第4王子は中途半端だから探偵することにした

kkkkk

文字の大きさ
95 / 197
第5回活動報告:仮想通貨の詐欺集団を捕まえろ

家族会議(その1)

しおりを挟む
(4) 家族会議

総務省に戻った俺は、その足で国王が招集した定例会議に参加した。ジャービス王国は王族が政治の中心にいて、重要な方針を定期的に話し合っている。
この定例会議は、参加者が国王と王子4人だけなので、役所で働く公務員からは『家族会議』と呼ばれている。

ジャービス王国では、家族会議で決まったことが、そのまま政策や法律として反映されるわけではない。
ジャービス王国において、政策や法案を審議するのは議会だからだ。

大雑把に言うと、家族会議で決まった事項のうち、議会で承認されるのは約50%だろう。
半分は議会に否決される。

思い付きで起案したものや、国民受けが良くないもの、意味がなさそうな案は、ほぼ全て議会に否決されるのだ。良く言えば、国家としてのガバナンスが効いている。

家族会議が終わりに近づいたころ、国王が俺に質問してきた。

「内部調査部では、最近どういう案件を調査しているのだ?」

「今はジャービット・コインの件を調査しています。内部告発ホットラインに届いた案件です。ちなみに、ジャービット・コインは仮想通貨や暗号資産と呼ばれるものです。過去のパフォーマンスが他の暗号資産と比べて良過ぎるので、何か裏があるのではないかと情報提供があり、調査を開始しました。」と俺は答えた。

「仮想通貨か。確か、数年前に国内での取引を禁止するかどうかを議論した記憶がある。一時期よりも取引量は少なくなったと聞いているけど、どうなの?」と国王が俺に聞いてきた。

「昔のように、買えば必ず儲かるということもないので、取引は正常化していると思います。」と俺は答えた。

「そうか。そういえば、暗号資産交換業者の大手、XFTの買収を同業者が検討しているというニュースを見たよ。今後、同業を買収するM&Aが活発化するのかな?ダニエルはどう思う?」と国王が言った。

「規模を追求するのは理にかなっています。暗号資産交換業者は、システムの運用コストや広告費が大きいので、規模が大きくないと利益が出にくいですから。ただ、暗号資産交換業者は財務内容を誤魔化しやすいので、デューデリジェンス(資産査定)を慎重にする必要があると思います。」

「そういうものか。まあ、頑張ってくれ。」と国王は言った。

今日の定例会議の議題は一通り議論したので、会議はこれで終わりだと思っていたら、第2王子のチャールズが発言した。

「ダニエル。暗号資産交換業者で、どこか安く買えそうな会社ないかな?」

俺は嫌な予感がした。こういう時、チャールズは仕事を俺に押し付けようとしている。
まず、チャールズの真意を確かめた方がいいだろう。

「兄さん、どういうことですか?」

「ジャービス王国は、国の財源を補うために国債を発行しているよね。例えば、10年国債を発行すると年率3%の金利を払わないといけない。」とチャールズは言った。

「当たり前じゃないですか。国債は国の借金ですから、国債保有者に利息を払わないといけません。」

「でもさ、ジャービス王国が仮想通貨を発行したら、利息を払わなくていいよね。例えば、ジャービス王国が100%株主の会社が暗号資産を発行する。その暗号資産は市場で取引されて、価格は変動するけど、国の借金じゃないから、償還する必要がない。ジャービス王国は利息を払う必要ない。暗号資産交換業者を買収できれば、ジャービス王国の暗号資産を流通させることができるから、国債を発行しなくてよくなる。」

チャールズの考えそうなことだ。国債利息の支払いをケチろうとしている。いつも通り、セコいやつだ。
チャールズの言う通りにしていると、俺の仕事が増えていきそうだから、何とかして考えを改めさせないといけない。

「兄さんの言っていることは、中央銀行で貨幣量を発行するのと同じですよね。インフレが起きるリスクをどう考えていますか?」

「それは違うよ。中央銀行で貨幣を発行したらマネーサプライが増えるけど、暗号資産を発行してもマネーストックが増えない。暗号資産の買い手は、市中に流通している貨幣で暗号資産を購入するから、マネーストックには影響しない。
マネーストックを増やせば、インフレ率が増加する可能性があるけど、暗号資産だとインフレに影響はないと思うよ。」とチャールズは言った。

どうやら、俺は論破されているようだ。このままではマズイ。

チャールズは国王の前で俺を説得し、この件を俺に押し付けようとしている。
何とかして、回避しなければ。

<続く>
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...