英雄王アルフリードの誕生、前。~「なるべく早めに産んでくれ」~

荒瀬ヤヒロ

文字の大きさ
36 / 79

第36話 別の誰か

しおりを挟む




 目の前で、ガルヴィードが苦しんでいる。
 体をくの字に折り曲げて、荒い息を吐いて頭を抱えて、呻き悶えている。

「ルティア!」

 誰かが、ルティアの肩を引いてガルヴィードから遠ざけた。

「理由はわかりませんが、ルティア嬢が傍にいると、王太子殿下の容態が悪くなるようです」

 誰かの声がした。

「しばらくは、ルティア嬢には王太子殿下に会わないでいただきましょう」




「嫌っ!!」

 叫んで飛び起きたルティアは、ぜぇぜぇと息を吐いて辺りを見渡した。
 自分の部屋の内装を確認して、夢だったのだと確信して肩の力を抜いた。
 しかし、すぐに不安になる。
 以前にも、ガルヴィードが近い将来に病気になっているような夢を見た。あの時は、ガルヴィードも同じ夢を見ていた。
 あの後、ガルヴィードは一応医者に体を診てもらい、どこにも悪いところはない健康体だと太鼓判を押してもらっていた。なので、ルティアも安心していたのだが、再びガルヴィードが病気になっている夢を見てしまった。今はなんともなくともやはり近い将来に病気になるのではないか。

「ガルヴィードッ……」

 ルティアは募る不安に胸を押さえて呟いた。


 ***


 いかん、このままでは。

 王太子ガルヴィードは深刻な眼差しで窓の外の青空をみつめた。

 このところ、側近達の自分を見る目がとても冷たい。具体的には「このエロ王子め」という目で見られている。違う。俺はエロいことなんてしていない。

「くそっ……俺はルティアをベッドに押し倒して触ったり足に挟んでスカートの中に手を突っ込んだりしただけなのに……っ!!」
「それだけやらかして責任とらないとか言ったら全国民から見捨てられるぞ」

 ルートヴィッヒが凍てつくような声で突っ込みを入れてくる。
 頭を抱えて唸っていたガルヴィードはぴたりと動きを止めた。

「……なあ、おい」
「ん?」
「俺の中に、別の誰かがいるって言ったら、信じるか?」

 ルートヴィッヒは眉をしかめて読んでいた本から顔を上げた。

「つまり、破廉恥行為をしたのは自分ではなくもう一人の自分です、と言いたいわけか。最低だな。人間の屑だ。そんな言い訳で責任から逃れようとするとは、唾棄すべき行いだ。このクズ!痴漢野郎!不能になっちまえ!!」
「ちっげーよ!!つーか、俺が不能になったら英雄が生まれねーぞ!それでもいいのか!?」
「くっ……卑怯な!!」

 英雄を人質にとる卑劣なやり方に、ルートヴィッヒは唇を噛んだ。

「そうじゃなくて……」

 ガルヴィードは寸の間口ごもってから、思い切ったように言った。

「ルティアのことだ。ルティアに対する俺の……言動の矛盾だ」

 窓辺に立っていたガルヴィードは、ルートヴィッヒの前のソファに腰を下ろして目を伏せた。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...