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第5話 最悪の出会い
しおりを挟む女の子に囲まれてぎゃあぎゃあ甲高い声を聞くよりも、公爵や侯爵の息子達と遊んでいたかったガルヴィードは不満を思い切り顔に出していた。
綺麗に着飾った少女達に集られて不機嫌が最高値まで高まっていた時に、それはやって来た。
「きゃんっ!」
王太子に挨拶してらっしゃい、と送り出された伯爵令嬢が、つまずいてすっころんだ。
その拍子に、前にいた王太子のズボンをがっしりと掴んだ。
後に「王太子パンツ公開事件」と呼ばれる後世に語り継がれる悲劇が起きた日である。
後日、謝罪に訪れた伯爵令嬢に、恥をかかされた王太子は「初対面の男のズボン脱がすような女は一生結婚出来ねぇよ!!」と怒鳴り散らした。
それに傷ついた伯爵令嬢は王太子の横っ面を叩いた。
それ以来、二人は不倶戴天の仇敵であり、これまでことあるごとに戦ってきた相手なのである。
その相手と子作りしろとか、正気じゃない。
その不仲ぶりは周囲の者にもよく知れ渡っている。王太子ガルヴィードと伯爵令嬢ルティアといえば、どの貴族に尋ねても「ああ。犬と猿ね」と返ってくるぐらいには嫌い合っているのである。前世からの因縁と言われても疑えないレベルで。
そんな二人がどうして子作りなど出来るだろう。
「確かに。二人が戸惑うのも無理はない」
二人がぎゃあぎゃあ訴えると、国王はようやく考え直してくれたようで婚約を進めていた手を止めてガルヴィードとルティアに向き直った。
「もちろん。無理矢理子どもを作れなどと言うつもりはない。我々もまだ混乱しているのだ。だから、二人は別室で待っていてくれるか。朝からいろいろあって疲れただろう。お茶でも飲んで心を落ち着かせるといい」
国王がそう指示して、ガルヴィードとルティアは確かに疲れていたこともあり素直に従った。
「では、応接室にご案内します」と侍女が言い、二人は応接室に向かった。
王宮の応接室はルティアも入ったことがある。兄のロシュアが宰相の下で働いており、王太子の側近の中に宰相の息子がいるために「茶に付き合え」などと呼び出されることもあるのだ。
時々兄にくっついていくルティアは、応接室に入るなり王太子と仁義なき戦いを繰り広げるのである。そんな思い出しかない場所だ。
そんな場所に入って、二人は無言で立ち尽くした。
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