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後日談 組紐連理
長い旅が終わった。
世田谷一等地のタワマンに到着後、足早にロビーを抜けエレベーターに乗り込む。四十四階で下りれば金属プレートを嵌めたドアが出迎え、ようやっと帰ってきた実感が湧き上がった。
「ただいま」
TSSのアルファベットをなぞり、独りごちる。
「邪魔」
俺の感慨を完膚なきまでぶち壊し、空気の読めない関西人が鍵を回す。
電気を点けたら空っぽのオフィスが照らされた。さすがセキュリティ万全のタワマン、空き巣が入った形跡なし。
「シャワー借りていい?汗べとべとだ、着替えてえ」
塩をふいたTシャツを嗅ぎ、大袈裟に顔をしかめる。茶倉はビニール袋をあさりながら、こっちを見もせず「ええよ」と言った。お許しをもらったので、オフィスとドア一枚で仕切られたプライベートルームに行く。
ここはTSSのオフィス兼茶倉の自宅だ。もっとも立ち入りは許可されてねえ、茶倉が女を連れ込み俺を除霊するのは事務所のソファーと決まってる。
浴室のドアを開け、シャワーのコックを捻る。上向けた顔に温かい湯を浴びりゃ、溜まった疲れが洗い流され生き返る心地がした。
「っと、シャンプーどれ?まあいいか適当で」
洗面台の前に並んだボトルのうち、ほぼ直感でゴージャスな金色の瓶をとり、手のひらに噴射した液体をのばす。高級シャンプーっぽくフローラルな香りが鼻腔を突くが、泡立ちはいまいちだ。
スポンジでごしごし体の表裏を擦る。本音を言えば風呂に浸かりたいが、人んちでそれは控えた。親しき仲にも礼儀あり、一番風呂は家主に譲りてえ。
仄白い湯気に包まれて脱衣所に出れば、もふもふのガウンが用意されていた。
「海外ドラマで金持ちがよく着てるヤツだ」
ちょっとはしゃいで羽織ってみる。肌ざわりのよさにうっとり。鏡に決め角度を映し見とれてたら、背後に白けた様子の茶倉が立っていた。
「あー……」
気まずい。
襟を閉じて愛想笑い。
「お前んちすげーな、ボディソープ無駄にいい匂いしたし。あ、シャンプーは泡立ち悪かったぜ」
「どのボトル使た?」
「金色の」
「そらコンディショナーや」
「ああ……」
「石鹸で洗とるなら知らんでも無理ない。お前んち元事故物件家賃三万円代のボロアパートやもんな、質素倹約は貧乏人の美徳」
「俺はリンスインシャンプー一択なの、リンスとシャンプー一緒にできて捗るじゃん」
「インしとる時点で一択ちゃうやろ。ちなみにうちのコンディショナーはサロンで買うとる一本三万の高級品」
「育毛剤でも入ってんの」
めっちゃ一杯出しちまったのは内緒にしとこ。
「来い」
だしぬけに右手を掴まれた。数珠が水滴を弾いて輝き、心臓が大きくはねる。
「俺がシャワー浴びてる間に一杯やってたな、ずりいぞ。ビールは冷蔵庫入れといたか、外置いとくとすぐぬるくなっちまうから」
茶倉はオフィスに戻らない。バスルームを出た足で寝室へ直行し、俺をベッドに押し倒す。倒れ込んだはずみにガウンの前が開き、裸の上半身が暴かれた。
暗い天井を背負った茶倉が、目だけで悪戯っぽくほくそえむ。
「バスん中で言うたこと、忘れてもた?」
「っ……」
「新幹線の中でも我慢した。タクシーん中でも我慢した。これ以上待たせるんは殺生やで」
「アレは言葉の綾で……本気?いやでもだって」
「いやなん?」
「改まってヤんの初だし。ちゃんとしたベッドで……普段はもっと扱い雑じゃん、オフィスのソファーに転がしてピストンマシーンみたいにガツガツ突いて」
「訂正せい、何がなんぼでもピストンマシーンよりテクあるわ」
怒るのそこ?俺は耳まで真っ赤に染め、顔の横に寝かせた手をグーパーする。
暗闇にぼんやり浮かび上がる部屋は広い。カーテンを引いてない窓からは東京の街灯りが見下ろせた。茶倉の匂いが染み付いた部屋とベッドに胸が高鳴り、顔がますます熱を帯びる。
「酔っ払ってもたら勃たんやろ」
「シャワー譲ったのはこの為か、策士め」
コイツが優しいとなんか変な感じ。
丁寧に扱われんのに慣れてねえからくすぐったいってか、冗談みたいに思えてならねえ。
背中にあたるベッドは柔らかく弾力に富み、どこまでも沈んでいきそうでちょっと怖い。
「茶倉」
小さく名前を呼び、抱っこをねだるガキみたいに手を伸ばす。茶倉が背広を脱いでネクタイを緩める。性急な手付きでボタンを外し、シャツを脱ぎ捨て、俺の顔をぶにゅりと手挟む。
「辛抱できん。ずっとむらむらしとった」
気持ちは同じだ。帰りのバスの中で新幹線の中でタクシーの中で、ずっと悩ましい疼きと火照りを持て余してた。ふと右手首に目が行く。
「これって除霊?まだそんな濁ってねェけど」
「黙れ」
「んッ、」
柔い唇をこじ開け情熱的な舌が忍び込む。
敏感な粘膜をこねくり回され、噎せ返りそうに唾液があふれる。
茶倉の手が胸板を這い回り、乳首を軽く抓り、根元から搾り立てるようにしごきだす。
「うっ、ぁっく」
丁寧に時間をかけた前戯に調子が狂い、声が切なく上擦る。茶倉がうざったげにネクタイを抜き去り、ワイシャツを投げ捨てる。暗闇の中に浮かぶ上半身はしなやかに引き締まり、とても綺麗だった。
「ちゃく、ら、ッそこ、ぁあっあっすげっいっ、もっとさわって」
「乳首責められて感じとるん?変態」
ふらちな唇がじらし上手の緩慢さで仰け反る首筋から鎖骨へ移り、ちりちり熱を煽っていく。シーツを爪先に巻き込んでよがり、無意識に首の後ろに腕を回してかき抱く。
「お前ッ、の、そこっ、あぁあっすげッ的確っ、で、もたねっ」
「すぐ爆ぜそうやな」
「ぁあっあッ、あッぁっ」
股間はパンパンに膨らんでいた。茶倉の手が下着をずらし、先走りに塗れたペニスを揉みくちゃにする。目をキツく閉じて快楽をやり過ごそうとするうち、瞼の裏の闇にガキが浮かんできた。灰色の着物を羽織り、暗闇で膝を抱えた少年……縣。
「ちゃく、ら」
茶倉の顔を手挟み、正面に固定する。
虚を突かれた表情が愛しくていじらしくて、唇を塞ぐ。
「ッは……はは」
ドケチでイケズであこぎなお前になんか、意地でもびびってやるもんか。
「言ったよな、俺に何がわかるって。わかんねえよ、だから話せよ。俺はどうがんばってもお前と会ってからたった十年ぽっちで、それ以前の事なんか知りようねーんだよ。でもじゃあお前のばあちゃんやきゅうせん様は、俺たちがタッグを組んで悪霊蹴散らしてきた十年間の何を知ってんだよ」
お前がひとり孤独と暗闇に耐えて来た年月に、俺とさんざん馬鹿やった十年が劣るなんて絶対認めねえ。
「お前のばあちゃんはお前がカラオケで般若心経唄ったこと知ってんの?鳥葬の丘に飛ばされた事は、カラスにモツ食われた事は、一緒にういを救った事は、俺と板尾と三人でカウンターに並んでラーメン食った事は?替え玉のやり方教えてやったら驚いてたじゃん、座敷童子がでる旅館にも行ったよな、卒塔婆ビルの化け猫成仏させたよな、相生峠で香典まいて運転手とっちめたよな、全部全部お前にとっちゃどうでもいい事なのか、違うだろそうじゃねえ、俺とお前がTSSでやってきた事は」
そこで唐突に、TSSの名前の由来を思い出す。
「茶倉とスペシャルな助っ人のスペシャルな十年で、暗闇なんか蹴っ飛ばそうぜ」
隣にいてやれなかった頃のぶんまで、今のお前をあっためてやる。
「小便たれだろうが豆電なきゃ寝れなかろうが引くか、むしろ萌えたよ、そん位の可愛げなきゃ完璧すぎてムカツクし……弱み握ってんのはお互い様」
どんな表情をすべきか決めあぐねた茶倉の顔を挟んで潰し、まっすぐ目を見る。
「俺ん中にはきゅうせん様がおる」
「ああ」
「化け物や。人ちゃうで」
「それが?」
「化け物に抱かれるんやで。苗床にされるんや。お前ん事めちゃくちゃに抱き潰して、腹ン中に種付けして、正視にたえんゲテモノ産ませるかもわからん。日水村の縣は皆壊れた、人のまんまじゃもたへんかった。お前が山で言うたとおり吐き気を催す鬼畜な所業や。しまいには気が狂うて、抱かれた事も出会うた事も全部ナシにしたなる。きっとそうなるわかんねん、俺かて俺が気持ち悪いやめられるもんならやめたいねん、もうどん引きやこんなんまともじゃいられへんやろ、なんぼ女を抱いたかてジブンが人もどきの半端もんて思い知らされるだけや、人でも化け物でもないどっち付かずのゲテモノやねんしょせん、抱いても抱いても胸ん中すーすーして虚しゅうなんねん」
「お前がゲテモノなら、俺はイロモノだな」
繋がる事でしか証だてられねえなら上等だ。
うちひしがれた茶倉を抱き寄せ、頭をなでてやる。
「くれよ」
本当の事を言えば、ちょっとは怖い。
茶倉の体内に巣食った化け物への嫌悪の感情は完全に封じきれず、虚勢を張るのに苦労した。それでも全部受け止めてやると覚悟を決め、薬指に薬指を絡め、優しく揺する。
「ゆびきりげんまん嘘吐いたら針千本のーます」
「……なんやねんいきなり」
「まだ足りねえ?疑い深いな」
不敵に笑って床をまさぐり、ズボンのポケットから伸びた組紐を巻き取り、互いの薬指に結ぶ。軽く引っ張りゃ抵抗を感じた。
「茶倉」
「理一」
運命の組紐が薬指と薬指を結ぶ。茶倉がゆっくり前傾し、俺ん中に入ってくる。
「ッ、キツ」
こじ開けられる痛みと異物感が圧迫感に取って代わり、茶倉の額を汗が伝っていく。
「っは、あッあッ、でかっ気持ちィっ、ぁっあ」
組紐がピンと張り詰める。茶倉が動き出す。
的確に前立腺を突き、肉襞をかきまぜ、時には腰を抉り込むように深く打ち込み、時には浅く速く出し入れし、俺の前に手をやってちゅくちゅくペニスをもてあそぶ。
「すご、めっちゃあふれてくる」
「ぁっ、あっ、ンあっ、ふあっ、ひっあ」
体がおかしくなってる。繋がった部位がドロドロに溶けて肉が交わり、狂ったみたいに腰が跳ね回る。
茶倉の中に何かがいる蠢いている苗床にされる恐怖と嫌悪が膨れ上がりがむしゃらに手を伸ばす、強く強く抱き付いてキツくキツく縋り付いて俺の腕の中に茶倉を囲い込む。
「きゅうせんッ、さまっ、聞こえてるか、っは、ぁあん、お前なんか怖くねっ、ぁあッあ、茶倉は渡さねッ、ぁッやだそこっ、ンあっふ、コイツは俺のっ、ふぁああっイくっ無理もっイっちゃ、しゃべってんだからちょっ待ッぁぁんっ」
「無茶すな、舌噛むで」
「最後まで言わせっ、はふっ、茶倉は俺の、ッだ、ふぁッあっ出るッ、今からコイツにいっぱい入れて出してもらうからっ、ぁあっあちゃくらもっ奥ずこばこ、ゴリゴリされンの好きッ、ぁっ前立腺くるっ、よすぎて止まんねぁあっあっ」
組紐が突っ張り震え、腰を打ち付ける動きが加速する。
切なげに顔を歪めた茶倉と肌を重ね、互いの唇をはみあい、窄めた舌を夢中で啄む。
「お前のちんぽでっか、すげえイイっこれ好きっイッちゃ」
「ド淫乱が。他の男の下でもケツ振っとるくせに」
「お前が好きっ、一番好きっ」
俺と茶倉は相性ぴったりだ、肌と肌が擦れるたび強烈な快感が爆ぜて中が痙攣を起こす。
「ぁぁぁ―――――――――――――――――――ッ……」
絶頂に至るのは同時。
茶倉が俺の体奥に射精し、萎えた陰茎を抜くのに伴い白濁がこぼれでる。気配が離れて行くのを察し、数珠を巻いた左手首を掴む。
茶倉の瞳に戸惑いの片鱗が浮かぶ。無言で後ろに回り、ミミズによく似た傷痕が刻まれた背中に凝視を注ぐ。
そして、キスをした。
「っ、」
露骨な拒絶反応。
動揺露わに振り向こうとするのを制し、肉が赤黒く隆起した痕を唇でなぞっていく。
「痛てえの痛てえのとんでけ」
小声で癒し、傷痕に口付け、所在なげに蹲る背中を包む。
「よく頑張ったな」
縣と茶倉がだぶって見えた。
後ろ髪をわしゃわしゃかきまぜ、うなだれた肩にコトンと額をあて、組紐を結んだ指の股に指を噛ませる。
「俺をイかせたのはお前だ、茶倉。数多の女を泣かせてきた絶品テクと絶倫生ちんぽ最高だったぜ、きゅうせん様なんか目じゃねえよ」
「最ッ低の褒め言葉やな、嬉しゅうないわ」
「にやけてんぞ」
「嘘やろ」
「嘘」
急にこそばゆくなった。普段は俺だけ脱がされてっから、全裸で向き合うと落ち着かねえ。
「風邪ひくから着よっか」
「せやね」
ベッドでマッパで睨めっこ。お見合いかよ、と突っ込みたくなる。傍目にゃ随分間抜けな光景だろうなと想像したら笑えてきた。
茶倉も同じ事を思ったのか、お互い俯いて吹き出すのを堪え、微妙な雰囲気を引きずったまま服を身に付けていく。
「っと、おい」
「すまん、繋いだままなん忘れとった」
「絶対わざと引っ張ったろ」
「頼んでへんのに勝手に結んだんやん、はよほどけ」
「お前がほどけ」
「は?そっちがせい」
「さてはほどかれんのが寂しいんだな」
「うぬぼれんな」
いかにも不機嫌そうに吐き捨てる。全くもって素直じゃねえ。
寝室の電気を点け、並んでベッドに腰掛ける。
「そうだ」
大事な忘れ物に気付いて脱衣所に取って返す。寝室で待ってた茶倉が、俺の手の中の手紙に目をとめる。
隣に座り直し便箋を開く。バスん中で新幹線の中でタクシーの中で、何遍も繰り返し読んでるうちにすっかり暗記しちまったお礼状を、茶倉と一緒に覗き込む。
―――――――――――――――――――――――――――――
TSS様のお兄さんたちへ
警察の人たちがいっぱいで、ゆっくりお別れするひまがなさそうだからお礼の手紙を書きます。
えりなを助けるためにいっぱいがんばってくれたって、おまわりさんから聞きました。
本当にありがとうございます。
むずかしいことはまだ聞かせてもらってないけど、二人のおかげで無事家に帰れることはわかりました。
TSSの人たちにだけ特別に打ち明けます。
真っ暗な地下牢にとじこめられて、ずっと目隠しされて、ホントは死ぬほどさみしくてこわかった。
もう一生お父さんにもお母さんにも会えないんじゃないか、おうちに帰れないんじゃないかって頭がぐるぐるしてたの。
犯人のおじさんがなんでこんな事したかわかりません。まわりの人はイケニエがどうとか言ってた。おばあちゃんがおじさんを手伝った理由も……死んじゃったんだよね、ふたりとも。
私が今生きてるのは、TSSの人たちがいたからです。
茶倉さんと鳥丸さんは命の恩人です。
牢屋で泣いてた時、もうだめかもしれないって諦めかけた時、鳥丸さんがきてくれました。
大丈夫って言ってもらえてうれしかった。
あの時の鳥丸さん、クラスで一番イケメンなサッカー部の大河内くんよりかっこよかったよ。
ちょっとだけドキドキした。
茶倉さん、逃げろって言ってくれてありがとうね。色々考えてくれたんだよね。鳥丸さんに聞きました。ミミズのおばけと戦ってるとこ、かっこよかった。
すごく強いんだね。
目はだんだん治るだろうって警察の人たちが言ってました、だから心配しないでください。
しばらくはオレンジの豆電を点けて寝ます。真っ暗は怖いもん。お父さんお母さんはえりなの好きにしなさいって言ってくれました。
日水村で二人に会えてよかった。
お礼したいけどお金がないので、代わりに手紙をおくります。
もしもこのさき元気がなくなることがあったら、私のことを思い出してね。
TSSのファン 萩原えりなより
―――――――――――――――――――――――――――――
「名前、トリマルになっとる」
「最年少のファンだな」
「十八歳未満は対象外」
「お前はラブレターって言ったけど、やっぱこれ俺達二人宛のファンレターだよ」
「クラス一イケメンの大河内くんよりかっこええて書いてあるやん、罪作りな」
「小学生と張り合って勝ってもビミョーじゃね?」
「それはそやな」
「額に入れて飾っとく?」
「元気がでるまじないか」
仰向けに倒れ、永久保存版の手紙を頭上に翳す。茶倉が隣に寝転がり、見とれちまうくらい甘い笑顔を浮かべる。
「あんまし妬かすな」
便箋に綴られた文章を読み返すたびじんわり胸がぬくもり、顔がだらしなくにやけるのを止めらんねえ。
「そういや茶倉、文彦さんの霊って俺の中からでてったんだよな」
「だとしたら?」
「あ~いや、何も感じなかったし多分もういねえと思うし思いてえけどもしいたら」
「あーはいはい、知らんでずこばこしたら気まずいもんな。アレは一時的に下ろしただけ、とっくにぬけとる」
「よかった」
大袈裟に胸をなでおろしたのち向き直り、コイツに抱かれてる間中脳裏を離れなかった疑問を呈す。
「なー茶倉、俺のことどうおもってる?」
「なんやねんやぶからぼうに」
腐れ縁。助手。セフレ。パシリ。
俺たちの関係を表す言葉はたくさんあるが、どれに括っても違和感を覚えちまうのはなんでなのか。
「ノンケがノリノリでゲイ抱くとかおかしいじゃん、前から不思議だったんだよ、いくら除霊ったって女好きなヤツが男抱けるもんか?実は両刀ってオチ?」
「除霊ちゃうねんのにお前みたいなガバケツド淫乱抱くほど落ちぶれてへん」
即座に否定されカチンときた。正座で居直り畳みかける。
「じゃあなんでびんびんに勃ってんだよ、俺だけ特別って事?ヤる前にバイアグライッキしてんなら筋通るけど」
「金縛りとおんなしや、霊力通して固ゥしとんねん無理矢理」
「マジ!?」
「別にエロいさかい興奮しとるとか泣かせたなるとかちゃうで、俺の下半身は個人の好みと関係のゥ悪霊追んだす除霊棒、カッチカチの避霊針やねん。待てよ針は語弊あるな、もっと太いな」
「お前にとって俺ってなんなわけ?」
茶倉は言った。
ぶーたれた俺の首の後ろに手を回し、図太くしぶとくしたたかな、これぞ茶倉練と言いたくなるあっぱれな笑顔で。
「豆電」
後日、えりなちゃんの手紙はオフィスの机の一番上の抽斗にしまわれた。
世田谷一等地のタワマンに到着後、足早にロビーを抜けエレベーターに乗り込む。四十四階で下りれば金属プレートを嵌めたドアが出迎え、ようやっと帰ってきた実感が湧き上がった。
「ただいま」
TSSのアルファベットをなぞり、独りごちる。
「邪魔」
俺の感慨を完膚なきまでぶち壊し、空気の読めない関西人が鍵を回す。
電気を点けたら空っぽのオフィスが照らされた。さすがセキュリティ万全のタワマン、空き巣が入った形跡なし。
「シャワー借りていい?汗べとべとだ、着替えてえ」
塩をふいたTシャツを嗅ぎ、大袈裟に顔をしかめる。茶倉はビニール袋をあさりながら、こっちを見もせず「ええよ」と言った。お許しをもらったので、オフィスとドア一枚で仕切られたプライベートルームに行く。
ここはTSSのオフィス兼茶倉の自宅だ。もっとも立ち入りは許可されてねえ、茶倉が女を連れ込み俺を除霊するのは事務所のソファーと決まってる。
浴室のドアを開け、シャワーのコックを捻る。上向けた顔に温かい湯を浴びりゃ、溜まった疲れが洗い流され生き返る心地がした。
「っと、シャンプーどれ?まあいいか適当で」
洗面台の前に並んだボトルのうち、ほぼ直感でゴージャスな金色の瓶をとり、手のひらに噴射した液体をのばす。高級シャンプーっぽくフローラルな香りが鼻腔を突くが、泡立ちはいまいちだ。
スポンジでごしごし体の表裏を擦る。本音を言えば風呂に浸かりたいが、人んちでそれは控えた。親しき仲にも礼儀あり、一番風呂は家主に譲りてえ。
仄白い湯気に包まれて脱衣所に出れば、もふもふのガウンが用意されていた。
「海外ドラマで金持ちがよく着てるヤツだ」
ちょっとはしゃいで羽織ってみる。肌ざわりのよさにうっとり。鏡に決め角度を映し見とれてたら、背後に白けた様子の茶倉が立っていた。
「あー……」
気まずい。
襟を閉じて愛想笑い。
「お前んちすげーな、ボディソープ無駄にいい匂いしたし。あ、シャンプーは泡立ち悪かったぜ」
「どのボトル使た?」
「金色の」
「そらコンディショナーや」
「ああ……」
「石鹸で洗とるなら知らんでも無理ない。お前んち元事故物件家賃三万円代のボロアパートやもんな、質素倹約は貧乏人の美徳」
「俺はリンスインシャンプー一択なの、リンスとシャンプー一緒にできて捗るじゃん」
「インしとる時点で一択ちゃうやろ。ちなみにうちのコンディショナーはサロンで買うとる一本三万の高級品」
「育毛剤でも入ってんの」
めっちゃ一杯出しちまったのは内緒にしとこ。
「来い」
だしぬけに右手を掴まれた。数珠が水滴を弾いて輝き、心臓が大きくはねる。
「俺がシャワー浴びてる間に一杯やってたな、ずりいぞ。ビールは冷蔵庫入れといたか、外置いとくとすぐぬるくなっちまうから」
茶倉はオフィスに戻らない。バスルームを出た足で寝室へ直行し、俺をベッドに押し倒す。倒れ込んだはずみにガウンの前が開き、裸の上半身が暴かれた。
暗い天井を背負った茶倉が、目だけで悪戯っぽくほくそえむ。
「バスん中で言うたこと、忘れてもた?」
「っ……」
「新幹線の中でも我慢した。タクシーん中でも我慢した。これ以上待たせるんは殺生やで」
「アレは言葉の綾で……本気?いやでもだって」
「いやなん?」
「改まってヤんの初だし。ちゃんとしたベッドで……普段はもっと扱い雑じゃん、オフィスのソファーに転がしてピストンマシーンみたいにガツガツ突いて」
「訂正せい、何がなんぼでもピストンマシーンよりテクあるわ」
怒るのそこ?俺は耳まで真っ赤に染め、顔の横に寝かせた手をグーパーする。
暗闇にぼんやり浮かび上がる部屋は広い。カーテンを引いてない窓からは東京の街灯りが見下ろせた。茶倉の匂いが染み付いた部屋とベッドに胸が高鳴り、顔がますます熱を帯びる。
「酔っ払ってもたら勃たんやろ」
「シャワー譲ったのはこの為か、策士め」
コイツが優しいとなんか変な感じ。
丁寧に扱われんのに慣れてねえからくすぐったいってか、冗談みたいに思えてならねえ。
背中にあたるベッドは柔らかく弾力に富み、どこまでも沈んでいきそうでちょっと怖い。
「茶倉」
小さく名前を呼び、抱っこをねだるガキみたいに手を伸ばす。茶倉が背広を脱いでネクタイを緩める。性急な手付きでボタンを外し、シャツを脱ぎ捨て、俺の顔をぶにゅりと手挟む。
「辛抱できん。ずっとむらむらしとった」
気持ちは同じだ。帰りのバスの中で新幹線の中でタクシーの中で、ずっと悩ましい疼きと火照りを持て余してた。ふと右手首に目が行く。
「これって除霊?まだそんな濁ってねェけど」
「黙れ」
「んッ、」
柔い唇をこじ開け情熱的な舌が忍び込む。
敏感な粘膜をこねくり回され、噎せ返りそうに唾液があふれる。
茶倉の手が胸板を這い回り、乳首を軽く抓り、根元から搾り立てるようにしごきだす。
「うっ、ぁっく」
丁寧に時間をかけた前戯に調子が狂い、声が切なく上擦る。茶倉がうざったげにネクタイを抜き去り、ワイシャツを投げ捨てる。暗闇の中に浮かぶ上半身はしなやかに引き締まり、とても綺麗だった。
「ちゃく、ら、ッそこ、ぁあっあっすげっいっ、もっとさわって」
「乳首責められて感じとるん?変態」
ふらちな唇がじらし上手の緩慢さで仰け反る首筋から鎖骨へ移り、ちりちり熱を煽っていく。シーツを爪先に巻き込んでよがり、無意識に首の後ろに腕を回してかき抱く。
「お前ッ、の、そこっ、あぁあっすげッ的確っ、で、もたねっ」
「すぐ爆ぜそうやな」
「ぁあっあッ、あッぁっ」
股間はパンパンに膨らんでいた。茶倉の手が下着をずらし、先走りに塗れたペニスを揉みくちゃにする。目をキツく閉じて快楽をやり過ごそうとするうち、瞼の裏の闇にガキが浮かんできた。灰色の着物を羽織り、暗闇で膝を抱えた少年……縣。
「ちゃく、ら」
茶倉の顔を手挟み、正面に固定する。
虚を突かれた表情が愛しくていじらしくて、唇を塞ぐ。
「ッは……はは」
ドケチでイケズであこぎなお前になんか、意地でもびびってやるもんか。
「言ったよな、俺に何がわかるって。わかんねえよ、だから話せよ。俺はどうがんばってもお前と会ってからたった十年ぽっちで、それ以前の事なんか知りようねーんだよ。でもじゃあお前のばあちゃんやきゅうせん様は、俺たちがタッグを組んで悪霊蹴散らしてきた十年間の何を知ってんだよ」
お前がひとり孤独と暗闇に耐えて来た年月に、俺とさんざん馬鹿やった十年が劣るなんて絶対認めねえ。
「お前のばあちゃんはお前がカラオケで般若心経唄ったこと知ってんの?鳥葬の丘に飛ばされた事は、カラスにモツ食われた事は、一緒にういを救った事は、俺と板尾と三人でカウンターに並んでラーメン食った事は?替え玉のやり方教えてやったら驚いてたじゃん、座敷童子がでる旅館にも行ったよな、卒塔婆ビルの化け猫成仏させたよな、相生峠で香典まいて運転手とっちめたよな、全部全部お前にとっちゃどうでもいい事なのか、違うだろそうじゃねえ、俺とお前がTSSでやってきた事は」
そこで唐突に、TSSの名前の由来を思い出す。
「茶倉とスペシャルな助っ人のスペシャルな十年で、暗闇なんか蹴っ飛ばそうぜ」
隣にいてやれなかった頃のぶんまで、今のお前をあっためてやる。
「小便たれだろうが豆電なきゃ寝れなかろうが引くか、むしろ萌えたよ、そん位の可愛げなきゃ完璧すぎてムカツクし……弱み握ってんのはお互い様」
どんな表情をすべきか決めあぐねた茶倉の顔を挟んで潰し、まっすぐ目を見る。
「俺ん中にはきゅうせん様がおる」
「ああ」
「化け物や。人ちゃうで」
「それが?」
「化け物に抱かれるんやで。苗床にされるんや。お前ん事めちゃくちゃに抱き潰して、腹ン中に種付けして、正視にたえんゲテモノ産ませるかもわからん。日水村の縣は皆壊れた、人のまんまじゃもたへんかった。お前が山で言うたとおり吐き気を催す鬼畜な所業や。しまいには気が狂うて、抱かれた事も出会うた事も全部ナシにしたなる。きっとそうなるわかんねん、俺かて俺が気持ち悪いやめられるもんならやめたいねん、もうどん引きやこんなんまともじゃいられへんやろ、なんぼ女を抱いたかてジブンが人もどきの半端もんて思い知らされるだけや、人でも化け物でもないどっち付かずのゲテモノやねんしょせん、抱いても抱いても胸ん中すーすーして虚しゅうなんねん」
「お前がゲテモノなら、俺はイロモノだな」
繋がる事でしか証だてられねえなら上等だ。
うちひしがれた茶倉を抱き寄せ、頭をなでてやる。
「くれよ」
本当の事を言えば、ちょっとは怖い。
茶倉の体内に巣食った化け物への嫌悪の感情は完全に封じきれず、虚勢を張るのに苦労した。それでも全部受け止めてやると覚悟を決め、薬指に薬指を絡め、優しく揺する。
「ゆびきりげんまん嘘吐いたら針千本のーます」
「……なんやねんいきなり」
「まだ足りねえ?疑い深いな」
不敵に笑って床をまさぐり、ズボンのポケットから伸びた組紐を巻き取り、互いの薬指に結ぶ。軽く引っ張りゃ抵抗を感じた。
「茶倉」
「理一」
運命の組紐が薬指と薬指を結ぶ。茶倉がゆっくり前傾し、俺ん中に入ってくる。
「ッ、キツ」
こじ開けられる痛みと異物感が圧迫感に取って代わり、茶倉の額を汗が伝っていく。
「っは、あッあッ、でかっ気持ちィっ、ぁっあ」
組紐がピンと張り詰める。茶倉が動き出す。
的確に前立腺を突き、肉襞をかきまぜ、時には腰を抉り込むように深く打ち込み、時には浅く速く出し入れし、俺の前に手をやってちゅくちゅくペニスをもてあそぶ。
「すご、めっちゃあふれてくる」
「ぁっ、あっ、ンあっ、ふあっ、ひっあ」
体がおかしくなってる。繋がった部位がドロドロに溶けて肉が交わり、狂ったみたいに腰が跳ね回る。
茶倉の中に何かがいる蠢いている苗床にされる恐怖と嫌悪が膨れ上がりがむしゃらに手を伸ばす、強く強く抱き付いてキツくキツく縋り付いて俺の腕の中に茶倉を囲い込む。
「きゅうせんッ、さまっ、聞こえてるか、っは、ぁあん、お前なんか怖くねっ、ぁあッあ、茶倉は渡さねッ、ぁッやだそこっ、ンあっふ、コイツは俺のっ、ふぁああっイくっ無理もっイっちゃ、しゃべってんだからちょっ待ッぁぁんっ」
「無茶すな、舌噛むで」
「最後まで言わせっ、はふっ、茶倉は俺の、ッだ、ふぁッあっ出るッ、今からコイツにいっぱい入れて出してもらうからっ、ぁあっあちゃくらもっ奥ずこばこ、ゴリゴリされンの好きッ、ぁっ前立腺くるっ、よすぎて止まんねぁあっあっ」
組紐が突っ張り震え、腰を打ち付ける動きが加速する。
切なげに顔を歪めた茶倉と肌を重ね、互いの唇をはみあい、窄めた舌を夢中で啄む。
「お前のちんぽでっか、すげえイイっこれ好きっイッちゃ」
「ド淫乱が。他の男の下でもケツ振っとるくせに」
「お前が好きっ、一番好きっ」
俺と茶倉は相性ぴったりだ、肌と肌が擦れるたび強烈な快感が爆ぜて中が痙攣を起こす。
「ぁぁぁ―――――――――――――――――――ッ……」
絶頂に至るのは同時。
茶倉が俺の体奥に射精し、萎えた陰茎を抜くのに伴い白濁がこぼれでる。気配が離れて行くのを察し、数珠を巻いた左手首を掴む。
茶倉の瞳に戸惑いの片鱗が浮かぶ。無言で後ろに回り、ミミズによく似た傷痕が刻まれた背中に凝視を注ぐ。
そして、キスをした。
「っ、」
露骨な拒絶反応。
動揺露わに振り向こうとするのを制し、肉が赤黒く隆起した痕を唇でなぞっていく。
「痛てえの痛てえのとんでけ」
小声で癒し、傷痕に口付け、所在なげに蹲る背中を包む。
「よく頑張ったな」
縣と茶倉がだぶって見えた。
後ろ髪をわしゃわしゃかきまぜ、うなだれた肩にコトンと額をあて、組紐を結んだ指の股に指を噛ませる。
「俺をイかせたのはお前だ、茶倉。数多の女を泣かせてきた絶品テクと絶倫生ちんぽ最高だったぜ、きゅうせん様なんか目じゃねえよ」
「最ッ低の褒め言葉やな、嬉しゅうないわ」
「にやけてんぞ」
「嘘やろ」
「嘘」
急にこそばゆくなった。普段は俺だけ脱がされてっから、全裸で向き合うと落ち着かねえ。
「風邪ひくから着よっか」
「せやね」
ベッドでマッパで睨めっこ。お見合いかよ、と突っ込みたくなる。傍目にゃ随分間抜けな光景だろうなと想像したら笑えてきた。
茶倉も同じ事を思ったのか、お互い俯いて吹き出すのを堪え、微妙な雰囲気を引きずったまま服を身に付けていく。
「っと、おい」
「すまん、繋いだままなん忘れとった」
「絶対わざと引っ張ったろ」
「頼んでへんのに勝手に結んだんやん、はよほどけ」
「お前がほどけ」
「は?そっちがせい」
「さてはほどかれんのが寂しいんだな」
「うぬぼれんな」
いかにも不機嫌そうに吐き捨てる。全くもって素直じゃねえ。
寝室の電気を点け、並んでベッドに腰掛ける。
「そうだ」
大事な忘れ物に気付いて脱衣所に取って返す。寝室で待ってた茶倉が、俺の手の中の手紙に目をとめる。
隣に座り直し便箋を開く。バスん中で新幹線の中でタクシーの中で、何遍も繰り返し読んでるうちにすっかり暗記しちまったお礼状を、茶倉と一緒に覗き込む。
―――――――――――――――――――――――――――――
TSS様のお兄さんたちへ
警察の人たちがいっぱいで、ゆっくりお別れするひまがなさそうだからお礼の手紙を書きます。
えりなを助けるためにいっぱいがんばってくれたって、おまわりさんから聞きました。
本当にありがとうございます。
むずかしいことはまだ聞かせてもらってないけど、二人のおかげで無事家に帰れることはわかりました。
TSSの人たちにだけ特別に打ち明けます。
真っ暗な地下牢にとじこめられて、ずっと目隠しされて、ホントは死ぬほどさみしくてこわかった。
もう一生お父さんにもお母さんにも会えないんじゃないか、おうちに帰れないんじゃないかって頭がぐるぐるしてたの。
犯人のおじさんがなんでこんな事したかわかりません。まわりの人はイケニエがどうとか言ってた。おばあちゃんがおじさんを手伝った理由も……死んじゃったんだよね、ふたりとも。
私が今生きてるのは、TSSの人たちがいたからです。
茶倉さんと鳥丸さんは命の恩人です。
牢屋で泣いてた時、もうだめかもしれないって諦めかけた時、鳥丸さんがきてくれました。
大丈夫って言ってもらえてうれしかった。
あの時の鳥丸さん、クラスで一番イケメンなサッカー部の大河内くんよりかっこよかったよ。
ちょっとだけドキドキした。
茶倉さん、逃げろって言ってくれてありがとうね。色々考えてくれたんだよね。鳥丸さんに聞きました。ミミズのおばけと戦ってるとこ、かっこよかった。
すごく強いんだね。
目はだんだん治るだろうって警察の人たちが言ってました、だから心配しないでください。
しばらくはオレンジの豆電を点けて寝ます。真っ暗は怖いもん。お父さんお母さんはえりなの好きにしなさいって言ってくれました。
日水村で二人に会えてよかった。
お礼したいけどお金がないので、代わりに手紙をおくります。
もしもこのさき元気がなくなることがあったら、私のことを思い出してね。
TSSのファン 萩原えりなより
―――――――――――――――――――――――――――――
「名前、トリマルになっとる」
「最年少のファンだな」
「十八歳未満は対象外」
「お前はラブレターって言ったけど、やっぱこれ俺達二人宛のファンレターだよ」
「クラス一イケメンの大河内くんよりかっこええて書いてあるやん、罪作りな」
「小学生と張り合って勝ってもビミョーじゃね?」
「それはそやな」
「額に入れて飾っとく?」
「元気がでるまじないか」
仰向けに倒れ、永久保存版の手紙を頭上に翳す。茶倉が隣に寝転がり、見とれちまうくらい甘い笑顔を浮かべる。
「あんまし妬かすな」
便箋に綴られた文章を読み返すたびじんわり胸がぬくもり、顔がだらしなくにやけるのを止めらんねえ。
「そういや茶倉、文彦さんの霊って俺の中からでてったんだよな」
「だとしたら?」
「あ~いや、何も感じなかったし多分もういねえと思うし思いてえけどもしいたら」
「あーはいはい、知らんでずこばこしたら気まずいもんな。アレは一時的に下ろしただけ、とっくにぬけとる」
「よかった」
大袈裟に胸をなでおろしたのち向き直り、コイツに抱かれてる間中脳裏を離れなかった疑問を呈す。
「なー茶倉、俺のことどうおもってる?」
「なんやねんやぶからぼうに」
腐れ縁。助手。セフレ。パシリ。
俺たちの関係を表す言葉はたくさんあるが、どれに括っても違和感を覚えちまうのはなんでなのか。
「ノンケがノリノリでゲイ抱くとかおかしいじゃん、前から不思議だったんだよ、いくら除霊ったって女好きなヤツが男抱けるもんか?実は両刀ってオチ?」
「除霊ちゃうねんのにお前みたいなガバケツド淫乱抱くほど落ちぶれてへん」
即座に否定されカチンときた。正座で居直り畳みかける。
「じゃあなんでびんびんに勃ってんだよ、俺だけ特別って事?ヤる前にバイアグライッキしてんなら筋通るけど」
「金縛りとおんなしや、霊力通して固ゥしとんねん無理矢理」
「マジ!?」
「別にエロいさかい興奮しとるとか泣かせたなるとかちゃうで、俺の下半身は個人の好みと関係のゥ悪霊追んだす除霊棒、カッチカチの避霊針やねん。待てよ針は語弊あるな、もっと太いな」
「お前にとって俺ってなんなわけ?」
茶倉は言った。
ぶーたれた俺の首の後ろに手を回し、図太くしぶとくしたたかな、これぞ茶倉練と言いたくなるあっぱれな笑顔で。
「豆電」
後日、えりなちゃんの手紙はオフィスの机の一番上の抽斗にしまわれた。
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