌の美丈夫だ。

 対するルティアは金色の髪に明るい星月夜を思わせる藍色の瞳、特別美しい訳ではないが、小柄で華奢でくるくるよく変わる表情が魅力的な少女だ。

 そんな二人が、初めて顔を合わせたのは、王太子の婚約者を決めるために開かれたお茶会の席、王太子十歳、ルティア八歳のことだった。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...