英雄王アルフリードの誕生、前。~「なるべく早めに産んでくれ」~

荒瀬ヤヒロ

文字の大きさ
48 / 79

第48話 白い杖

しおりを挟む





 訓練棟に戻ってきたユーリは新しい杖を持ってくるというビクトルを待っていた。何故かカークも付いてきている。

「杖、かぁ……」

 ユーリは溜め息を吐いた。
 ユーリは商人の息子だ。物は大切に扱わねばならないと父から教え込まれている。なので、気が重い。これ以上杖を破壊するのは嫌なのだ。

——壊れない杖があればいいのに……普通の杖より数倍丈夫だっていう魔石を練り込んだ杖も一瞬で吹っ飛んだしなぁ……ああもったいない!魔石入りなんて絶対めちゃくちゃ高価なのに!

 ユーリは頭を抱えて唸った。

「おい、なんだよ?」

 驚いたカークが声を掛けてきて、ユーリは悩みを打ち明けた。

「杖?てっきりさっきの魔石の話で悩んでるかと思ったのによ」
「魔石……ああ、だってあれは、お偉いさん達が考えればいいことでしょ?それより僕は、これ以上杖を壊したくないんだよ!」

 魔石は創れと言われたら創ればいいだけだとユーリは思っている。魔力が増幅するなら便利なアイテムみたいなものだろう。

「お前、魔石だぞ魔石?もっと深刻に考えろよ!」
「僕は魔法のことなんか全然知らないんだから、僕が考えたって無駄だよ。それより杖を……」

 言い掛けて、ユーリの脳裏にふっとある考えが過ぎった。

——そうだ。魔石が練り込まれた杖は丈夫なんだったら、魔石がたくさん使われているほど壊れにくいはず。でも、魔石は貴重で高価だから、そんな杖は創れない。だけど……

 ユーリは自分の手のひらを眺めた。

——僕は魔石を創れるじゃないか!

 魔石そのもので杖を創ってしまえば、ユーリの力でも壊れないかもしれない。それに、ユーリが創った魔石ならお金もかからない。試してみる価値はある。

——丸い形じゃなくて、杖の形を想像して……

 手のひらを上に向けて、目を閉じて集中しようとしたその時、ユーリの脳裏にふっと夢の光景が蘇った。白い子どもと黒い子どもが持っていた杖。

——そうだ。あれくらい大きかったら、絶対に壊れないはず。

 魔石は白いので、上手く出来れば白い子どもが持っていた白い杖そっくりになるはずだ。
 完成形を頭の中で固めて、ユーリは呪文を唱えた。

「エル・カロ」

 ずん、と、手のひらが突然重くなった。
 ばちばちばちっ、と、稲妻が走るような音が響く。

「えっ!?」

 カークが驚愕の声を上げるのが聞こえた。
 ユーリはうっすらと目を開けてみた。自分の手のひらから白い光が放たれて、その光が天井に向かって細く伸びる。

——固まれ固まれ。

 念じると、白い光が徐々に実体を持っていく。ぱちぱちと白い火花を散らしながら、ユーリが想像した通りの杖の形が出来上がっていく。
 やがて、火花が収まるとユーリの手の中にはユーリの身長より大きい真っ白な杖が握られていた。

「うーん……ちょっと大きすぎたかな?」

 自分より頭一つ分くらい大きい杖に、苦笑いを浮かべる。

「でも、僕はこれから成長期だし、すぐにちょうど良くなるよね。うん」

 自分を納得させたユーリが振り向くと、カークが顎が床に着きそうなくらい口を開けてぶるぶる震えていた。そして、いつの間に戻ってきたのか、その隣にビクトルが立っていた。
 彼の抱えていた杖の束が、ばらばらと床に落ちた。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...