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第52話 無意識
しおりを挟むせっかく創った杖を使ってみる間もなくまたしても六部卿の前に引き出されて、ユーリは大いに不満だった。
口を尖らせるユーリの横には、何故か巻き込まれたカークも突っ立っている。
ビクトルの震え声の説明を聞いた六部卿は青ざめた顔で頭を抱えてしまった。
「……ユーリ・シュトライザー。その杖を自ら創りだしたというのは本当か?」
大魔法使いシャークローが重々しく尋ねる。ユーリが頷くと、室内の空気がどんどん重くなっていく。
「……うむ。そうか。どうやら、ユーリ・シュトライザーは我々の手に負える存在ではなさそうじゃな」
そう言って溜め息を吐き出す大魔法使いに、当のユーリが目をぱちくりさせた。
手に負えないってなんだ。まだなんの魔法も習っていないのに、いきなりそんな見放すような宣言をされてはたまったものではない。
ユーリの内心の不満に気付いたのか、シャークローがぱたぱた手を振ってみせた。
「お主はこの世の誰よりも素晴らしい力を持っている、ということじゃ。魔石を創れるだけでも驚いたのに、それで杖を創ってしまうとは」
「だって、普通の杖じゃ振っただけで粉々になるんですもん!これぐらい大きくて魔石で出来てれば、普通よりずっと頑丈でしょう!」
これなら壊れないに違いない!と胸を張るユーリに、カークが妙な生き物でも見るような目を寄越す。
「うむ……それで、何か体調に異変はないか?」
急に体調を気遣われて、ユーリは不思議に思いながら首を横に振った。
「そうか。であれば、お主に頼みたいことがある」
シャークローが椅子に座り直し畏まった声で言った。
「一日に二つ、魔石を創ってもらえるかの」
ユーリはぱちりと目を瞬いた。もちろん、創ることは構わないが、二つでいいのだろうか。魔石が魔力を増幅するのなら、たくさん欲しいのではないのか。
ユーリが疑問に思っていると、シャークローが続けて説明した。
「最初に魔石を創ってもらうのに慎重になったのは、魔石とは魂を削って創るものだと言い伝えられておるからじゃ。もしもいっぺんにたくさんの魔石を創らせて、お主の身に何かあっては、ご両親にもレコス王国にも申し開きできぬ。しかし、どうやらそれくらいの大きさの杖を創っても、平気そうにしておるからの」
言われて、ユーリは得意げに杖を持ち上げて見せた。自分より大きな杖だが、不思議と少しも重くない。
「だが、魔石を創ることでもしも僅かにでも疲れや体調の変化を感じた時は、すぐに報告をするのじゃ。それと、その杖は他の誰にも触れさせてはならん。魔石で出来ているなら、触れた人間に影響が出る。絶対に誰にも触れさせないように。よいな」
ユーリは少し顔を引き締めて頷いた。思いつきで杖を創ってしまったが、それが危険な行為だったことがわかった。魂を削って創るということは、もしも自分の能力に余るほどの大きさの魔石を創ろうとしていたら、魂を消耗して命の危機に陥っていたかもしれない。
ユーリは思わず自分の胸に手を当てた。
自分は魔法に関してはまったくの素人だ。途轍もない魔法量を持っていると言われても、思い上がらずにきちんと指示に従って修行していこう。
そう肝に銘じて、ユーリは手の中の杖を見た。
――そういえば、この大きさの杖をずっと持ってるのは少し邪魔だな。
他の人達は杖を腰に下げている。この大きさでは背負うぐらいしか出来ないが、それだと使う時にいちいち降ろすのが面倒くさい。
ふむ。と、唸って、普段はどこか別の場所に置いておいて、使うときにひょいっと取り出せればいいのに。と、ユーリは思った。思っただけだ。
無意識に、どこかの空間にぽつりと置かれている杖を想像しただけだ。
その瞬間、手の中の杖がふっと掻き消えた。
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