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第48話 白い杖
しおりを挟む訓練棟に戻ってきたユーリは新しい杖を持ってくるというビクトルを待っていた。何故かカークも付いてきている。
「杖、かぁ……」
ユーリは溜め息を吐いた。
ユーリは商人の息子だ。物は大切に扱わねばならないと父から教え込まれている。なので、気が重い。これ以上杖を破壊するのは嫌なのだ。
——壊れない杖があればいいのに……普通の杖より数倍丈夫だっていう魔石を練り込んだ杖も一瞬で吹っ飛んだしなぁ……ああもったいない!魔石入りなんて絶対めちゃくちゃ高価なのに!
ユーリは頭を抱えて唸った。
「おい、なんだよ?」
驚いたカークが声を掛けてきて、ユーリは悩みを打ち明けた。
「杖?てっきりさっきの魔石の話で悩んでるかと思ったのによ」
「魔石……ああ、だってあれは、お偉いさん達が考えればいいことでしょ?それより僕は、これ以上杖を壊したくないんだよ!」
魔石は創れと言われたら創ればいいだけだとユーリは思っている。魔力が増幅するなら便利なアイテムみたいなものだろう。
「お前、魔石だぞ魔石?もっと深刻に考えろよ!」
「僕は魔法のことなんか全然知らないんだから、僕が考えたって無駄だよ。それより杖を……」
言い掛けて、ユーリの脳裏にふっとある考えが過ぎった。
——そうだ。魔石が練り込まれた杖は丈夫なんだったら、魔石がたくさん使われているほど壊れにくいはず。でも、魔石は貴重で高価だから、そんな杖は創れない。だけど……
ユーリは自分の手のひらを眺めた。
——僕は魔石を創れるじゃないか!
魔石そのもので杖を創ってしまえば、ユーリの力でも壊れないかもしれない。それに、ユーリが創った魔石ならお金もかからない。試してみる価値はある。
——丸い形じゃなくて、杖の形を想像して……
手のひらを上に向けて、目を閉じて集中しようとしたその時、ユーリの脳裏にふっと夢の光景が蘇った。白い子どもと黒い子どもが持っていた杖。
——そうだ。あれくらい大きかったら、絶対に壊れないはず。
魔石は白いので、上手く出来れば白い子どもが持っていた白い杖そっくりになるはずだ。
完成形を頭の中で固めて、ユーリは呪文を唱えた。
「エル・カロ」
ずん、と、手のひらが突然重くなった。
ばちばちばちっ、と、稲妻が走るような音が響く。
「えっ!?」
カークが驚愕の声を上げるのが聞こえた。
ユーリはうっすらと目を開けてみた。自分の手のひらから白い光が放たれて、その光が天井に向かって細く伸びる。
——固まれ固まれ。
念じると、白い光が徐々に実体を持っていく。ぱちぱちと白い火花を散らしながら、ユーリが想像した通りの杖の形が出来上がっていく。
やがて、火花が収まるとユーリの手の中にはユーリの身長より大きい真っ白な杖が握られていた。
「うーん……ちょっと大きすぎたかな?」
自分より頭一つ分くらい大きい杖に、苦笑いを浮かべる。
「でも、僕はこれから成長期だし、すぐにちょうど良くなるよね。うん」
自分を納得させたユーリが振り向くと、カークが顎が床に着きそうなくらい口を開けてぶるぶる震えていた。そして、いつの間に戻ってきたのか、その隣にビクトルが立っていた。
彼の抱えていた杖の束が、ばらばらと床に落ちた。
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