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43「学院崩壊の序曲」
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シルヴェリオの居場所のひとつ、アッツァリーティ大学院。その場が揺らいでいた。
貴公子糾弾委員会なる謎組織から文章が届いたのだ。メンバーは全員匿名であるが、貴族の賛同を誇示し文化芸術の城に揺さぶりを仕掛けてきた。
学院は一部の要求を飲まざるをえなかった。
シルヴェリオは絵画サークルの窓から、そのいまいましい成果を見下ろす。
「ここはあなたの味方よ」
「こんなデマチラシにいちいち対応するのか……」
校庭には特設の巨大掲示板が設置され、学院は回収した全てのビラを掲示していた。そこには生徒たちの人だかりができている。
絵画サークルのメンバーは心配そうに二人を見ていた。創作環境とはほど遠いのが今の学院だ。
「絵画サロンからあなたを告発する意見書があったみたい。理事会も動かざるをえなかったのよ」
絵画サロンとは、そこに関係している連中のことだ。フィオレンツァ家を良く思っていない貴族は大勢いる。
「……」
「問題視する会員がいるのよ。会員資格を剥奪しろって。あの人たち……」
オリヴィエラは唇を噛み、シルヴェリオの才能に嫉妬する愚鈍な芸術家気取りたちの顔を思い出す。
「前例主義の退廃者たちめ。こちらから退会してやるよ」
「早まらないで。味方も大勢いるから」
「そうです! あいつらは芸術の敵ですよ。僕らも戦います」
「私たちだって。ねえみんな」
「そうよ。立ち上がりましょう!」
「みんな、落ち着いて――」
学生たちは純粋な正義感を燃やす。しかしこれはそんな綺麗事とはほど遠い案件だ。オリヴィエラたちは巻き込めない。
「君たちは自分の作品に集中したまえ。芸術家の本分を忘れてはいかん」
「でも……」
「そのうちに収まるさ……」
シルヴェリオの頭の中は、こんな時でも令嬢フランチェスカでいっぱいだった。あちらが最重要課題であり、こちらはオマケ程度なのだ。
オリヴィエラはそんな性格も心配していた。
◆
「良い感じて燃え盛ってるじゃないの……」
ミネルヴァは仕掛けを見下ろしながら悪女の笑いを見せる。さながら校舎の最上階の専用休憩室は、糾弾ショーの貴賓席となった。
「【ラヴキュア】のプロモーションが、貴公子の火刑とはね。私たちの勝ちよ」
その名前は表にはいっさい出てこない。しかし火種が【ラヴキュア】だと誰もが知っていた。
「貴族社会にも飛び火させちゃうなんてね。きゃはっ」
方向性はどうあれ、アイドルたちの知名度は確実に上がっていた。ニーヴェスもマリアンナもこの状況に満足している。
「アイツは嫌われ者なのさ。人気者の私を袖にするなんて、そんな立場じゃなかったんだよ。調子に乗りやがって」
ミネルヴァにとって意外だったのは、スポンサーの貴族連中が積極的に動いていることだ。そして学院の理事会が日和見を決め込み、貴族の要求をのみ続けている。
「で、落とし所はどうするのかしら?」
ニーヴェスの問いにミネルヴァは少し考えた。より自分が目立つ方法が一番だ。
「さて、貴公子様は悪くない、って泣くか……」
「三人で名誉回復の署名活動でもする? きゃはっ!」
「オマケは引っ込んでな。私一人でやるから」
「ブー、ブーーッ!」
「ケッ! これは私とあの野郎のコロシ合いなんだよ。外野はイラネエ」
「やれやれ……」
ニーヴェスは呆れ顔だ。ミネルヴァは動揺する学生たちを見下ろし、口の両端がつり上がる。これからの展開を夢想しゾクゾクする。
「早く私に媚びへつらって握手会に来いよ。シオ対応してやるから……」
貴公子糾弾委員会なる謎組織から文章が届いたのだ。メンバーは全員匿名であるが、貴族の賛同を誇示し文化芸術の城に揺さぶりを仕掛けてきた。
学院は一部の要求を飲まざるをえなかった。
シルヴェリオは絵画サークルの窓から、そのいまいましい成果を見下ろす。
「ここはあなたの味方よ」
「こんなデマチラシにいちいち対応するのか……」
校庭には特設の巨大掲示板が設置され、学院は回収した全てのビラを掲示していた。そこには生徒たちの人だかりができている。
絵画サークルのメンバーは心配そうに二人を見ていた。創作環境とはほど遠いのが今の学院だ。
「絵画サロンからあなたを告発する意見書があったみたい。理事会も動かざるをえなかったのよ」
絵画サロンとは、そこに関係している連中のことだ。フィオレンツァ家を良く思っていない貴族は大勢いる。
「……」
「問題視する会員がいるのよ。会員資格を剥奪しろって。あの人たち……」
オリヴィエラは唇を噛み、シルヴェリオの才能に嫉妬する愚鈍な芸術家気取りたちの顔を思い出す。
「前例主義の退廃者たちめ。こちらから退会してやるよ」
「早まらないで。味方も大勢いるから」
「そうです! あいつらは芸術の敵ですよ。僕らも戦います」
「私たちだって。ねえみんな」
「そうよ。立ち上がりましょう!」
「みんな、落ち着いて――」
学生たちは純粋な正義感を燃やす。しかしこれはそんな綺麗事とはほど遠い案件だ。オリヴィエラたちは巻き込めない。
「君たちは自分の作品に集中したまえ。芸術家の本分を忘れてはいかん」
「でも……」
「そのうちに収まるさ……」
シルヴェリオの頭の中は、こんな時でも令嬢フランチェスカでいっぱいだった。あちらが最重要課題であり、こちらはオマケ程度なのだ。
オリヴィエラはそんな性格も心配していた。
◆
「良い感じて燃え盛ってるじゃないの……」
ミネルヴァは仕掛けを見下ろしながら悪女の笑いを見せる。さながら校舎の最上階の専用休憩室は、糾弾ショーの貴賓席となった。
「【ラヴキュア】のプロモーションが、貴公子の火刑とはね。私たちの勝ちよ」
その名前は表にはいっさい出てこない。しかし火種が【ラヴキュア】だと誰もが知っていた。
「貴族社会にも飛び火させちゃうなんてね。きゃはっ」
方向性はどうあれ、アイドルたちの知名度は確実に上がっていた。ニーヴェスもマリアンナもこの状況に満足している。
「アイツは嫌われ者なのさ。人気者の私を袖にするなんて、そんな立場じゃなかったんだよ。調子に乗りやがって」
ミネルヴァにとって意外だったのは、スポンサーの貴族連中が積極的に動いていることだ。そして学院の理事会が日和見を決め込み、貴族の要求をのみ続けている。
「で、落とし所はどうするのかしら?」
ニーヴェスの問いにミネルヴァは少し考えた。より自分が目立つ方法が一番だ。
「さて、貴公子様は悪くない、って泣くか……」
「三人で名誉回復の署名活動でもする? きゃはっ!」
「オマケは引っ込んでな。私一人でやるから」
「ブー、ブーーッ!」
「ケッ! これは私とあの野郎のコロシ合いなんだよ。外野はイラネエ」
「やれやれ……」
ニーヴェスは呆れ顔だ。ミネルヴァは動揺する学生たちを見下ろし、口の両端がつり上がる。これからの展開を夢想しゾクゾクする。
「早く私に媚びへつらって握手会に来いよ。シオ対応してやるから……」
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