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ドライアグレッション 前
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二日酔いの兆しで頭がガンガンする。昨夜は久しぶりに飲んだ。喉の渇きを覚え、億劫げに身を起こす。
「水……」
ガシャンと鎖が鳴り、手首が後ろに引っ張られた。
手錠?
革製の輪の内側にはファーが装着され、手首を痛めない工夫が施されていた。恐らくソフトSМ用の手錠。通販サイトの写真で見たことがある。
背中に当たるマットレスは弾力に富み、糊の利いたシーツが敷かれていた。足を伸ばして探り、面積の広さに驚く。
遊輔は手錠に繋がれ、ベッドに仰向けていた。
視界は一面真っ黒。目隠しをされている。僅かに感じる濃淡は布を濾して届く室内灯によるもの。
視覚以外の感覚を研ぎ澄まし、雑駁な情報を拾い集める。かすかに空調の音が響く室内は、快適な温度と湿度に保たれていた。余程防音対策がしっかりしてるのか、あるいはマンションの上階に位置するのか、都会に付き物の車の走行音は聞こえない。
犯人は誰だ。フェイクニュースでハメた芸能人、以前捕まったヤクザ、女を寝取ったチンピラ……日頃の行いが悪いせいで心当たりは腐るほど、容疑者を挙げ連ねればきりがない。
落ち着け俺。
これしきで取り乱すな。
布の内側で目を瞑り、深く息を吸って平常心を取り戻す。
拉致監禁されるのは人生三度目。一度目はヤクザ、二度目は半グレ。最初はパイプ椅子に縛り付けられ、次は煙草を押し当てられた。今回はまだマシな方、過去に比べれば丁重な扱いと言える。
とはいえ、危害を加える気がないと油断するのは早計。犯人の目的が掴めぬ現状、判断は保留しておく。
靴は脱がされてるが靴下は穿いたまま、スーツも身に付けている。盗られた物はどうだ、背広の内ポケットに入れてたスマホと財布は無事か。
最悪財布は諦めるにしても、データが詰まったスマホを没収されてはおしまいだ。
敵。
犯人はバンダースナッチの敵対者?
恐ろしい可能性に思い至り血の気が引く。バンダースナッチの正体がバレ、恨みを持ってる人間に襲われたのだとしたら、相棒の身も危ない。
「!っ、」
逃げろと伝えなければ。鎖が許す限界まで引っ張り、背広の内側に手を突っ込もうとする。もうすこしで届きそうで届かない、じれったさに苛立ちが募りゆく。
遊輔を放置する理由はわからない。恐怖を与える為?疑心暗鬼を煽る為?
あんまり考えたくないが、拷問の準備でもしてるのか。
「お目覚めですか」
懐かしい声が不安を消し飛ばす。
「薫!おま、心配させやがって」
反射的に顔を向ける。
「喉渇きましたよね、お水用意しますから」
ベッドがギシッと軋む。片膝を乗り上げた気配。
「ンぐ、」
唇を割る舌。口移しで水を飲まされる。零れた水が喉仏を伝い、首筋を経てシャツに吸われていく。やめろと叫びたくても離れず、性急に嚥下するしかない。
「かはっげほっ」
盛大に噎せた。顔に執拗な視線を感じる。至近距離で観察されてる。
「少しは楽になりましたか」
「悪ふざけはよせ。手錠外せ。目隠しも」
「駄目です」
「お前がやったの」
否定してくれと願い、低く訊く。
「はい」
穏やかに微笑まれた。見ずとも気配だけでわかる。
「覚えてません?俺の肩借りて、酔い潰れて帰宅したでしょ」
「ここは」
「俺の部屋のベッド」
「開かずの間か」
薫のマンションには遊輔が立ち入りを禁じられた部屋がある。電子機器が沢山置いてあるから、というのがその理由だ。故に遊輔はリビングのソファーで寝起きしていた。
「お招き預かり誠に光栄って言いてえとこだが、ちょっとばかし招待の仕方が手荒じゃねえか」
「でしょうね。怒ってますから」
「なんで」
素で返す遊輔に対し、声音が一段冷え込む。
「心当たりありませんか」
「……冷蔵庫のサラダチキン食った」
「はずれ」
「コーヒー豆の補充忘れた」
「違います」
「風呂掃除サボった」
「他には」
「寝煙草でソファー焦がしたの根に持ってんの」
「火事になるんで本当やめてください、スプリンクラー作動しちゃったら大変です」
早々にネタが尽きた。
言葉に詰まる遊輔に向かい、静かに訊く。
「昨日一緒にいたの誰ですか」
「誰って……」
眉間に力を込め、途切れた記憶を辿る。昨日飲んだ相手は……。
「元同僚。週刊リアルの同期」
「仲良さそうでしたね」
「そこそこ」
「付き合いあるなんて意外でした」
「数少ねえ例外。若え頃から妙にウマ合って、今でもたまに飲みに行くんだ。ネタ流してもらえるし助かってる」
「貴重な情報源か」
「やけに突っかかんな」
「わざわざ俺がシフト入ってる『Lewis』に連れてこなくていいと思いますけど」
昨日の夜、数か月ぶりに友人と会った。
場所は薫が勤務する新宿二丁目のバー『Lewis』。入店後はカウンターに並んで座り、浴びるように酒を飲んでお互いの近況を報告し合い、共通の知人の話題で盛り上がった。
談笑中視界の隅に捕らえた薫は、フォーマルなベストに身を包み、ポーカーフェイスで通常業務をこなしていた。
丁寧にグラスを磨き、客が注文する酒を作り、アイスピックで砕いた氷を添えて。
失恋にへこむ常連を慰めるママの傍ら、口コミ経由で来店した女性に爽やかな笑顔を振りまき、フォトジェニックなカクテルを提供していた。
不自然な点といえば、サービス精神旺盛な彼が近寄ってこなかったこと。
普段は目顔で合図を送ってよこしたり特段用がなくても話しかけにくるのに、昨夜は連れに遠慮したのか、必要最低限の接触しか持ってこなかった。
再びベッドが軋む。足でも組んだのか。
「あの人……最上さんでしたっけ、親密な間柄に見えました」
「別に普通」
「高校時代のあだ名知ってたし」
「前飲んだ時ポロッと零しちまったんだよ」
「西高の狂犬の武勇伝聞きたがってましたね。だけど薄情です、酔い潰れた遊輔さんを置いて一人で先に帰っちゃうなんて」
『アパート追い出されたって本当か。今どこ住んでんの』
『知り合いんち』
『女?やるねえ』
『違ェよ』
『金なら貸さねえぞ』
『たかりにきたんじゃねえよ。今はどんなネタ追っかけてんだ』
『返り咲き諦めてねェの』
『単なる好奇心』
『ぬか喜びしちまった、特ダネ手土産に復帰祝いかと』
『お生憎様、あのハゲのツラ見なくてすんでせいせいしてる』
『おいおい風祭、俺と組んでスクープ物にしてきたの忘れたのか』
『昔の話だろ』
『相性ばっちりだったじゃねえか』
目隠しの向こうに不安定な沈黙が落ちる。
「熱心に口説いてましたね」
「妙な言い方すんな、アレはただ」
「ただ?なんですか」
「社交辞令」
「関係持ったんですか」
「あ゛?」
「肩叩いたり背中さわったり、ボディタッチ多かったですね」
「最上はノンケ。俺だって」
「遊輔さんはもうちがうでしょ」
しっとり汗ばむ首に手のひらが触れ、悪戯好きな指が頸動脈をなぞっていく。
「見せ付けにきたんですか」
「薫」
「チラチラ見てたの気付かなかったでしょ、楽しそうにお喋りしてましたもんね。遊輔さん、あんな風に笑うんですね。砕けた感じの笑顔……」
秘めやかな衣擦れの音。長い指を備えた手が背広の前を開き、シャツのボタンを上から順に外していく。
「俺には見せてくれたことなかったのに」
「十年来の付き合いで、ッぁ」
「知ってますよ、俺が小学生の頃から同じ職場にいたんですよね。同じネタ追っかけて、同じ車で張り込みして、同じ町中華でお昼を食べたんですよね」
『知ってるか、吉祥寺の天天が潰れちまったって』
『親父さん年だもんな』
『安くてうまかったのになあ』
『カウンターが油でギトギトの町中華じゃねえと食った気しねえよな』
『わかる』
「盗み聞きしてたのか」
慣れた手は止まらず、するする前をはだけていく。外気に晒された毛穴が縮み、危機感と焦燥が降り積もる。
両手を引っ張ればガキンと鎖が閊え、無慈悲な抵抗が返ってきた。
「その手錠気に入りましたか。嵌め心地はいかがです?サンプル見比べて似合うの選んだんですよ、犬の首輪みたいな黒革の内側にもこもこのファーが付いてて可愛いでしょ、って見えないか残念」
「いい加減にしねえとキレんぞ」
「ああ駄目ですよギュッてしちゃ、手のひらに爪が食いこんで痕が付きます。大事な商売道具なんですから扱いは慎重に」
「どの口がほざく」
「この口が」
腹の上に冷たい固形物が落ちた。
「!!いッ、」
体が勝手に跳ねる。
「冷てっ、ぅあ」
ぬる付く塊を掴み、あっちこっちへ滑らせる。不規則に痙攣する腹筋から鼠径部へ、脇腹を掠めて乳首へ、さらにはぐいぐい押してへそに埋め込む。
「氷ですよ。目隠しされると脳がバグって、ドラッグきめた時と同じ位感覚が増幅されるって知ってました?」
カリッと音がする。薫が氷を噛む。遊輔は肩で息をする。
「何でこんなこと」
「わかってるでしょ」
「最上とよろしくやってたから拗ねてんの?イカレてるぜ、昔馴染みと飲んだだけじゃねーか」
「べたべたしてました」
「俺たちの世代は飲みニケーション兼ねたスキンシップ多くてね。ゆとりは知んねえか」
「円周率は三十桁まで言えます」
「お利口さん」
「即戦力に戻ってほしがってるみたいでした」
「誰も喜ばねー」
「バンダースナッチ辞める相談してたんじゃないんですか」
執拗に問いを重ね、下っ腹を撫で回す。
「俺のこといらなくなっちゃいましたか」
「SМは趣味じゃねえ、とっととこのうざってえ布と手錠外せ」
視覚を封じられたせいで次の行動を予測できず、全身が敏感になる。カリッと小気味よい音をたて、薫が氷を噛む。
また来る。
「~~~~ッぁ」
口内でまろやかに溶かされた氷が、乳首をくにゅりと押し潰す。
「イイ声。感じてます?」
「ねえ、よっ」
「息上がってるじゃないですか、本当は気持ちいいんでしょ」
嘲笑を含んだ声色が鼓膜を嬲る。薫が氷を摘まみ、悩ましい火照りを帯びた体の表面に思うさま滑らせる。
「んッ、く、んンっ」
体の上で氷が溶け、透明な雫が肌を濡らす。唇を噛んで懸命に声を殺すも、乳首の甘噛みと同時に半ば溶けた氷が内腿を下り、たまらず湿った吐息を零す。
「次は下着の中に放り込んであげましょうか。霜焼けになっちゃうかな」
「かお、る、やめ、びちゃびちゃ気持ち悪ぃ」
「やらしいな。滴ってる」
「ふッく、ぅあ」
「今日ばかりは手加減できませんよ、さんざん見せ付けられて我慢の限界なんです」
「最上はただのダチだって言ってんだろ」
「証明できますか」
本当に薫か。
だまされてるんじゃねえか。
薄平べったい布一枚隔て、見えない男に恐怖を感じる。
「時間切れ」
黙り込んだ罰として氷を足し、遊輔の腹に顔を埋め、汗と水が混じった液体を啜り出す。
「なんだってこんなまだるっこしい、ッは、監禁まがいのまね」
「怖いですか。声、震えてますけど」
「誰が」
「甘やかされたセックスしかしてこなかったんでしょ、どうせ」
生唾を飲む音。
「自分がどんだけエロいかっこしてるか気付いてます?シャツの前をだらしなくはだけて、体中溶け残りの氷に濡れて、乳首はピンと尖って」
「詳細な実況やめろ、アダルトビデオの副音声聞いてるみてえで頭が変になる」
「こっちの孔でも感じるかな」
窄めた舌で重点的にへそをほじくり、ズボンの股間にぐりぐり氷を押し込む。
「~~~ィっ、ぐ」
「ちょっと勃ってません?」
今度はズボンの中、下着の中心に来た。一気に肌が粟立ち、ぞくぞく悪寒が駆け抜ける。
意地悪な指が乳首を搾り立て、ねちっこく含み転がし、頭をもたげ始めたペニスをいじくり倒す。
「かお、る、手ェどけろさわんな、ッぐ、はぁ」
ペニスが熱い粘膜に包まれる。一方的なフェラチオ。ご奉仕の有難味とは隔絶し、犯されてる感覚だけが続く。
「蒸れてますね。遊輔さんの匂いがする」
粘着質に唾液を捏ねる音。立ち込める生臭い匂い。シーツを蹴ってあとじされば、すかさず足を掴んで引き戻される。
「ぁ、ぐ」
後ろに回った指がアナルをこじ開け、肉襞をかき混ぜる。内腿に伝い落ちるローションが気色悪い。
「吐きそ……」
「遊輔さん、メスイキしたことないでしょ」
耳朶に絡む吐息。
場違いに優しい声。
ぐぷぐぷ空気を孕んだ音が下半身で鳴り続ける。悪夢じみた行為は生々しい痛みと不快感を伴い、胃袋を締め付ける。
「前もさわってあげなきゃイけないなんて二度手間で面倒」
「してくれなんて頼んでねえ」
「二丁目のウリ専取材した経験あるならメスイキはご存知ですよね。教えてください」
「やだね、痛ッぁ」
ペニスのくびれを掴まれ激痛が走る。
「メスイキは男が女みてえにイくことで、っは、射精を伴わねえドライオーガズムの俗称。対義語はウェットオーガズム」
「よくできました。乳首責めや亀頭責めでも絶頂できるみたいですけど、前立腺刺激が一番手っ取り早いですね」
「詳しいじゃん。説明するまでもなかったな」
「今してるこれは甘出し、連続射精に至る為のテクニック。射精直前に刺激を止めることで精液を小出しにし、アブノーマルな快感を高めるんです。連続して甘出しした後に強い刺激を加えれば、比較的容易にドライオーガズムに結び付きます」
饒舌な語りに交えてぬるぬるペニスを擦り、射精の寸前で止め、カウパーよりなお濃い上澄みを濾し取る。
「最上さんと何話してたんですか」
「ネタ、を、やりとりしただけ。お前が邪推してるようなこと何も」
「バンダースナッチの情報売ろうとしたんじゃないんですか」
『名前位聞いたことあんだろ、財政界の大物や芸能人の悪事を暴く謎の配信者。その正体を巡って論争が繰り広げられてるが、肝心な所は誰も知らねえ。早い話が現代の必殺仕事人、一体どんなヤツなんだろうな』
カクテルを呷り、旧友が口走った言葉を思い出す。
話の飛躍に脱力するも、即座に否定できず空白を生んだのは、一瞬だけ心が動いてしまったから。
結果、早口で取り繕ってボロをだす。
「勘違い。世間話だ」
「バンダースナッチの正体すっぱ抜いたら、週刊リアル復帰どころか全国紙の一面飾れますもんね。マスコミ各社は多額の賞金チラ付かせて情報提供呼びかけてるし、万年金欠の遊輔さんには魅力的なお誘いですよね」
バンダースナッチの正体をめぐる報道合戦は熾烈を極め、どの新聞や雑誌が真っ先に実態を暴き立てるか、マスコミ各社が躍起になっている。
「たれこみゃしねえよ」
「元の職場に未練は」
『お前さ、アングラ方面に詳しいだろ。ヤクザや半グレにコネもあるし、バンダースナッチのネタ出回ってねえか調べてくれよ。礼は弾むぜ』
『戻りてェなら口利いてやる。いい記事書くんだからさ、ド底辺の掃き溜めで腐ってちゃもったいねえよ』
最上は編集長のお気に入りだ。アイツが上手く取り持ってくれれば、非合法な活動から足を洗い、もういちど記者としてやり直せるかもしれない。
「今さら追ん出された古巣に戻るなんざ願い下げ」
「間がありました」
薫は鋭い。表情や声色のごく些細な変化から思考を読み、偽らざる本音を汲む。
「隠し事は無駄です。保身と打算の嘘には慣れてるんです」
動悸。
発汗。
カクテルを攪拌し、キーボードを操作する手が淫らに蠢き、ペニスと乳首を育てていく。
丹念にローションを刷り込み、裏筋を撫で上げ、鈴口が分泌するカウパーを掬って捏ね回す。
「うっ、ぐ」
「噛まないで。声出して」
鎖が軋む音が酷く耳障りだ。視覚を奪われた分、触覚嗅覚聴覚が残忍なまでにクリアに研ぎ澄まされていく。
「眼鏡、は?」
「ちゃんと畳んで置いてるんで大丈夫」
「煙草喫いてえ……」
「集中して」
「ニコチン切れっと禁断症状が」
「余裕ぶっても無駄です。体、震えてますよ。汗もすごい」
「ぁっ」
耳たぶを柔く噛まれ、艶っぽい声を漏らす。長く繊細な指が乳首を揉み、尖りきった先端を引っ掻く。
「痛、ほじんな」
ちゅくちゅく音をたて耳孔を犯す舌。手は股間に潜り、カウパーの濁流にまみれたペニスをしごく。
「大きくなってきた」
「~~~!」
媚肉を畳んだ会陰を圧迫され、前立腺を快感が貫く。気持ち悪い。気持ちいい。後孔に指が抜き差しされる。
「謝るなら今です」
「俺が?お前が?」
漸く搾りだした声はみっともなく掠れ、大人ぶった余裕が剥ぎ取られていた。
「テメエ、が、勝手に妄想してるだけだろ。バンダースナッチのこと漏らしたりしねえよ、こっちだって叩きゃ埃がでる身の上だ」
「貴方が問われる罪はせいぜい身分詐称と不法侵入。俺とは比べ物になりません」
よりリスクを負っているとほのめかし、前立腺を激しくピストン。
「かお、る、抜け、苦しッ、ぁぐ」
二本に増えた指が鉤字に曲がり、肉襞に綴じ込まれた性感帯をじゅぷじゅぷ開発し尽くす。
「ふッ、うぅッ」
「ここに初めて挿れたのが俺だってこと、一生忘れないでくださいね」
排泄器官をこじ開けられる痛み、経験を塗り替えられる恥辱、窄まりをみっちり埋める異物感に吐き気を催す。
「すごいな、絡み付く」
激烈な拒絶反応を起こす心と裏腹に、被虐の快楽に溺れ始めた体は、根元まで沈む指を喰い締める。
「酔い潰れている間に拘束したのは謝ります。こうでもしなきゃ好きにさせてくれないし」
「隙見せんじゃなかった」
上擦った吐息が途切れ、捨て鉢に語尾が萎む。
弱り果てた遊輔をよそに、蒸れた暗闇を越えた声が愉悦を孕む。
「遊輔さんが悪いんですよ、俺の気持ち試すから」
「店に男連れてきたことか」
「俺の目が届く範囲で、他の人と楽しくお喋りなんかしないでくださいよ」
「話さなきゃネタ集めが」
「そのぶん俺が働きます」
平行線だ。薫が遊輔に覆いかぶさり、肌と肌が密着する。脚の間に剛直が押し入り、前立腺をゴリゴリ曳き潰す。
「水……」
ガシャンと鎖が鳴り、手首が後ろに引っ張られた。
手錠?
革製の輪の内側にはファーが装着され、手首を痛めない工夫が施されていた。恐らくソフトSМ用の手錠。通販サイトの写真で見たことがある。
背中に当たるマットレスは弾力に富み、糊の利いたシーツが敷かれていた。足を伸ばして探り、面積の広さに驚く。
遊輔は手錠に繋がれ、ベッドに仰向けていた。
視界は一面真っ黒。目隠しをされている。僅かに感じる濃淡は布を濾して届く室内灯によるもの。
視覚以外の感覚を研ぎ澄まし、雑駁な情報を拾い集める。かすかに空調の音が響く室内は、快適な温度と湿度に保たれていた。余程防音対策がしっかりしてるのか、あるいはマンションの上階に位置するのか、都会に付き物の車の走行音は聞こえない。
犯人は誰だ。フェイクニュースでハメた芸能人、以前捕まったヤクザ、女を寝取ったチンピラ……日頃の行いが悪いせいで心当たりは腐るほど、容疑者を挙げ連ねればきりがない。
落ち着け俺。
これしきで取り乱すな。
布の内側で目を瞑り、深く息を吸って平常心を取り戻す。
拉致監禁されるのは人生三度目。一度目はヤクザ、二度目は半グレ。最初はパイプ椅子に縛り付けられ、次は煙草を押し当てられた。今回はまだマシな方、過去に比べれば丁重な扱いと言える。
とはいえ、危害を加える気がないと油断するのは早計。犯人の目的が掴めぬ現状、判断は保留しておく。
靴は脱がされてるが靴下は穿いたまま、スーツも身に付けている。盗られた物はどうだ、背広の内ポケットに入れてたスマホと財布は無事か。
最悪財布は諦めるにしても、データが詰まったスマホを没収されてはおしまいだ。
敵。
犯人はバンダースナッチの敵対者?
恐ろしい可能性に思い至り血の気が引く。バンダースナッチの正体がバレ、恨みを持ってる人間に襲われたのだとしたら、相棒の身も危ない。
「!っ、」
逃げろと伝えなければ。鎖が許す限界まで引っ張り、背広の内側に手を突っ込もうとする。もうすこしで届きそうで届かない、じれったさに苛立ちが募りゆく。
遊輔を放置する理由はわからない。恐怖を与える為?疑心暗鬼を煽る為?
あんまり考えたくないが、拷問の準備でもしてるのか。
「お目覚めですか」
懐かしい声が不安を消し飛ばす。
「薫!おま、心配させやがって」
反射的に顔を向ける。
「喉渇きましたよね、お水用意しますから」
ベッドがギシッと軋む。片膝を乗り上げた気配。
「ンぐ、」
唇を割る舌。口移しで水を飲まされる。零れた水が喉仏を伝い、首筋を経てシャツに吸われていく。やめろと叫びたくても離れず、性急に嚥下するしかない。
「かはっげほっ」
盛大に噎せた。顔に執拗な視線を感じる。至近距離で観察されてる。
「少しは楽になりましたか」
「悪ふざけはよせ。手錠外せ。目隠しも」
「駄目です」
「お前がやったの」
否定してくれと願い、低く訊く。
「はい」
穏やかに微笑まれた。見ずとも気配だけでわかる。
「覚えてません?俺の肩借りて、酔い潰れて帰宅したでしょ」
「ここは」
「俺の部屋のベッド」
「開かずの間か」
薫のマンションには遊輔が立ち入りを禁じられた部屋がある。電子機器が沢山置いてあるから、というのがその理由だ。故に遊輔はリビングのソファーで寝起きしていた。
「お招き預かり誠に光栄って言いてえとこだが、ちょっとばかし招待の仕方が手荒じゃねえか」
「でしょうね。怒ってますから」
「なんで」
素で返す遊輔に対し、声音が一段冷え込む。
「心当たりありませんか」
「……冷蔵庫のサラダチキン食った」
「はずれ」
「コーヒー豆の補充忘れた」
「違います」
「風呂掃除サボった」
「他には」
「寝煙草でソファー焦がしたの根に持ってんの」
「火事になるんで本当やめてください、スプリンクラー作動しちゃったら大変です」
早々にネタが尽きた。
言葉に詰まる遊輔に向かい、静かに訊く。
「昨日一緒にいたの誰ですか」
「誰って……」
眉間に力を込め、途切れた記憶を辿る。昨日飲んだ相手は……。
「元同僚。週刊リアルの同期」
「仲良さそうでしたね」
「そこそこ」
「付き合いあるなんて意外でした」
「数少ねえ例外。若え頃から妙にウマ合って、今でもたまに飲みに行くんだ。ネタ流してもらえるし助かってる」
「貴重な情報源か」
「やけに突っかかんな」
「わざわざ俺がシフト入ってる『Lewis』に連れてこなくていいと思いますけど」
昨日の夜、数か月ぶりに友人と会った。
場所は薫が勤務する新宿二丁目のバー『Lewis』。入店後はカウンターに並んで座り、浴びるように酒を飲んでお互いの近況を報告し合い、共通の知人の話題で盛り上がった。
談笑中視界の隅に捕らえた薫は、フォーマルなベストに身を包み、ポーカーフェイスで通常業務をこなしていた。
丁寧にグラスを磨き、客が注文する酒を作り、アイスピックで砕いた氷を添えて。
失恋にへこむ常連を慰めるママの傍ら、口コミ経由で来店した女性に爽やかな笑顔を振りまき、フォトジェニックなカクテルを提供していた。
不自然な点といえば、サービス精神旺盛な彼が近寄ってこなかったこと。
普段は目顔で合図を送ってよこしたり特段用がなくても話しかけにくるのに、昨夜は連れに遠慮したのか、必要最低限の接触しか持ってこなかった。
再びベッドが軋む。足でも組んだのか。
「あの人……最上さんでしたっけ、親密な間柄に見えました」
「別に普通」
「高校時代のあだ名知ってたし」
「前飲んだ時ポロッと零しちまったんだよ」
「西高の狂犬の武勇伝聞きたがってましたね。だけど薄情です、酔い潰れた遊輔さんを置いて一人で先に帰っちゃうなんて」
『アパート追い出されたって本当か。今どこ住んでんの』
『知り合いんち』
『女?やるねえ』
『違ェよ』
『金なら貸さねえぞ』
『たかりにきたんじゃねえよ。今はどんなネタ追っかけてんだ』
『返り咲き諦めてねェの』
『単なる好奇心』
『ぬか喜びしちまった、特ダネ手土産に復帰祝いかと』
『お生憎様、あのハゲのツラ見なくてすんでせいせいしてる』
『おいおい風祭、俺と組んでスクープ物にしてきたの忘れたのか』
『昔の話だろ』
『相性ばっちりだったじゃねえか』
目隠しの向こうに不安定な沈黙が落ちる。
「熱心に口説いてましたね」
「妙な言い方すんな、アレはただ」
「ただ?なんですか」
「社交辞令」
「関係持ったんですか」
「あ゛?」
「肩叩いたり背中さわったり、ボディタッチ多かったですね」
「最上はノンケ。俺だって」
「遊輔さんはもうちがうでしょ」
しっとり汗ばむ首に手のひらが触れ、悪戯好きな指が頸動脈をなぞっていく。
「見せ付けにきたんですか」
「薫」
「チラチラ見てたの気付かなかったでしょ、楽しそうにお喋りしてましたもんね。遊輔さん、あんな風に笑うんですね。砕けた感じの笑顔……」
秘めやかな衣擦れの音。長い指を備えた手が背広の前を開き、シャツのボタンを上から順に外していく。
「俺には見せてくれたことなかったのに」
「十年来の付き合いで、ッぁ」
「知ってますよ、俺が小学生の頃から同じ職場にいたんですよね。同じネタ追っかけて、同じ車で張り込みして、同じ町中華でお昼を食べたんですよね」
『知ってるか、吉祥寺の天天が潰れちまったって』
『親父さん年だもんな』
『安くてうまかったのになあ』
『カウンターが油でギトギトの町中華じゃねえと食った気しねえよな』
『わかる』
「盗み聞きしてたのか」
慣れた手は止まらず、するする前をはだけていく。外気に晒された毛穴が縮み、危機感と焦燥が降り積もる。
両手を引っ張ればガキンと鎖が閊え、無慈悲な抵抗が返ってきた。
「その手錠気に入りましたか。嵌め心地はいかがです?サンプル見比べて似合うの選んだんですよ、犬の首輪みたいな黒革の内側にもこもこのファーが付いてて可愛いでしょ、って見えないか残念」
「いい加減にしねえとキレんぞ」
「ああ駄目ですよギュッてしちゃ、手のひらに爪が食いこんで痕が付きます。大事な商売道具なんですから扱いは慎重に」
「どの口がほざく」
「この口が」
腹の上に冷たい固形物が落ちた。
「!!いッ、」
体が勝手に跳ねる。
「冷てっ、ぅあ」
ぬる付く塊を掴み、あっちこっちへ滑らせる。不規則に痙攣する腹筋から鼠径部へ、脇腹を掠めて乳首へ、さらにはぐいぐい押してへそに埋め込む。
「氷ですよ。目隠しされると脳がバグって、ドラッグきめた時と同じ位感覚が増幅されるって知ってました?」
カリッと音がする。薫が氷を噛む。遊輔は肩で息をする。
「何でこんなこと」
「わかってるでしょ」
「最上とよろしくやってたから拗ねてんの?イカレてるぜ、昔馴染みと飲んだだけじゃねーか」
「べたべたしてました」
「俺たちの世代は飲みニケーション兼ねたスキンシップ多くてね。ゆとりは知んねえか」
「円周率は三十桁まで言えます」
「お利口さん」
「即戦力に戻ってほしがってるみたいでした」
「誰も喜ばねー」
「バンダースナッチ辞める相談してたんじゃないんですか」
執拗に問いを重ね、下っ腹を撫で回す。
「俺のこといらなくなっちゃいましたか」
「SМは趣味じゃねえ、とっととこのうざってえ布と手錠外せ」
視覚を封じられたせいで次の行動を予測できず、全身が敏感になる。カリッと小気味よい音をたて、薫が氷を噛む。
また来る。
「~~~~ッぁ」
口内でまろやかに溶かされた氷が、乳首をくにゅりと押し潰す。
「イイ声。感じてます?」
「ねえ、よっ」
「息上がってるじゃないですか、本当は気持ちいいんでしょ」
嘲笑を含んだ声色が鼓膜を嬲る。薫が氷を摘まみ、悩ましい火照りを帯びた体の表面に思うさま滑らせる。
「んッ、く、んンっ」
体の上で氷が溶け、透明な雫が肌を濡らす。唇を噛んで懸命に声を殺すも、乳首の甘噛みと同時に半ば溶けた氷が内腿を下り、たまらず湿った吐息を零す。
「次は下着の中に放り込んであげましょうか。霜焼けになっちゃうかな」
「かお、る、やめ、びちゃびちゃ気持ち悪ぃ」
「やらしいな。滴ってる」
「ふッく、ぅあ」
「今日ばかりは手加減できませんよ、さんざん見せ付けられて我慢の限界なんです」
「最上はただのダチだって言ってんだろ」
「証明できますか」
本当に薫か。
だまされてるんじゃねえか。
薄平べったい布一枚隔て、見えない男に恐怖を感じる。
「時間切れ」
黙り込んだ罰として氷を足し、遊輔の腹に顔を埋め、汗と水が混じった液体を啜り出す。
「なんだってこんなまだるっこしい、ッは、監禁まがいのまね」
「怖いですか。声、震えてますけど」
「誰が」
「甘やかされたセックスしかしてこなかったんでしょ、どうせ」
生唾を飲む音。
「自分がどんだけエロいかっこしてるか気付いてます?シャツの前をだらしなくはだけて、体中溶け残りの氷に濡れて、乳首はピンと尖って」
「詳細な実況やめろ、アダルトビデオの副音声聞いてるみてえで頭が変になる」
「こっちの孔でも感じるかな」
窄めた舌で重点的にへそをほじくり、ズボンの股間にぐりぐり氷を押し込む。
「~~~ィっ、ぐ」
「ちょっと勃ってません?」
今度はズボンの中、下着の中心に来た。一気に肌が粟立ち、ぞくぞく悪寒が駆け抜ける。
意地悪な指が乳首を搾り立て、ねちっこく含み転がし、頭をもたげ始めたペニスをいじくり倒す。
「かお、る、手ェどけろさわんな、ッぐ、はぁ」
ペニスが熱い粘膜に包まれる。一方的なフェラチオ。ご奉仕の有難味とは隔絶し、犯されてる感覚だけが続く。
「蒸れてますね。遊輔さんの匂いがする」
粘着質に唾液を捏ねる音。立ち込める生臭い匂い。シーツを蹴ってあとじされば、すかさず足を掴んで引き戻される。
「ぁ、ぐ」
後ろに回った指がアナルをこじ開け、肉襞をかき混ぜる。内腿に伝い落ちるローションが気色悪い。
「吐きそ……」
「遊輔さん、メスイキしたことないでしょ」
耳朶に絡む吐息。
場違いに優しい声。
ぐぷぐぷ空気を孕んだ音が下半身で鳴り続ける。悪夢じみた行為は生々しい痛みと不快感を伴い、胃袋を締め付ける。
「前もさわってあげなきゃイけないなんて二度手間で面倒」
「してくれなんて頼んでねえ」
「二丁目のウリ専取材した経験あるならメスイキはご存知ですよね。教えてください」
「やだね、痛ッぁ」
ペニスのくびれを掴まれ激痛が走る。
「メスイキは男が女みてえにイくことで、っは、射精を伴わねえドライオーガズムの俗称。対義語はウェットオーガズム」
「よくできました。乳首責めや亀頭責めでも絶頂できるみたいですけど、前立腺刺激が一番手っ取り早いですね」
「詳しいじゃん。説明するまでもなかったな」
「今してるこれは甘出し、連続射精に至る為のテクニック。射精直前に刺激を止めることで精液を小出しにし、アブノーマルな快感を高めるんです。連続して甘出しした後に強い刺激を加えれば、比較的容易にドライオーガズムに結び付きます」
饒舌な語りに交えてぬるぬるペニスを擦り、射精の寸前で止め、カウパーよりなお濃い上澄みを濾し取る。
「最上さんと何話してたんですか」
「ネタ、を、やりとりしただけ。お前が邪推してるようなこと何も」
「バンダースナッチの情報売ろうとしたんじゃないんですか」
『名前位聞いたことあんだろ、財政界の大物や芸能人の悪事を暴く謎の配信者。その正体を巡って論争が繰り広げられてるが、肝心な所は誰も知らねえ。早い話が現代の必殺仕事人、一体どんなヤツなんだろうな』
カクテルを呷り、旧友が口走った言葉を思い出す。
話の飛躍に脱力するも、即座に否定できず空白を生んだのは、一瞬だけ心が動いてしまったから。
結果、早口で取り繕ってボロをだす。
「勘違い。世間話だ」
「バンダースナッチの正体すっぱ抜いたら、週刊リアル復帰どころか全国紙の一面飾れますもんね。マスコミ各社は多額の賞金チラ付かせて情報提供呼びかけてるし、万年金欠の遊輔さんには魅力的なお誘いですよね」
バンダースナッチの正体をめぐる報道合戦は熾烈を極め、どの新聞や雑誌が真っ先に実態を暴き立てるか、マスコミ各社が躍起になっている。
「たれこみゃしねえよ」
「元の職場に未練は」
『お前さ、アングラ方面に詳しいだろ。ヤクザや半グレにコネもあるし、バンダースナッチのネタ出回ってねえか調べてくれよ。礼は弾むぜ』
『戻りてェなら口利いてやる。いい記事書くんだからさ、ド底辺の掃き溜めで腐ってちゃもったいねえよ』
最上は編集長のお気に入りだ。アイツが上手く取り持ってくれれば、非合法な活動から足を洗い、もういちど記者としてやり直せるかもしれない。
「今さら追ん出された古巣に戻るなんざ願い下げ」
「間がありました」
薫は鋭い。表情や声色のごく些細な変化から思考を読み、偽らざる本音を汲む。
「隠し事は無駄です。保身と打算の嘘には慣れてるんです」
動悸。
発汗。
カクテルを攪拌し、キーボードを操作する手が淫らに蠢き、ペニスと乳首を育てていく。
丹念にローションを刷り込み、裏筋を撫で上げ、鈴口が分泌するカウパーを掬って捏ね回す。
「うっ、ぐ」
「噛まないで。声出して」
鎖が軋む音が酷く耳障りだ。視覚を奪われた分、触覚嗅覚聴覚が残忍なまでにクリアに研ぎ澄まされていく。
「眼鏡、は?」
「ちゃんと畳んで置いてるんで大丈夫」
「煙草喫いてえ……」
「集中して」
「ニコチン切れっと禁断症状が」
「余裕ぶっても無駄です。体、震えてますよ。汗もすごい」
「ぁっ」
耳たぶを柔く噛まれ、艶っぽい声を漏らす。長く繊細な指が乳首を揉み、尖りきった先端を引っ掻く。
「痛、ほじんな」
ちゅくちゅく音をたて耳孔を犯す舌。手は股間に潜り、カウパーの濁流にまみれたペニスをしごく。
「大きくなってきた」
「~~~!」
媚肉を畳んだ会陰を圧迫され、前立腺を快感が貫く。気持ち悪い。気持ちいい。後孔に指が抜き差しされる。
「謝るなら今です」
「俺が?お前が?」
漸く搾りだした声はみっともなく掠れ、大人ぶった余裕が剥ぎ取られていた。
「テメエ、が、勝手に妄想してるだけだろ。バンダースナッチのこと漏らしたりしねえよ、こっちだって叩きゃ埃がでる身の上だ」
「貴方が問われる罪はせいぜい身分詐称と不法侵入。俺とは比べ物になりません」
よりリスクを負っているとほのめかし、前立腺を激しくピストン。
「かお、る、抜け、苦しッ、ぁぐ」
二本に増えた指が鉤字に曲がり、肉襞に綴じ込まれた性感帯をじゅぷじゅぷ開発し尽くす。
「ふッ、うぅッ」
「ここに初めて挿れたのが俺だってこと、一生忘れないでくださいね」
排泄器官をこじ開けられる痛み、経験を塗り替えられる恥辱、窄まりをみっちり埋める異物感に吐き気を催す。
「すごいな、絡み付く」
激烈な拒絶反応を起こす心と裏腹に、被虐の快楽に溺れ始めた体は、根元まで沈む指を喰い締める。
「酔い潰れている間に拘束したのは謝ります。こうでもしなきゃ好きにさせてくれないし」
「隙見せんじゃなかった」
上擦った吐息が途切れ、捨て鉢に語尾が萎む。
弱り果てた遊輔をよそに、蒸れた暗闇を越えた声が愉悦を孕む。
「遊輔さんが悪いんですよ、俺の気持ち試すから」
「店に男連れてきたことか」
「俺の目が届く範囲で、他の人と楽しくお喋りなんかしないでくださいよ」
「話さなきゃネタ集めが」
「そのぶん俺が働きます」
平行線だ。薫が遊輔に覆いかぶさり、肌と肌が密着する。脚の間に剛直が押し入り、前立腺をゴリゴリ曳き潰す。
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