【魅了の令嬢】婚約者を簒奪された私。父も兄も激怒し徹底抗戦。我が家は連戦連敗。でも大逆転。王太子殿下は土下座いたしました。そして私は……。

川嶋マサヒロ

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25「威嚇対威嚇」

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「先に進んだら、どうなるかなあ――。試してみよう」
 どうなるもこうなるも、お約束の展開でしょう。更にゾロゾロと人相の悪い人たちが集まって来ます。こちらを排除するつもりなのでしょう。
「おいっ! お前らどこに行くんだ?」
「よそ者かあ?」
 数人が前に出てきました。完全に進路をふさがれてしまいます。
「俺たちは、ただ歩いているだけさ……」
「なら回れ右して歩くんだな」
「そのまま後ろに歩くってのもあるぜ」
「「「ぎゃははは――」」」
 正面の二人が、どうやらリーダー格のようですね。シルヴは右を見て、そして左側も確認いたしました。
 つまらない冗談合戦はすぐに終り、互いにガン飛ばしが始まります。男性たちは口下手くちべたばかりなのですね。そういえば兄上も、話し合いのとっかかりは決闘でしたし。
 まるで獣たちが森の中で突然遭遇したように、しばらく睨み合いが続きます。

「きゃああああっ!」
 一度やってみたかったのです。暴漢に襲われて悲鳴を上げる役。
 後ろから肩に手を掛けられただけですが、大袈裟に声を出させていただきました。
「ひっ、ひひひ……」
 そのガラ悪男は嫌らしい笑いを浮かべて、私に抱きつこうとします。身を屈めてかわしてから、体を伸ばしてアゴに肘打ちを喰らわして差し上げました。
「グガッ! てっ、めえ――」
 しつこく食い下がる相手には、お仕置きですよ! この程度であきらめる人相ではなさそうですが。それに、この髪型がモヒカンというのですね。初めて見ました。感激です。
 私が膠着していた状態を動かしてしまいました。これが女性の役回りなのかもしれません。
 こちらを振り返ってから、シルヴは剣を抜きます。
「先に手を出したのは、お前さんたちだ。首を切り落とされても文句を言うなよな」
 まあ、首をはねられたら文句も言えませんが、せっかく殿方が啖呵タンカを切ったのですから黙っておきますかねえ。
 暴漢さんたちも全員が剣を抜きました。抱きつき未遂モヒカンも、数歩下がって抜剣いたします。
俺たち・・・とやり合うつもりかい」
「二人でか?」
 全員で――十五名ですか。有利さを誇示しつつ、余裕のニヤケ笑いを顔に張り付かせています。
 シルヴは何を考えているのか、剣を高く掲げました。そしてクルリと回して見せます。
「「「「!?」」」」
 全員の首にうっすらと赤い筋が浮かびました。魔力の刃が首の皮一枚より薄く切り裂いたのです。それも一瞬で、十五名全員の――です。
「あとちょっと魔力を込めれば、首と胴体がおさらばするな。もう一度やる?」
 全員が手をやり微量な出血を確かめます。痛みを感じて顔をしかめました。
「くっ、首に――」
「今ので全員にかあ?」
「こ、こいつ……」
 十五名共に後ずさります。大勢で二人を威嚇する人相の悪い人たちと、一人で多数の獲物を相手にする冒険者との格の違いです。
 私はシルヴの袖を引きました。
「帰りましょう」
「だな。戦いにもならない。大量殺人は趣味じゃないし」
 あっけにとられる暴漢者たちを残して、私たちは回れ右いたします。モヒカンが全部で五人もいました。大流行しております。
 一瞬、シルヴのモヒカン姿を想像して吹き出しそうになりました。

「さて、どうするかなあ――。今晩ヒマ?」
「あなたの知っているとおりです」
 表通りに出て後ろを振り返りますが、ここまで追っては来ません。
「まあ、四人で食事か。その後は?」
「寝ます」
「夜中にちょっと探ってみよう。俺の部屋に来てくれ」
 言っている意味は分かります。私もこの街の真実を知りたくなりました。
「いいわよ。ただあなたが私の部屋に来なさい」
「まあ、それでもいいけどさ。同じだし……」
 こちらから夜中に男性の部屋に出向くなんて、プライドが許しません。来いだなんて、なんて失礼な殿方でしょうか。自分が行ってもいいか懇願するのが男でしょうに。
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