【魅了の令嬢】婚約者を簒奪された私。父も兄も激怒し徹底抗戦。我が家は連戦連敗。でも大逆転。王太子殿下は土下座いたしました。そして私は……。

川嶋マサヒロ

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19「第一王都の騎士」

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 しばらくすると木々の間に人影が見えました。私は剣に掛けていた手を外します。シルヴさんでした。周囲警戒の見回りをしていたのでしょう。
「あれ? 誰かと思えばジョルジュさんのお客さんか。なんでこんな所に――」
「森の散策です。それから私のことはディアーヌとお呼び下さい」
「俺はシルヴだ。危険はないが帰った方がいい。迷子になったら大変だし」
「迷子になんてなりませんわ」
「帰ろう。むやみに護衛の負担は増やすもんじゃない。送るよ」
「はい……」
 正論を言われてしまいました。逆らえません。二人で森を出て農道を歩きますが、お互い無言です。こんな時は、私の方から何か言わねばならないのですが。
「第一王都に行くのかな?」
「はい――」
 それはこの輸送隊列キャラバンに同行していれば、そうなります。聞かなくても分かります。シルヴさんは何とか話題を作ろうと、気を使ってくれました。
「――ちょっとした旅行です」
「ふーん……」
 その態度に、私は気になってしまいました。この人は貴族なのだし、聞かずにはいられません。
「私のこと、御存知ですか?」
「まあ、言葉遣いが令嬢だしね。それに名前も有名だし……」
 冒険者界隈にも話が広がっています。そうとは分かっていても有名と言われれば、やっぱりショックです。
「……ですよね。あなたも貴族なのですか?」
「まあね。気にしなければ良いんじゃない? よくある話だと思ってさ」
「……」
 男の人は女子の気持ちも分からずに、平気でこのようなアドバイスをします。街中の笑い者になり未来を閉ざされ、家族共々にどのようなめにあっているのか知りもしないで……。
 思い出して、また涙が溢れそうになってしまいました。
 私の表情に気が付いたのか、シルヴさんは少し狼狽します。
「悪い。失言だつた。せっかくだし冒険者ふうに話すといいよ。令嬢は忘れてね。俺もそうしてる」
「おもしろそうですね」
 この話に乗ることにいたしました。令嬢は一時中止して、冒険者同士の会話に切り替えてみます。
「シルヴは何人婚約破棄したの?」
 ズバリ聞きました。無遠慮なアドバイスに反撃いたします。
「い、いや……。ひどいなあ、ゼロ人だよ。そもそも婚約経験がないしね。見合いは何人もしたけどさ」
「お見合いを断ったのなら同罪です。それも何人も……。最低ですね」
 私はあくまで冗談っぽく、追い打ちをかけます。どう切り返しますか?
「違う違う。断られたのさ。俺がひんしゅくを買ってね。」
「そう仕向けたのですか……」
 シルヴが、家同士がセッティングしたお見合いに、そう何度も断られるなんてあり得ません。少し話しただけで人柄は分かるし、魔力も強いのですから。それにイケメンだし。
「どうかなあ? 気づかって、ありのまま接しただけかな。今みたいにね」
 貴族としてより人間として向き合った、ということでしょうか? 相手が家柄や立場などばかりを条件に考えていたのなら、断ってくるでしょう。とんだきづかいです。
「今の私のように、ですね?」
「そう。俺のことを、もっと最低って言うといい。当たってるし」
「人のことを最低って言う私も最低ですね」
「令嬢様はそうだけど、女性の冒険者なら日常だ」
「あはは……」
 なんだか気分が軽くなりました。楽しい会話です。冒険者の私も悪くないかもです。
「以前あなたを見掛けたことがありますよ」
「ああ、東南の託児院にいたね。よく俺に気が付いたなあ」
「魔力が特に高かったですから。そちらこそよく私に気が付きましたね」
「魔獣が同時多発で現われたから、ちょっと気合いをいれすぎだったかなあ。ディアーヌの魔力も目立っていたよ」
 お互い魔力ばかりを気にしていたなんて、ちょっとガッカリの出会いでした。でも貴族なんて、あんがいそんなものなのです。癖になっているのですね。
 私の魔力探知を目立つだなんて、シルヴも相当敏感な探知スキルがあるのでしょう。

 分かれて宿に戻り、一人レストランで食事をとります。輸送隊列キャラバンでここに泊まるのは私だけのようです。
 部屋に入り一人でベッドに腰掛けると暗い気持ちに戻ってしまいました。
 思えば私はアルフォンス殿下の心変わりに薄々は――。いえ、確信的に気が付いていました。もしこちらから婚約辞退を申し出ていれば、状況はどうなっていたでしょうか? 間違いなく、今よりは良いでしょう。
「私は気遣いが足りなかったの?」
 アルフォンス様と私の婚約は、ビュファン公爵家とバシュラール伯爵家の婚約でありました。私たちが幼馴染みとなったのも、両家の関係あってこそです。
 つまり本気だったのは、私だけだったのかもしれません。また涙が溢れてしまいます。
「それとも気なんて使わずに、ありのままであの人に接していれば……」
 もしかすると未来は変わっていたのかもしれません。

 話し相手の精霊様は現われませんでした。
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