英雄王アルフリードの誕生、前。~「なるべく早めに産んでくれ」~

荒瀬ヤヒロ

文字の大きさ
18 / 79

第18話 夢の話

しおりを挟む





 腕の中で小さな子供がふぇふぇと泣いている。
 ロシュアは片手で子供を抱き、もう片方の手で妹の手を掴んでいた。
 荒れ果てた街の中を、必死に走っている。

「兄様……私はいいので、戻ってください!兄様まで裏切り者と呼ばれてしまう……」

 ルティアが悲痛な声で言った。

 ロシュアは歯を食い縛った。
 気づくのが遅かった。自分の愚かさに嫌気がさす。

「ダメだ!お前の子は……この子だけは守らなければならない!僕達の……最後の希望だ!!」

 ロシュアは叫んだ。

「もう間違わない!!もう二度と!!」



 ***



 ロシュア・ビークベルは目を覚ましてすぐに自分の周囲を確認した。
 いつもの自分の部屋だ。ビークベル家の王都の邸である。
 鏡を見ても、映っているのは十八歳のいつもの自分だ。夢の中の自分は三十歳ぐらいに見えた。

「未来……か?」

 ロシュアは首を傾げて呟いた。
 大人の容姿になっていたが、夢の中の自分が手を引いていたのは紛れもなく妹のルティアだ。
 ということは、腕の中の小さな子供は。



「甥を抱っこした」

「なに!?いつ産まれたのだ!?」

 朝食の席で息子がぼそりと漏らした一言に、父親のドーリア・ビークベルががたりと立ち上がった。

「ルティア!どうして母様には抱かせてくれないの!?」
「抱けるようなものを産んでおりません!!」

 母親のキャサリン・ビークベルに非難されて、ルティアは真っ赤になって怒鳴った。

「いきなり何を言うのですか兄様!!」
「いや、夢で小さな英雄王を抱っこしていたんだ。間違いなくアルフリードだった。三、四歳くらいかな」

 夢の中の子供の大きさを思い出しながら、ロシュアが言うと、キャサリンがハンカチを噛んで悔しがった。

「息子に先を越されるなんて!おばあちゃまが一番に抱っこしたかったのに!!」
「おのれロシュア!父を差し置いて甥を抱っこするとは!」
「夢の話でしょ!?」

 何故か本気で拳を握って悔しがる両親に、ルティアは突っ込みを入れた。最近、周囲の人々がまだ産まれてもいない子供を既に存在しているかのように扱うのがすごく怖い。この間なんて母が産着を買っていてルティアは頭を抱えた。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...