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第58話 悪夢
しおりを挟む国王が倒れた。
それを庇うように王妃が身を投げ出して、国王の体に覆い被さる。だが、国王はすでに動かなくなっている。
そして、二人を守るように剣を構えた第二王子が立ちはだかった。
第二王子が何かを叫ぶ。声は聞こえない。青い瞳には驚愕と、不安と、悲しみと憎しみが複雑に絡み合って揺らいでいた。
主君を守るために騎士達が集まってくる。皆口々に何かを叫んでいる。中には、戸惑いの表情を浮かべて剣を持つ手を震わせる者もいる。誰もが動揺を隠しきれていなかった。
王宮の中には血臭が漂っている。ここ以外の惨状はどうなっているのだろう。きっと何人も倒れているに違いない。
何故か音は聞こえない。目の前でこの上なく恐ろしいことが起こっているのに、頭がぼんやりして何も考えられない。
なんだっけ。どうしてこうなったんだっけ。
こんなことはしてはいけない。こんなことは望んでいない。それなのに。
突然、騎士達が吹っ飛んで壁に叩きつけられた。
魔法だ。
第二王子が何かを叫ぶ。
床に倒れ伏した騎士達が血を吐いて苦しんでいる。
第二王子が怒りにまみれた表情で――しかし、涙を流しながら斬りかかってきた。
その時、初めて、彼の叫ぶ声が聞こえた。
「何故なのですかっ!!――兄上っ!!」
弟に斬りかかられても少しも慌てることなく、この国の王太子――ガルヴィード・ヴィンドソーンは口の端を持ち上げて愉快そうに笑った。
目を開けた。
はあはあと、息が荒い。耳の中でどくどくと鼓動が鳴っている。全身が、おびただしい汗で濡れていた。
ガルヴィード・ヴィンドソーンは、たった今見た夢の光景が、三年後に起きる出来事だと目覚めた瞬間に悟った。
一日目に見た光景と全く同じだった。違ったのは、あの三日間の夢では決して見えなかった殺戮者の姿が見えたこと。
王家と主だった貴族を殺し尽くした殺戮者――魔王の姿が。
寝台に横たわり荒い息を吐いたまま、ガルヴィードは夢の光景を頭から打ち払うことが出来なかった。
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