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第51話 激励
しおりを挟む「あら?」
タッセルの部屋を後にして歩く二人の背に、鈴を転がすような声が掛けられた。
振り向くと、見覚えのある少女が目をきらきらさせてこちらを見ている。
「デューラー様にビークベル様。お久しぶりでございます。私、ハルベリー・モガレアがご挨拶させていただきます」
「ああ、ハルベリー嬢か。ローブ姿だから、一瞬わからなかったよ」
いつもふわふわとしたドレスを身にまとっていた侯爵令嬢が、動きやすそうなローブにすっきりとまとめ上げた髪で微笑んでいる。
妹の親友の登場に、ロシュアも驚いて口を開けた。
「魔法協会に行ったとは聞いていたけれど……」
「ふふふ。私、三年後までに立派に戦えるようになりたいんですの。周囲に眉をひそめられながら頑張っておりますわ」
ハルベリーは可愛らしく微笑みながら言う。
「私が強くなれば、これから英雄をお産みくださるルティア様をお守りすることが出来ますから」
「ルティアのために?」
「もちろん、それもございます。一番は、私が魔王に一太刀浴びせたいという野蛮な動機ですわ」
にこにこ笑うハルベリーに、ロシュアは唖然とした後で肩を落として俯いた。
「ビークベル様?」
「……申し訳ありません。自己嫌悪で……」
侯爵令嬢がここまでしているのに、ルティアの兄である自分は何も出来ていない。そのことに、内心忸怩たるものがある。
自分にも力があったら……いや、今力を持っていなくとも、何かするべきなんじゃないのか。妹を、甥を守るために。
ひたすら自分の無力さを恥じるロシュアに、ハルベリーが微笑みを消してきっと顔を引き締めた。
「しっかりなさいませ、ビークベル様」
ロシュアは顔を上げた。
「貴方はルティア様のたった一人のお兄様ですのよ。貴方にしか出来ないことがこれから先、きっとあるはずです。くよくよと顔を俯けていては、いざすべきことがやってきた時に、見逃してしまいますわ!顔を上げて、しっかりと目を開いていらして!」
ロシュアが目を瞬くと、ハルベリーは再びにっこりと微笑んだ。
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