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第47話 魔法使いの魂
しおりを挟むカークに引きずられるようにして総務棟へ向かうと、入り口にビクトルが立って待っていた。
ビクトルに従って六部卿と大魔法使いの前に連れて行かれる。
「よく来た。ユーリ・シュトライザー。カーク・クヴァンツ」
大魔法使いシャークローが厳かな声で呼ばわる。
カークはがちがちに緊張していたが、ユーリは欠伸を噛み殺して周囲の大人達を見渡した。全員、昨日と同じく深刻な表情で、中にはあからさまにユーリと目を合わせないようにしている者もいる。
とすると、やはり昨日の一件は良くない結果に落ち着いたのだろう、とユーリは冷静に考えた。
「あの、回りくどいのは面倒なんで、あの石がなんだったのか早く教えてください」
ユーリが口を開くと、隣でカークがぎょっとした顔をした。
「創っちゃいけないものだったんですか?」
「ふむ……創ってはいけない、というより、普通は創ろうとしても創れないもの、じゃな」
シャークローが透明な四角い箱を取り出した。中に、ユーリが創った丸い石が入っている。
「どうやら、シュトライザー以外の者が素手で触れると吸収されてしまうらしいのう。ムグズ」
「はい」
ビクトルが一歩進み出て言った。
「昨日、その石がカーク・クヴァンツの手のひらで溶けて消えるのを目にしました。その直後、カーク・クヴァンツの魔力量が僅かに増加しました」
ユーリは驚いてビクトルを見た。
「本日はカーク・クヴァンツの魔力量は元に戻っています。あの石によって魔力量が増えたことは間違いありませんが、魔力増加はあくまで一時的なもののようです」
「うむ」
シャークローがゆったりと頷いた。
「我々の方でも調べたが、やはりこれは「魔石」である可能性が高い」
「魔石……?」
ユーリは呆然と呟いた。魔石というものの存在は知っている。しかし、あれはサフォア王国からしか採れないと聞いていた。
——僕が魔法で創ったものが魔石って、どういう……
「魔石はサフォア王国にしか存在しない。魔石の伝説は聞いたことがあるか?」
ユーリは首を横に振った。
「かつて、この地に白い魔法使いと黒い魔法使いがいて、黒い魔法使いが悪の道に落ちた。黒の魔法使いと戦って死んだ白の魔法使いの魂が、魔石となった」
シャークローは魔石とは伝説上の魔法使いの魂だと述べた。
「魔石には魔力を増幅する効果がある。通常は杖や魔法道具に練り込んで使用するものだ。お主が創りだした魔石のように、誰かにそのまま吸収されてその人間の魔力量を一時的に増やすなどという話は聞いたことがない」
視線を感じてそちらに目を向けると、ビクトルが何か言いたげな顔つきでユーリを見ていた。隣の様子を窺うと、カークは目を白黒させている。彼は完全に巻き込まれた形なのでユーリは気の毒になった。後で飴玉をあげよう。
「えっと……じゃあ、僕が魔石をたくさん創れば皆喜ぶってこと?」
魔石が魔力を増幅するなら、皆欲しいはずだ。そう思って言ったのに、シャークローはかぶりを振った。
「いいや。今のところは魔石を創る必要はない。お主が魔石を創ることが出来るのが何故かもわからないうちは慎重にならねばならん。このことは他の者にも漏らしてはならない。わかったな」
シャークローはユーリだけではなく、カークにも念を押した。
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