第4王子は中途半端だから探偵することにした

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第1回活動報告:横領犯を捕まえろ

内部調査部を立ち上げよう(その2)

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(2)内部調査部を立ち上げよう <続き>


「具体的に何を調べるとか、決めているの?」とルイーズが訪ねてきたので、「まずは、第13穀物倉庫に保管してある会計帳簿と在庫表の確認からかな?」と手配をお願いしたら舌打ちされた。ただ、書類の手配はしてくれそうだったから、その日は内部調査部の業務はそこまでとした。

俺が今日出勤したら、執務室のテーブルに書類の束が置いてあった。多分、第13穀物倉庫の会計帳簿と在庫表だろう。
所々メモ書きが挟んであるので、ルイーズが事前に内容を確認してくれたらしい。
口は悪いけど仕事はできる。優秀な助手だ。口が良ければ、なお良いのだが・・・。

ルイーズが取り寄せてくれた第13穀物倉庫の書類を読んでいたら、ルイーズが内部調査部(仮)に入ってきた。

「お疲れ様。全部見るのに時間かかったんじゃない?」と俺が言うと、「全部は見てない。法則性があったから、疑わしい箇所だけピックアップしておいた。」とルイーズは答えた。

「へー、さすが!それで、具体的にどういう手口が使われているか分かった?」俺はルイーズに質問した。

俺が褒めたせいか、ルイーズは少し嬉しそうに見える。
いや、やはり俺の気のせいかもしれない。

「不正については、期ズレを利用していると思う。会計上は、第13穀物倉庫が売上を計上するのは、在庫の引渡しと現金受領が完了した時点になる。だけど、それに当てはまらない取引が幾つかあった。この去年の資料(図表1-1)を見てくれる?」と言ってルイーズは書類を見せてきた。


【図表1-1:小麦の売上と在庫数量(10月30日~11月1日)】



「例えば、ダート商会へ販売した小麦5tは、在庫表を見ると11月1日に引渡しされている。だけど、会計帳簿では、10月31日に現金20万JDを前受して、売上を計上している。」とルイーズは会計帳簿と在庫表の不整合箇所を説明した。

※ジャービス王国の通貨は、ジャービス・ドル(JD)を使用しています。1JD=1円と考えて下さい。

「月末に在庫の棚卸をしているはずだから、その時だけ在庫数量を調整しているのか。でもさ、金額が大きくない。この不正だと、あまり儲からないよね?」と俺はルイーズに尋ねる。

「ダニエルもそう思う?私も引っかかったのは、そこなのよ。私が会計帳簿と在庫表を見たら分かった不正だから、内務省の検査部が見たら発見される可能性は高いと思う。それに対して、金額が大きくない。不正が発見されるリスクに、横領する金額が見合ってないと思う。」

ルイーズも同じ疑問を持っているようだ。なぜ、こんな分りやすい不正をするのだろう。

「たった20万JDか。20万JDで人生を棒に振る人がいると思う?」と俺はルイーズに聞いた。

「それは人によって違うんじゃないかな。その日の生活に困っている人は、この国にもたくさんいる。そういう発言は気を付けた方がいいと思う。」

どうやらルイーズは俺の発言が気に入らないようだ。確かに軽率だったとは思うが、他の人が聞いている訳じゃないし、気にしなくてもいいじゃないか。そうは思うものの、「気にしなくてもいいじゃないか」言うとまた怒られそうだったので、俺は話題を変えた。

「ところで、思ったんだけどさ。この20万JDは、他の不正を隠すための引っ掛けじゃないかな?
例えば、11月末の取引(図表1-2)を見てほしい。」と言って、俺は該当箇所を指さした。


【図表1-2:小麦の売上と在庫数量(11月29日~12月1日)】
 



「11月もダート商会が登場している。」

「そう、またダート商会が出てくる。それで、注目してほしいのは取引数量だ。
ダート商会へ販売数量は、10月は5tだったけど、11月には3.75tに減っているよね。
もし、小麦の横流しをダート商会への販売で調整する場合は、11月の販売数量は10月の販売数量よりも増えていないとおかしい。」と俺はルイーズに説明した。

俺は、何となく横流しのカラクリはわかった気がした。念のために、俺はルイーズに聞いてみた。

「それはそうね。10月末時点で5t横流ししていたとすると、11月末には10月末までの横流し分を余分に販売したことにしないといけない。11月末の販売数量は5t以上でなければおかしい。とすると、ダート商会の取引は横流しを偽装するためではなくて、単なる数量調整かな?」どうやらルイーズも気づいたようだ。

「だよね。それで、ルイーズ探偵はどう推理する?」と俺はルイーズに聞いた。

「探偵って、泥臭そうで嫌だ。」

どうやら、探偵が好きではないようだ。俺は好きなのだが。

<続く>
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