24 / 25
ライブ配信したらええんとちゃう?
しおりを挟む
「分かったーーーーーー!!」
今日も妻が叫んでいる。何かを思い付いたのだろう。
私は妻に尋ねた。
「何が分かったん?」
「ビデオの再生時間を伸ばす方法!」
「へー」
この前少し触れたが、プロチューバーになるためには基準は幾つかある。
これが最も低い基準だ。
-------------------------------------------------------------------
1.チャンネル登録者数:500人以上
2.ビデオを3つアップロードする
さらに以下のどちらかを充たす。
・過去365日間のビデオの動画再生時間が3,000時間以上
・過去90日間のショートの動画再生回数が300万回以上
--------------------------------------------------------------------
1と2は何とかなりそうなのだが、問題はその次だ。難関を満たさないといけない。
そして、妻はプロチューバーになるために「過去365日間のビデオの動画再生時間が3,000時間以上」の対策を考えているようだ。
私は妻に確認する。
「どういう方法?」
「昨日、マリコ(※)がライブ配信してたやろ?」
「あー、やってたなー」
※ヨガインストラクターのB-lifeのマリコさんのことです。
昨日、妻はマリコさんのライブ配信を見ながらヨガをしていた。その話をしている。
「ライブ配信って、結構みんな見てんねん」
「有名やからな。ハラミちゃんもライブ配信してるし」
「だからな、私もライブ配信したらええんとちゃう?」
――えぇっ? ライブ配信?
私は耳を疑った。
正気だろうか?
本当にやるのかを妻に確認する。
「うちの書道動画をライブ配信するとして、何を配信するん?」
「書いてるところやな」
「顔出しNGやろ?」
「そうやで。書きながら喋ればいい」
「書いてる人は外国人って設定なんやけど、覚えてる?」
「……」
妻は忘れている。「書道しているのは外国人」という設定を……
そして、逆ギレする妻。
「あんたが横から英語で解説すればいいやん!」
「書いてる手は女の人やのに、声がオッサンやったら気持ち悪くない?」
「まぁな……そうかもしれん」
妻は少し落ち込んでいる。
せっかくライブ配信しようと思っていたのに……出鼻を挫かれた妻は別室へ去っていった。
**
その次の日。
「これやーーーーー!!」
妻が叫んでいる。何か見つけたようだ。
猫動画かもしれないし、美容法かもしれない。
「どうしたん?」
「ライブで写経すればいいんや!」
妻はYouTubeのライブ動画のことを言っている。
写経とは経典を書き写すこと。小さい字でチマチマ書くアレだ。
「写経って、あの写経?」
「そうやで。無言で字を書き続けんねん!」
「斬新やなー」
「調べてみたら、写経の動画はあんまり無いねん。そして、写経動画は再生回数がそれなりにある」
「へー、再生時間も長そうやし、いいんとちゃう」
「そやろ、そう思ってん!」
こうして、妻のプロチューバーへの難関である「過去365日間のビデオの動画再生時間が3,000時間以上」は、写経によって糸口が見えてくるかもしれない。
書道チューバーとして写経が正解なのかは分からない。
でも、弱小ユーチューバーには何でもチャレンジすることが必要なのだ!
***
写経用の筆をアマゾンで購入した妻は写経を始めることにした。
いきなりライブ配信は危険だ。まずは、動画を撮影してビデオで配信することになった。
ビデオをセットした私は妻に確認する。
「じゃあ、録画するでー」
「うん、ええで」
「終わりそうになったら教えて」
「了解――!」
妻の準備が整ったようなので私は録画ボタンを押した。
“ピロリン”
私は妻が写経をする間、横のソファーに座りながら仕事することにした。
妻の方を見ると、やや前かがみになっている。頭のてっぺんがビデオに映りこんでいる気がする。
「頭、ビデオに入ってない?」
私に指摘された妻は頭を後ろに引く。
またしばらく時間が経った。また、妻が前かがみになる。
「あたまーー!」
妻は頭を後ろに引いた。
これが何度か続き、妻が「そろそろ」と私に言った。
写経が終わるようだ。
「その行で終わり?」と私は確認する。
「そやな。今日はここまでや」と妻が言うから私は録画を終了した。
時間にして55分。写経はかなり時間が掛かる。
私はお手本の般若心経と妻が書いた写経を見比べる。
「3行足りんなー」
「そやな。でも、もう疲れた」
ラスト3行を残して力尽きた妻。
55分写経をしていたのだからしんどいのだろう。
私は妻に念のために確認した。
「やり直す?」
「もういい。ここから3行入らへんわー」
ちなみに、3行残して力尽きた写経がこれだ。
今回は最後まで書けなかった写経を編集して配信しようと思う。
「終わってないやんけーー!」というコメントがくるかもしれないから、最後に「I'm beat……to be continued」と字幕を入れておくことにする。
我が家の戦いは今日も続く……
<つづく>
今日も妻が叫んでいる。何かを思い付いたのだろう。
私は妻に尋ねた。
「何が分かったん?」
「ビデオの再生時間を伸ばす方法!」
「へー」
この前少し触れたが、プロチューバーになるためには基準は幾つかある。
これが最も低い基準だ。
-------------------------------------------------------------------
1.チャンネル登録者数:500人以上
2.ビデオを3つアップロードする
さらに以下のどちらかを充たす。
・過去365日間のビデオの動画再生時間が3,000時間以上
・過去90日間のショートの動画再生回数が300万回以上
--------------------------------------------------------------------
1と2は何とかなりそうなのだが、問題はその次だ。難関を満たさないといけない。
そして、妻はプロチューバーになるために「過去365日間のビデオの動画再生時間が3,000時間以上」の対策を考えているようだ。
私は妻に確認する。
「どういう方法?」
「昨日、マリコ(※)がライブ配信してたやろ?」
「あー、やってたなー」
※ヨガインストラクターのB-lifeのマリコさんのことです。
昨日、妻はマリコさんのライブ配信を見ながらヨガをしていた。その話をしている。
「ライブ配信って、結構みんな見てんねん」
「有名やからな。ハラミちゃんもライブ配信してるし」
「だからな、私もライブ配信したらええんとちゃう?」
――えぇっ? ライブ配信?
私は耳を疑った。
正気だろうか?
本当にやるのかを妻に確認する。
「うちの書道動画をライブ配信するとして、何を配信するん?」
「書いてるところやな」
「顔出しNGやろ?」
「そうやで。書きながら喋ればいい」
「書いてる人は外国人って設定なんやけど、覚えてる?」
「……」
妻は忘れている。「書道しているのは外国人」という設定を……
そして、逆ギレする妻。
「あんたが横から英語で解説すればいいやん!」
「書いてる手は女の人やのに、声がオッサンやったら気持ち悪くない?」
「まぁな……そうかもしれん」
妻は少し落ち込んでいる。
せっかくライブ配信しようと思っていたのに……出鼻を挫かれた妻は別室へ去っていった。
**
その次の日。
「これやーーーーー!!」
妻が叫んでいる。何か見つけたようだ。
猫動画かもしれないし、美容法かもしれない。
「どうしたん?」
「ライブで写経すればいいんや!」
妻はYouTubeのライブ動画のことを言っている。
写経とは経典を書き写すこと。小さい字でチマチマ書くアレだ。
「写経って、あの写経?」
「そうやで。無言で字を書き続けんねん!」
「斬新やなー」
「調べてみたら、写経の動画はあんまり無いねん。そして、写経動画は再生回数がそれなりにある」
「へー、再生時間も長そうやし、いいんとちゃう」
「そやろ、そう思ってん!」
こうして、妻のプロチューバーへの難関である「過去365日間のビデオの動画再生時間が3,000時間以上」は、写経によって糸口が見えてくるかもしれない。
書道チューバーとして写経が正解なのかは分からない。
でも、弱小ユーチューバーには何でもチャレンジすることが必要なのだ!
***
写経用の筆をアマゾンで購入した妻は写経を始めることにした。
いきなりライブ配信は危険だ。まずは、動画を撮影してビデオで配信することになった。
ビデオをセットした私は妻に確認する。
「じゃあ、録画するでー」
「うん、ええで」
「終わりそうになったら教えて」
「了解――!」
妻の準備が整ったようなので私は録画ボタンを押した。
“ピロリン”
私は妻が写経をする間、横のソファーに座りながら仕事することにした。
妻の方を見ると、やや前かがみになっている。頭のてっぺんがビデオに映りこんでいる気がする。
「頭、ビデオに入ってない?」
私に指摘された妻は頭を後ろに引く。
またしばらく時間が経った。また、妻が前かがみになる。
「あたまーー!」
妻は頭を後ろに引いた。
これが何度か続き、妻が「そろそろ」と私に言った。
写経が終わるようだ。
「その行で終わり?」と私は確認する。
「そやな。今日はここまでや」と妻が言うから私は録画を終了した。
時間にして55分。写経はかなり時間が掛かる。
私はお手本の般若心経と妻が書いた写経を見比べる。
「3行足りんなー」
「そやな。でも、もう疲れた」
ラスト3行を残して力尽きた妻。
55分写経をしていたのだからしんどいのだろう。
私は妻に念のために確認した。
「やり直す?」
「もういい。ここから3行入らへんわー」
ちなみに、3行残して力尽きた写経がこれだ。
今回は最後まで書けなかった写経を編集して配信しようと思う。
「終わってないやんけーー!」というコメントがくるかもしれないから、最後に「I'm beat……to be continued」と字幕を入れておくことにする。
我が家の戦いは今日も続く……
<つづく>
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
6
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる