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第2回活動報告:カルテルを潰せ
戦いの行方(その1)
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(9)戦いの行方
カルテルとの戦いが始まってから1年が経過した。
内部調査部では相談案件の不動産取引の調査が佳境を迎えている。
ところで、カルテルとの戦いはまだ終わらない。お互い一歩も引かないまま、『カルテル潰し作戦』と『北風と太陽作戦』は1年続いている。国内商社は一致団結して北風に耐え続けている。敵もなかなか我慢強い。
やはりイソップ寓話が正しかったのだろうか。北風ではオッサンのコートは脱がせない。
※北風と太陽とは、イソップ寓話の一つである。物事に対して厳罰で臨むよりも、寛容的に対応する方が得策という教訓として、広く知られている。
俺たちの『カルテル潰し作戦』と『北風と太陽作戦』が、その後どうなったかを説明しておこう。
『北風と太陽作戦』に切り替えた俺は、外務省のアンドリューに銅の輸入量の増加と期間延長を依頼した。これは、すんなり事が運んだ。外務省が懇意にしているサンマーティン国の政治家が裏金を作れるからだ。政治家は安定的な裏金の確保ができて、喜んでいる。
サンマーティン国からの銅の輸入量を月100t増加して、合計月300tにすると銅の国内価格は1,500JD/kgから1,450JD/kgまで下がった。しかし、その後すぐに1,500JD/kgまで銅の国内価格は戻った。国内商社が国内供給量を減らしたからだ。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
俺は国内商社に更なる北風を送るため、サンマーティン国からの銅の輸入量を月100t追加して、ジャービス鉱業からの国内販売量を月400tとした。
一方、国内供給量は増えずに、月1,000tのままだ。国内商社は、我々が輸入量を増やしたら販売量を減らすことで国内の銅価格を維持している。今は我々が月400t輸入しているから、国内商社の販売量は月400t減っている。
今の国内商社の国内販売数量は月600tだから、利益は月4.2億JD((1,500-800) JD/kg×600t)だ。国内商社が『カルテル潰し作戦』の前に確保していた利益は月7億JDだから、利益は月2.8億JD減ったことになる。
それでも国内商社は諦めない。国内商社は一致団結して北風に耐え続けている。
やはり北風ではオッサンのコートは脱がせない。太陽が必要だったのだ。
俺は国内商社にさらなる北風を送るため、サンマーティン国からの輸入量をさらに増やすことも考えた。でも、これ以上輸入量を増やすと、さすがにやり過ぎだろう。
きっと、国内商社は採算が割れるまで耐え続けるはずだ。
ちなみに、この話には続きがある。
俺の北風に耐える国内商社の前に、ついに太陽が現れたのだ。
i2の銅の輸入に対応して国内商社が国内販売量を減らしているから、国内商社には過剰在庫が発生していると、俺は思っていた。
銅の輸入は長期契約だから、国内商社は毎月1,000tの銅を仕入れている。それに対して、『北風と太陽作戦』によってi2の国内供給量は月400tとなったから、国内商社は月600tしか販売できない。普通に考えたら、毎月400tずつ銅の在庫が滞留していくはずだ。
でも、そうはならなかった。
カラクリはこうだ。
国内商社が販売できずに余った月400tは、810JD/kgでi2の輸入元のサンマーティン国に売っていた。
それを我々(正確には外務省のダミー会社)が850JD/kgで銅を購入する。
i2は外務省のダミー会社から900JD/kgで銅を購入する。
購入した銅を国軍経由でジャービス国内に運び込み、国軍は50JD/kgの手数料を受け取る。銅を販売するジャービス鋼業は国内市場で銅を1,500JD/kgで代理販売し、手数料50JD/kgを受け取る。
すなわち、i2の仕入れる銅は、国内商社から提供されているわけだ。
つまり、ジャービス王国とサンマーティン国で銅が行ったり来たりしている。
さらに言うと、この説明は契約上の話であって、実際の銅とお金の流れではない。
実際には、現物の銅はジャービス国内から動いていないし、誰も何もしていない。
すなわち、書面上はサンマーティン国から銅を輸入していることになっているが、輸入の手間とコストをカットするため、銅の現物は、国内商社の倉庫から直接市場で販売されている。
契約上と実際の銅の商流を比較すると、こんな感じだ(図表2-10)。
【図表2-10:契約上と実際の銅の商流】
<続く>
カルテルとの戦いが始まってから1年が経過した。
内部調査部では相談案件の不動産取引の調査が佳境を迎えている。
ところで、カルテルとの戦いはまだ終わらない。お互い一歩も引かないまま、『カルテル潰し作戦』と『北風と太陽作戦』は1年続いている。国内商社は一致団結して北風に耐え続けている。敵もなかなか我慢強い。
やはりイソップ寓話が正しかったのだろうか。北風ではオッサンのコートは脱がせない。
※北風と太陽とは、イソップ寓話の一つである。物事に対して厳罰で臨むよりも、寛容的に対応する方が得策という教訓として、広く知られている。
俺たちの『カルテル潰し作戦』と『北風と太陽作戦』が、その後どうなったかを説明しておこう。
『北風と太陽作戦』に切り替えた俺は、外務省のアンドリューに銅の輸入量の増加と期間延長を依頼した。これは、すんなり事が運んだ。外務省が懇意にしているサンマーティン国の政治家が裏金を作れるからだ。政治家は安定的な裏金の確保ができて、喜んでいる。
サンマーティン国からの銅の輸入量を月100t増加して、合計月300tにすると銅の国内価格は1,500JD/kgから1,450JD/kgまで下がった。しかし、その後すぐに1,500JD/kgまで銅の国内価格は戻った。国内商社が国内供給量を減らしたからだ。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
俺は国内商社に更なる北風を送るため、サンマーティン国からの銅の輸入量を月100t追加して、ジャービス鉱業からの国内販売量を月400tとした。
一方、国内供給量は増えずに、月1,000tのままだ。国内商社は、我々が輸入量を増やしたら販売量を減らすことで国内の銅価格を維持している。今は我々が月400t輸入しているから、国内商社の販売量は月400t減っている。
今の国内商社の国内販売数量は月600tだから、利益は月4.2億JD((1,500-800) JD/kg×600t)だ。国内商社が『カルテル潰し作戦』の前に確保していた利益は月7億JDだから、利益は月2.8億JD減ったことになる。
それでも国内商社は諦めない。国内商社は一致団結して北風に耐え続けている。
やはり北風ではオッサンのコートは脱がせない。太陽が必要だったのだ。
俺は国内商社にさらなる北風を送るため、サンマーティン国からの輸入量をさらに増やすことも考えた。でも、これ以上輸入量を増やすと、さすがにやり過ぎだろう。
きっと、国内商社は採算が割れるまで耐え続けるはずだ。
ちなみに、この話には続きがある。
俺の北風に耐える国内商社の前に、ついに太陽が現れたのだ。
i2の銅の輸入に対応して国内商社が国内販売量を減らしているから、国内商社には過剰在庫が発生していると、俺は思っていた。
銅の輸入は長期契約だから、国内商社は毎月1,000tの銅を仕入れている。それに対して、『北風と太陽作戦』によってi2の国内供給量は月400tとなったから、国内商社は月600tしか販売できない。普通に考えたら、毎月400tずつ銅の在庫が滞留していくはずだ。
でも、そうはならなかった。
カラクリはこうだ。
国内商社が販売できずに余った月400tは、810JD/kgでi2の輸入元のサンマーティン国に売っていた。
それを我々(正確には外務省のダミー会社)が850JD/kgで銅を購入する。
i2は外務省のダミー会社から900JD/kgで銅を購入する。
購入した銅を国軍経由でジャービス国内に運び込み、国軍は50JD/kgの手数料を受け取る。銅を販売するジャービス鋼業は国内市場で銅を1,500JD/kgで代理販売し、手数料50JD/kgを受け取る。
すなわち、i2の仕入れる銅は、国内商社から提供されているわけだ。
つまり、ジャービス王国とサンマーティン国で銅が行ったり来たりしている。
さらに言うと、この説明は契約上の話であって、実際の銅とお金の流れではない。
実際には、現物の銅はジャービス国内から動いていないし、誰も何もしていない。
すなわち、書面上はサンマーティン国から銅を輸入していることになっているが、輸入の手間とコストをカットするため、銅の現物は、国内商社の倉庫から直接市場で販売されている。
契約上と実際の銅の商流を比較すると、こんな感じだ(図表2-10)。
【図表2-10:契約上と実際の銅の商流】
<続く>
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