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亮が特別に教えてくれた。
最初の犯行は17の時。叔母は事故死じゃなかった、アイツがやったんだ。長期休暇でたまたま帰ってた時に、階段から突き落とした。結果、打ち所が悪くて即死。ツイてないよな。明確な殺意があったかどうか……
「兄さんの事で喧嘩になって、カッときた」
本腰入れて俺をさがそうとしない叔母にじれて、毎度の如くやりあって、しまいにキレた。
叔母の死には事件性がないと判断された。ぶっちゃけ自首しても大した罪にはならなかった、13の時からされてきた事を考えりゃ情状酌量だよ。
でもね。アレでうじうじ女々しい奴だから、内心ずっと気に病んでたんだ。自分が叔母さんを殺したって……
だから言ってやったんだ。「お前のせいじゃないよ」って。
あんたが何もしないならここを出て一人でさがすと言って反対されて叔母を突き飛ばしたのも、俺のハメ撮り動画にキレて林と柿沼と曽我部に殺し屋を差し向けたのも、全部巡り合わせが悪かっただけでお前はちっとも悪くないんだって慰めてやった。
そんなわけあるかよ。
全部お前が悪いんだよ。
亮は俺に、俺だけに謝ってた。叔母さんも林たちもどうでもいい、俺に申し訳ない、自分のせいで兄さんの人生めちゃくちゃだと泣いて詫びていた。
……なあ記者さん、『チューベローズ』読んだんだよな。主人公の独白……アレ全部亮の写しだよ。聞いたままを書いたんだ。
書いてる途中で亮が泣きだして代筆どころじゃなくなったから、慰めてやった。アイツは俺に逆らえない。俺とのセックスに溺れて、引き返せない位おかしくなってた。
亮は服を脱がなかった。なんでだろうな、今さら恥ずかしがることもないのに。俺は全部見せてるのに……見られちまったのに。
亮のそばで亮がすらすら諳んじる文章を打ち込んで、どこまでいってもコイツにはかなわないって思い知らされた。
結局の所俺の小説は全部昔読んだ本の焼き直しで、亮みたいなオリジナリティーはなかったんだ。亮の小説には問答無用で読者を引きずり込む力があった。広く訴えたいメッセージがあった。
俺はただ、俺を見てほしかっただけ。作文上手だねって褒めてほしかっただけ。
それだけ。
兄さんに裏切られました。
記者さん……片桐景文をどうおもいましたか?何回も面会してるならいい加減気付きましたよね。あの人は被害者ぶるのが上手いけど、それは計算ずくなんです。
考えてもみてください。なんで兄は8年ぶりに弟に会うのに、パーカーとジーンズだったんでしょうか。
まあ、あの服で仕事に行ってたみたいだから考えすぎかもしれないけど……俺が仕立てたスーツは結局一回も着てくれなかったな。
最近考えるんです。
兄さんはひょっとして、自分がみすぼらしく見えるように計算してたんじゃないかって。同情を誘って金を引き出す為に。記者さんは8年ぶりに兄弟と会うのに、そんな恰好でいきますか?
募金した……本人がそういったんですか。じゃあ考えすぎかな。
俺が駅を通った時は募金なんかしてなかったけど、入れ違いになったんですかね。
俺が知ってる兄さん。SМ男娼デリヘル『チューベローズ』一番の売れっ子。鎖骨に花のタトゥー。乳首にリングピアス。小説家志望。一人暮らし。加瀬とデキてた。サイトの掲載写真は眼鏡オフ。
プロフィール曰く、嫌いなものはマドレーヌとパスタとキッシュ。好きなものは放置プレイと窒息プレイ。備考欄に「ひとりっ子」と追記あり。
あの人は息をするように嘘を吐く。
子どもの頃からそうだった。
……叔母を殺したのは、ずっと前に言われた事を覚えてたからです。
『叔母さんは金持ちだから、叔母さんちの子になれば遊んで暮らせる。叔母さんが死んだらお前は大金持ちだ。その金でお兄ちゃんを助けてくれ』
叔母さえいなくなれば、遺産を好きに使って兄をさがせる。兄さんをさがしだして一緒に暮らせる。
だから俺は。
……油断したのがいけなかった。
セックスを終えて眠りに落ちて、次に目が覚めたら兄さんはいなくなってた。スマホも消えてた。加瀬に連絡をとったと直感して、燃える血が逆流しました。
行き先はアパートしか思い付かない。慌てて追いかけた。なんで戻ったんだ、そんなに加瀬がいいのか、俺じゃだめなのかって胸の内で叫んだ。車から降り立ち階段を駆け上がり、施錠もされてないドアを開けた。
「兄さん!!」
夕闇迫る殺風景な部屋の中、布団の上。加瀬が兄さんに跨って首を絞めてた。兄さんは苦しみもがいて、
「っ、ぐ」
さよならするように、手の指を第二関節まで曲げて。
靴のまま上がり込んで、テーブル上のノートパソコンを掴んで、加瀬を殴打した。一撃で手ごたえがあった。加瀬は前方に突っ伏し、兄さんは間一髪息を吹き返す。
「生きてた……」
激しく咳き込む兄さんの背中をさすり、落ち着くのを待って加瀬を見る。既に事切れていた。
俺が殺したんです、記者さん。一人殺したら何人でも一緒だから……
可哀想に、片桐亮はマスコミの食い物にされた。
こっちはいい迷惑だよ。住んでた部屋を殺人現場にされ、挙句愛用のパソコンを凶器に使われて。
証拠物件として警察に押収されちゃあもうもどってこないよな。どのみち壊れてるか。
何か言いたそうだな記者さん。事件の顛末に納得してないのか?
しかたない、あんたとの付き合いもこれで最後だ。取材も今日で最終回、疑問に答えてやるよ。
まずはおさらい。容疑者は小説家の片桐亮、被害者は半グレ……もとい無職の加瀬明。事件発生日は11月10日未明。さらに亮には余罪がある、逮捕後に叔母殺しと林・柿沼・曽我部の委託殺人を自供したんだ。
亮は主犯、俺は従犯。死体遺棄を手伝っただけじゃ大した罪に問われない。亮の車で死体とスコップを運んで、奥多摩の林に埋めただけ。
ベストセラー作家が犯人の猟奇殺人なんて話題性抜群だろ、世間様がほうっておかない。片桐亮は今じゃ一種のカリスマ、悲劇のヒーローだ。
生まれ付いての天才。幼くして両親と死別。叔母の養子となるも13から17まで性的虐待をうけ続けた。
みんな大好きだろ、不幸で可哀想な過去持ちのシリアルキラー。おまけに顔がよいときた。
世間の連中……特に女は同情的だ。兄貴の復讐を代行するなんてあっぱれだって、ネットじゃ絶賛されてるらしいな。
亮が事件の直前に書き上げて出版社に送った小説は『チューベローズ』のタイトルで無事世にでた。
それでめでたしめでたしじゃだめなのか。これ以上何を知りたいんだ。
……矛盾してる?
俺が危ない時にのんびり続きを書くわけない?それ以前に、右手を怪我してたのに書けるわけないって?そうだな、もし完結したならそういったはずだな。
なんでアパートのドアが開いてたのか?
先輩が殴り込んでくる予想をしてたのに、鍵をかけなかったのか?
バールのようなものでこじ開けられたっていうのはどうだ。そんな痕跡ない?冗談だって、言ってみただけ。
なるほど、記者さんはわざと開けっ放しにしてたって思ってるんだ。
じゃないと亮が入ってきて、都合よくヤッてる所を目撃できないもんな。
おいおい、俺が先輩を唆したってのか?さすがに勘繰りすぎだ。プロフィール……ああ、窒息プレイの事ね。俺が頼んだとでも?
ていうか……俺の方から呼び出したって、マジでそこまで考えてる?
証拠がなけりゃただの妄想だ。スマホは見付かってない。
あんたは多分こう考えてるんだろうな、主犯と従犯が逆じゃないかって。兄貴が全部仕組んで、弟ははめられただけじゃないかって。
全部結果論でしかない。
百歩譲って俺が焚き付けたんだとしても、アイツがパソコンで先輩の頭をかち割るのは想定外だ。
そうだろ?ちがうか?それとも本当は逆で、嫉妬で理性が飛んだ亮が先輩と揉み合ってる隙に……。
……あ。
あー……盲点だった。手に怪我した亮がパソコン持ち上げるのはホネだよな。
仮に持ち上げるだけなら可能でも致命傷は与えられない。
亮はなんて?脳内麻薬で痛みが麻痺した?……はは。一人殺すも二人殺すも同じ、四人も五人も大して変わらないってか。
五人殺したら、死刑確定だよな。
四人でも同じか。
最初の質問覚えてるか?俺が房で読んでるのは『チューベローズ』、片桐亮が作家生活に終止符を打った本。
記者さんは疑ってるんだね、本当に亮が書いたのか。
亮がまだ寝てるうちに、俺が結末まで持ってったんじゃないかって。
『チューベローズ』のラストで衝撃の事実が判明する。斡旋人を殺したのは実は姉貴で、主人公は真犯人を庇って死刑を求刑される。
どうなるもこうなるもここで終わりだ。俺は天才じゃないから、バッドエンドなんだ。
片桐靖奈。林洋平。柿沼昴。曽我部龍太郎。加瀬明。
以上五名、俺が殺しました。兄さんは嘘吐きです。あの人の偽証を真に受けないでください。
何年も何年も酷いことされ続けて、壊れちゃったんです。
加瀬の性器を切除したのも俺です。『チューベローズ』の主人公にならったんです。
あんな汚いモノが好きな人に出たり入ったりしてたなんて、許せないじゃないか。
記者さんは想像力逞しいですね、景文を庇ったなんて本気で思ってるんですか。
俺が殺人を委託した業者にも裏がとれたでしょ?叔母の家から加瀬の性器が押収されたでしょ?
ほら、証拠はそろってる。
やったのは俺です。
俺はいいんです、夢が叶ったから。もういちど兄さんに会うためだけに生きてきたから。
叔母を殺したのは兄さんが帰ってこれる場所を作りたかったから。
でもそれ、縛り付けるのと同じですよね。
あんなに憎んでたのに、俺は叔母のやり方でしか好きな人を愛せない人間に成り下がってたんです。
独房にひとりになると考えちゃうんです。
俺が家を捨てて、どこか遠い場所で兄さんと暮らしたいって言ったらOKもらえたのかなって。
なんで呼ぼうとしたのかな。閉じ込めようとしたのかな。俺は兄さんと逃げる覚悟がなくて、だから兄さんはどん底まで転がり落ちて、バッドエンドしか書けなくなっちゃったんだ。
本当はハッピーエンドが書ける人なのに。
……違います。違いました。兄さんはまだ書けるんです、生きてる限り続くんです。
刑務所をでたら、きっと傑作が書けます。俺は信じてる。
唯一にして最大の後悔がそれですよ、兄さんの新作を読まずに死ぬこと。
俺の死刑が何年後何か月後になるかわからないけど、兄さんにはなるべく早く出所して、今度こそハッピーエンドを書いてもらわなきゃいけない。
俺、片桐景文のファンなんです。
ただ一人の。
……記者さんにお願いです。あなたが気付いた事、どうか警察には言わないでください。記事にもしないで。
取材を受けといて勝手なお願いなのは重々承知です。それが無理だっていうなら、兄が小説を書き上げるまで待ってください。
そっちの方が衝撃度が上がって売れるでしょ?悪い取引じゃないはずです。
……仕方ない。特別ですよ。
色んな記者さんが取材を申し込んできたけど、これを見せるのはあなたが最初で最後です。
兄が……景文が言ってませんでした?俺はセックスの時、絶対脱がないって。内緒で彫ったんですよ、おそろいの場所に。
チューベローズ。
最初の犯行は17の時。叔母は事故死じゃなかった、アイツがやったんだ。長期休暇でたまたま帰ってた時に、階段から突き落とした。結果、打ち所が悪くて即死。ツイてないよな。明確な殺意があったかどうか……
「兄さんの事で喧嘩になって、カッときた」
本腰入れて俺をさがそうとしない叔母にじれて、毎度の如くやりあって、しまいにキレた。
叔母の死には事件性がないと判断された。ぶっちゃけ自首しても大した罪にはならなかった、13の時からされてきた事を考えりゃ情状酌量だよ。
でもね。アレでうじうじ女々しい奴だから、内心ずっと気に病んでたんだ。自分が叔母さんを殺したって……
だから言ってやったんだ。「お前のせいじゃないよ」って。
あんたが何もしないならここを出て一人でさがすと言って反対されて叔母を突き飛ばしたのも、俺のハメ撮り動画にキレて林と柿沼と曽我部に殺し屋を差し向けたのも、全部巡り合わせが悪かっただけでお前はちっとも悪くないんだって慰めてやった。
そんなわけあるかよ。
全部お前が悪いんだよ。
亮は俺に、俺だけに謝ってた。叔母さんも林たちもどうでもいい、俺に申し訳ない、自分のせいで兄さんの人生めちゃくちゃだと泣いて詫びていた。
……なあ記者さん、『チューベローズ』読んだんだよな。主人公の独白……アレ全部亮の写しだよ。聞いたままを書いたんだ。
書いてる途中で亮が泣きだして代筆どころじゃなくなったから、慰めてやった。アイツは俺に逆らえない。俺とのセックスに溺れて、引き返せない位おかしくなってた。
亮は服を脱がなかった。なんでだろうな、今さら恥ずかしがることもないのに。俺は全部見せてるのに……見られちまったのに。
亮のそばで亮がすらすら諳んじる文章を打ち込んで、どこまでいってもコイツにはかなわないって思い知らされた。
結局の所俺の小説は全部昔読んだ本の焼き直しで、亮みたいなオリジナリティーはなかったんだ。亮の小説には問答無用で読者を引きずり込む力があった。広く訴えたいメッセージがあった。
俺はただ、俺を見てほしかっただけ。作文上手だねって褒めてほしかっただけ。
それだけ。
兄さんに裏切られました。
記者さん……片桐景文をどうおもいましたか?何回も面会してるならいい加減気付きましたよね。あの人は被害者ぶるのが上手いけど、それは計算ずくなんです。
考えてもみてください。なんで兄は8年ぶりに弟に会うのに、パーカーとジーンズだったんでしょうか。
まあ、あの服で仕事に行ってたみたいだから考えすぎかもしれないけど……俺が仕立てたスーツは結局一回も着てくれなかったな。
最近考えるんです。
兄さんはひょっとして、自分がみすぼらしく見えるように計算してたんじゃないかって。同情を誘って金を引き出す為に。記者さんは8年ぶりに兄弟と会うのに、そんな恰好でいきますか?
募金した……本人がそういったんですか。じゃあ考えすぎかな。
俺が駅を通った時は募金なんかしてなかったけど、入れ違いになったんですかね。
俺が知ってる兄さん。SМ男娼デリヘル『チューベローズ』一番の売れっ子。鎖骨に花のタトゥー。乳首にリングピアス。小説家志望。一人暮らし。加瀬とデキてた。サイトの掲載写真は眼鏡オフ。
プロフィール曰く、嫌いなものはマドレーヌとパスタとキッシュ。好きなものは放置プレイと窒息プレイ。備考欄に「ひとりっ子」と追記あり。
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子どもの頃からそうだった。
……叔母を殺したのは、ずっと前に言われた事を覚えてたからです。
『叔母さんは金持ちだから、叔母さんちの子になれば遊んで暮らせる。叔母さんが死んだらお前は大金持ちだ。その金でお兄ちゃんを助けてくれ』
叔母さえいなくなれば、遺産を好きに使って兄をさがせる。兄さんをさがしだして一緒に暮らせる。
だから俺は。
……油断したのがいけなかった。
セックスを終えて眠りに落ちて、次に目が覚めたら兄さんはいなくなってた。スマホも消えてた。加瀬に連絡をとったと直感して、燃える血が逆流しました。
行き先はアパートしか思い付かない。慌てて追いかけた。なんで戻ったんだ、そんなに加瀬がいいのか、俺じゃだめなのかって胸の内で叫んだ。車から降り立ち階段を駆け上がり、施錠もされてないドアを開けた。
「兄さん!!」
夕闇迫る殺風景な部屋の中、布団の上。加瀬が兄さんに跨って首を絞めてた。兄さんは苦しみもがいて、
「っ、ぐ」
さよならするように、手の指を第二関節まで曲げて。
靴のまま上がり込んで、テーブル上のノートパソコンを掴んで、加瀬を殴打した。一撃で手ごたえがあった。加瀬は前方に突っ伏し、兄さんは間一髪息を吹き返す。
「生きてた……」
激しく咳き込む兄さんの背中をさすり、落ち着くのを待って加瀬を見る。既に事切れていた。
俺が殺したんです、記者さん。一人殺したら何人でも一緒だから……
可哀想に、片桐亮はマスコミの食い物にされた。
こっちはいい迷惑だよ。住んでた部屋を殺人現場にされ、挙句愛用のパソコンを凶器に使われて。
証拠物件として警察に押収されちゃあもうもどってこないよな。どのみち壊れてるか。
何か言いたそうだな記者さん。事件の顛末に納得してないのか?
しかたない、あんたとの付き合いもこれで最後だ。取材も今日で最終回、疑問に答えてやるよ。
まずはおさらい。容疑者は小説家の片桐亮、被害者は半グレ……もとい無職の加瀬明。事件発生日は11月10日未明。さらに亮には余罪がある、逮捕後に叔母殺しと林・柿沼・曽我部の委託殺人を自供したんだ。
亮は主犯、俺は従犯。死体遺棄を手伝っただけじゃ大した罪に問われない。亮の車で死体とスコップを運んで、奥多摩の林に埋めただけ。
ベストセラー作家が犯人の猟奇殺人なんて話題性抜群だろ、世間様がほうっておかない。片桐亮は今じゃ一種のカリスマ、悲劇のヒーローだ。
生まれ付いての天才。幼くして両親と死別。叔母の養子となるも13から17まで性的虐待をうけ続けた。
みんな大好きだろ、不幸で可哀想な過去持ちのシリアルキラー。おまけに顔がよいときた。
世間の連中……特に女は同情的だ。兄貴の復讐を代行するなんてあっぱれだって、ネットじゃ絶賛されてるらしいな。
亮が事件の直前に書き上げて出版社に送った小説は『チューベローズ』のタイトルで無事世にでた。
それでめでたしめでたしじゃだめなのか。これ以上何を知りたいんだ。
……矛盾してる?
俺が危ない時にのんびり続きを書くわけない?それ以前に、右手を怪我してたのに書けるわけないって?そうだな、もし完結したならそういったはずだな。
なんでアパートのドアが開いてたのか?
先輩が殴り込んでくる予想をしてたのに、鍵をかけなかったのか?
バールのようなものでこじ開けられたっていうのはどうだ。そんな痕跡ない?冗談だって、言ってみただけ。
なるほど、記者さんはわざと開けっ放しにしてたって思ってるんだ。
じゃないと亮が入ってきて、都合よくヤッてる所を目撃できないもんな。
おいおい、俺が先輩を唆したってのか?さすがに勘繰りすぎだ。プロフィール……ああ、窒息プレイの事ね。俺が頼んだとでも?
ていうか……俺の方から呼び出したって、マジでそこまで考えてる?
証拠がなけりゃただの妄想だ。スマホは見付かってない。
あんたは多分こう考えてるんだろうな、主犯と従犯が逆じゃないかって。兄貴が全部仕組んで、弟ははめられただけじゃないかって。
全部結果論でしかない。
百歩譲って俺が焚き付けたんだとしても、アイツがパソコンで先輩の頭をかち割るのは想定外だ。
そうだろ?ちがうか?それとも本当は逆で、嫉妬で理性が飛んだ亮が先輩と揉み合ってる隙に……。
……あ。
あー……盲点だった。手に怪我した亮がパソコン持ち上げるのはホネだよな。
仮に持ち上げるだけなら可能でも致命傷は与えられない。
亮はなんて?脳内麻薬で痛みが麻痺した?……はは。一人殺すも二人殺すも同じ、四人も五人も大して変わらないってか。
五人殺したら、死刑確定だよな。
四人でも同じか。
最初の質問覚えてるか?俺が房で読んでるのは『チューベローズ』、片桐亮が作家生活に終止符を打った本。
記者さんは疑ってるんだね、本当に亮が書いたのか。
亮がまだ寝てるうちに、俺が結末まで持ってったんじゃないかって。
『チューベローズ』のラストで衝撃の事実が判明する。斡旋人を殺したのは実は姉貴で、主人公は真犯人を庇って死刑を求刑される。
どうなるもこうなるもここで終わりだ。俺は天才じゃないから、バッドエンドなんだ。
片桐靖奈。林洋平。柿沼昴。曽我部龍太郎。加瀬明。
以上五名、俺が殺しました。兄さんは嘘吐きです。あの人の偽証を真に受けないでください。
何年も何年も酷いことされ続けて、壊れちゃったんです。
加瀬の性器を切除したのも俺です。『チューベローズ』の主人公にならったんです。
あんな汚いモノが好きな人に出たり入ったりしてたなんて、許せないじゃないか。
記者さんは想像力逞しいですね、景文を庇ったなんて本気で思ってるんですか。
俺が殺人を委託した業者にも裏がとれたでしょ?叔母の家から加瀬の性器が押収されたでしょ?
ほら、証拠はそろってる。
やったのは俺です。
俺はいいんです、夢が叶ったから。もういちど兄さんに会うためだけに生きてきたから。
叔母を殺したのは兄さんが帰ってこれる場所を作りたかったから。
でもそれ、縛り付けるのと同じですよね。
あんなに憎んでたのに、俺は叔母のやり方でしか好きな人を愛せない人間に成り下がってたんです。
独房にひとりになると考えちゃうんです。
俺が家を捨てて、どこか遠い場所で兄さんと暮らしたいって言ったらOKもらえたのかなって。
なんで呼ぼうとしたのかな。閉じ込めようとしたのかな。俺は兄さんと逃げる覚悟がなくて、だから兄さんはどん底まで転がり落ちて、バッドエンドしか書けなくなっちゃったんだ。
本当はハッピーエンドが書ける人なのに。
……違います。違いました。兄さんはまだ書けるんです、生きてる限り続くんです。
刑務所をでたら、きっと傑作が書けます。俺は信じてる。
唯一にして最大の後悔がそれですよ、兄さんの新作を読まずに死ぬこと。
俺の死刑が何年後何か月後になるかわからないけど、兄さんにはなるべく早く出所して、今度こそハッピーエンドを書いてもらわなきゃいけない。
俺、片桐景文のファンなんです。
ただ一人の。
……記者さんにお願いです。あなたが気付いた事、どうか警察には言わないでください。記事にもしないで。
取材を受けといて勝手なお願いなのは重々承知です。それが無理だっていうなら、兄が小説を書き上げるまで待ってください。
そっちの方が衝撃度が上がって売れるでしょ?悪い取引じゃないはずです。
……仕方ない。特別ですよ。
色んな記者さんが取材を申し込んできたけど、これを見せるのはあなたが最初で最後です。
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