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吾輩は猫である。名前はまだない

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 ロベールは私が黒猫と話し込んでいる間に、詐欺集団に雇われたマフィアの男たちを捕獲していた。
 さすが、仕事が早い。

「ロベール、捕獲は終わったの?」
「うん、終わったよ」

 ロベールの肩から血が流れ出ていた。黒猫と話し込んでいて、ロベールがケガしているのを忘れていた。

 (回復ヒール

 ロベールの肩の傷はみるみるうちに回復した。

「ありがとう。僕の反応が遅れてしまって、大惨事になるところだった。それにしても、よく踏みとどまったね」
「オホホ、何のことかしら?」

「まぁ、僕はマンデル共和国の警察に男たちを引き渡してくるよ。デイジーはここで待っててね」
 そう言うとロベールは男たちを連れて、歩き出した。

 **

 私とロベールの会話を聞いていた黒猫。ロベールがいなくなったら私に話しかけてきた。

「君は彼のことが好きなの?」

「何のことかしら……ロベールが私に惚れているのよ」
「ふーん。まぁ、いいけど」
「何よ? その目は?」
「別に……ところで、僕が二人の仲を取り持ってあげようか?」
「ケルベロス的な猫に……そんなことできるの?」

 私が疑いの目で見ると、黒猫は前足で胸を叩いた。「任せてよ!」とアピールしている。

「条件は?」
「うーん、そうだな。君の使い魔にしてくれない?」
「使い魔? 私に何かメリットあるの?」
「僕の実力は見たでしょ。女神マリアの使い魔だったから、魔法全般使えるよ」
「まあね。どうしようかな?」
「恋愛相談もバッチリだよ!」

 自称女神マリアの使い魔。残念な猫ではある……だが実力は本物だ。
 それに、今月のラッキーアイテムは黒猫。

「そうね。ところで、あなたにメリットはあるの?」
「君は金持ちそうだから、エサの心配がいらない」

 金目当てか……どうしようかな。

「他には?」
「僕を使い魔にできるのは膨大な魔力の持ち主だけなんだ。女神マリアと同等程度の魔力の持ち主じゃないとダメ」
「へー。膨大な魔力の持ち主を探せばいいじゃん」
「探したんだけど……そんな人間が都合よくいないんだよ」

 黒猫は困っている。可哀そうだな……どうしようかな。

「他には?」
「君は女神マリアに似ている」
「マリア様に会えなくて寂しいんだ?」
「まぁね、ずっと一人だったからね」

 黒猫は寂しそうに言った。
 女神マリアがいなくなってから、黒猫はどれくらいの時間一人ボッチだったのだろうか?
 私は黒猫を使い魔にすることにした。

「いいわよ」
「本当? ありがとう!」
「そういえば、あなた、名前は?」
「吾輩は猫である。名前はまだない」

 黒猫には名前がないらしい。女神マリアは使い魔を何て呼んでいたのだろうか?

「名前がないって……マリア様には何て呼ばれてたの?」
「アレとかオイとかネコとか?」
「雑ねー。名前付けてもらえなかったの?」
「そう……だね」
「じゃあ、私が名前を付けてあげよう」
「本当?」
「嘘をついてどうするのよ……あなた、オスだよね?」
「うん、そうだよ!」

 私は黒猫に名前を付けてあげることにした。

「じゃあ、マリアの猫だから……マリオは?」
「マリオ? 著作権的に問題ないのかな?」
「前にスーパーを付けなければ大丈夫よ!」

 黒猫は考えている。マリオがしっくりこないようだ。

「マリオは不満なの?」
「うーん、もう少しカッコイイのがいい」
「例えば?」

 黒猫は名前の候補を考えている。

「カイロス、クロノス、タルタロス、ネメシス、ヘスペロス、モルペウス……」
「ほー、神の名前がいいわけ。あなたは女神の使い魔。女神と同格の名前を付けるのはまずくない?」
「そう……かな?」
「そうよ。だから、あなたは今日からマリオ!」
「マリオか……まぁ、いいか」

 黒猫の名前はマリオに決まった。

「僕は君のことを何て呼べばいい?」
「私の名前はマーガレット。デイジーでもいいわよ」
「じゃあ、デジちゃんはどう?」
「デジちゃん……まぁ、いいわよ」
「じゃあ、デジちゃん、これからよろしくね!」

 現地警察に詐欺集団の男たちを引き渡したロベールが戻ってきた。

「デイジー、猫と話してなかった?」
「ああ、この子はマリオ。私の使い魔になったの。マリオ、ロベールに挨拶して」

 黒猫はロベールに向かうと「僕の名はマリオ。よろしくね!」と言った。

「猫が喋った?」
「えぇ、喋る猫なの。珍しいでしょ」
「うそ? どこかにスピーカー付いてない?」
「付いてない。自称女神マリアの使い魔らしいんだけど……怪しいところだね」

「怪しくないよ!」マリオは怒っている。

「まあ、証拠も入手したからホテルに帰ろうよ」
 私が手を差し出したら、「そうだね」とロベールが私の手を握り返した。

 **

 私たちはホテルまでの道を歩いている。ロベールの手の温もりが伝わってきた。

 ――このまま……ずっとこうしていたいな

「やっぱり、遅いし飛んで帰ろうよ!」とロベールは私に尋ねる。
 一緒に歩いて帰りたい私。「いい、歩いて帰る」と言う私に「そっか」と合わせてくれた。

「ねえ、ロベール」
「なに?」
「ケガさせてごめんね。大丈夫だった?」
「大丈夫だよ。デイジーが治してくれたしね」

 私が強引に連れてきたのに、ロベールの気遣いが嬉しい。

「ねえ、ロベール。肩に何か付いてる」

 私はそういうと、ロベールの肩に手を伸ばした。
 肩を確認しようと振り向いたロベール。

 私の唇とロベールの唇が近づく。
 あと30センチ……あと20センチ……あと10センチ……

「お腹減ったニャー!」

 ――邪魔された……

 黒猫マリオは「二人の仲を取り持ってあげよう」と言ったことを忘れている。

 ――まぁ、いいか
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