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第十六話「高校生失踪 その二」/西園寺相

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 日課にしている朝の散歩が終り、居間で入れたてのコーヒーに口を着ける。

 ノートパソコンを立ち上げ、適当なチャンネルのままテレビの電源を入れた。

 地上波など真剣に見なくなって久しいが、時事ネタなど追いかけなくてはいけない職業作家には流し見するぐらいは必要だ。

 私にとってのテレビとはそんなモノだが今日は少々違った。高校生四名の失踪事件を扱っていたからだ。

 丁度その映像が始まり、私はパソコンを閉じてテレビの画面に集中する。

『昔から高校生の家出はよくあったでしょうが、教室から忽然と四人が消えてしまうなんて始めて聞いた気がしますが……、いったいなぜ、こんなことになったのでしょうか?』
『予め示し合わせて、わざと消えたように見せかけたと僕は思うけどなあ~~』

 司会者の問いで失踪動機を語らなければならないのに、消えたように見せかけたトリックだと言っている場合じゃないだろう、と舌打ちしたくなる。

 もっともこのコメンテーターなる人種は政治経済から事件事故、芸能人の不倫までもっともらしく語らなければならないので多少は同情する。

 私が恋愛小説を書けば間違いなく失笑モノになるのだし、オールジャンルの専門家など、どだい無理な話なのだ。

 チャンネルを変えると、ここでは現地、学校の前からのレポート中だった。

『四人の生徒が消えたのは、二週間ほど前の放課後でした……』

 画面はボカシが入ったイメージなる注釈の映像に切り替る。

 それは繁華街で制服を着崩した学生がたむろしているような映像だった。要はそっち方向性で視聴者を誘導したいようだ。

 続けて場面は地域住民のへのレポートに切り替わる。

『良い生徒さんばかりで……、消えてしまうなんてちょっと信じられないですね……』
『親も心配しているだろうに、早く見つかって欲しいですね』

 テレビの思惑とは違い、住民の話は本気で生徒を心配していると感じられる。どうやら評判の良い高校のようだ。

『持ち物は全て教室に残されており、生徒は身一つで消えてしまったようです』

 レポーターはこちらを見据え真剣な表情を崩さない。現地の雰囲気を正確に伝えようとの意図が感じられた。

『スマホなんかはどうなんですかね?』
『それも教室に置かれたカバンの中に残されていたそうです』
『はい、引き続き取材をお願いいたします』

 司会者が話を引き取りスタジオの映像に切り替わる。

『今時の高校生がスマホを持たないで、どこかに行ってしまうなんてどうなんですかね?』

『ちょっと分かりませんねえ……、動機も不明ですし。ただ、もし計画的ならば代わりのスマホを用意していて、今はそれを使用しているなんて可能性もあるかもしれませんね』

 この件を事件事故と想像する人間はいないようだ。

 解せないのは教室から失踪、と伝えている点だ。警察は当然クラスメートから事情を聞きそれをマスコミにリークしている。

 つまり本当に教室から消えたと思える状況なのだろう。

 私は首を捻りつつ、ワープロで白紙の文章を開き、思いつくままに散文、メモを書く。

 担当編集がこれから何を言ってくるか想像がついた、「この件を少し加えましょうか」だ。準備するに越したことはない。


 案の定午後にメールが来た。

 近いうちに予定を合わせ、いつもの店で打ち合わせを兼ねた飲み会の約束を交わす。
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