氷炎の皇剣伝(ブレイド・ストーリー)

Orca Masa

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第1章 私立煌華学園 入学 編

第9話 罠と幻獣

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――煌華学園 第1アリーナ――


「……次、私がやる。」

「オーケー、そしたらアラムと交代だな。」

 午後の訓練、アラムとの力試しの後に勝負することになったのはリンシンだった。……ってあれ? そもそもこれ、勝負だったっけ?

「一応俺を殺さない程度によろしくな。」

「……知らない。」

「へ?」

 次の瞬間リンシンの姿が消えた。俺は嫌な予感がして自分の周りに氷の結界を張った。

「……小賢しい。」

 その声と同時にリンシンの持つ風牙フォンヤーの刃が氷の結界に当たる。澄み切った音がアリーナに響いたが、今はそんなところに意識を向けている暇ではない。

「女子がそんな言葉を使っちゃダメだろ!?」

 俺は結界を解くとすかさず後ろに下がった。相手は片手で扱う刀だ。両手で扱う刀じゃない分、俺より素早いのは明白。そうと決まれば―――

「……とった。」

 いつの間にかリンシンは俺の背後に回っていた。風牙の切っ先がまっすぐ俺の肩めがけて来る、が―――

「けど甘い!」

 誰もが、その刃が肩に触れたと思ったであろうその刹那、透明な破片が辺りに散り飛んだ。リンシンは距離を取って動きを止める。

「あぶねー! まじで危なかった!」

「……何をしたの?」

「ん? これか?」

 俺はリンシンに肩甲骨の辺りを見せた。そこには厚い氷がくっついているのが見えているはずだ。

「……おそらく、リンシンの強みは素早いことだろう。
 けれども素早いなら素早いなりにこちらにも対抗手段がある。

 まず1つ、素早ければ攻撃を当てに来てもらえばいい。ある程度どこを狙っているか見当がつけば防御は容易だからな。

 そして、2つ目は―――」

 俺は指をパチンと鳴らし、アラム同様に氷の監獄をリンシンの周りに出現させた。

「―――罠にハマるのを待てばいい。」

 そう、こうやって話していること自体が一番の罠だ。話すことで確実に相手の足を止め、そして気づかないうちに準備をして確実に捕獲する。

 けど、俺は一瞬忘れていた。リンシンの持つ刀の威力を。

「……こんなもの。」

 リンシンが檻の中で風牙を投げるモーションを見ることはできた。がその後の行動は見ることができなかった。なぜなら―――

「監獄に……ヒビが!?」

 風牙が刺さった辺りから放射状にヒビが入り中の様子が見えなくなるほど白くなってしまったからだ。

「……この刀を舐めすぎ。」

 柳葉刀の特徴、それは重さにあると言われることが多い。並大抵の人はその刀を自在に操ることはできない。なぜなら……重いのだ。
 そのため遠心力を利用して敵に与える一撃は、防御しても当たりどころが悪いとダメージが入ってしまう。

 きっとリンシンは投げたと同時に、風で加速することで威力を上げ、氷の監獄を破壊したのだろう。もっと監獄の強度を上げる必要があるな……。

 監獄から脱出したリンシンは自身に暴風並みの追い風を吹かせ、一気に俺の懐に入る。

「……私の勝―――」

「―――俺が何もしてないと思ったかい?」

「!?」

 俺は風牙を剣身で受け止めると風牙ごと凍結させた。リンシンが必死に引き剥がそうとするが氷が砕ける様子はない。

「柳葉刀の強みは片手で扱えるところだ。

 それを最大限活用せずに、無理に刀を使うことにこだわると―――」

 俺はリンシンの足を払いバランスを崩した。倒れ込む直前、彼女の腰を背中から抱えるように支える。

「―――こうやって反撃されちゃう。

 さっきリンシンが監獄から脱出する際に、意識を剣身に集中させていたんだよ。いつでも風牙を捕えられるようにね。

 言ったろ? 来てもらえばいいって。」

「……離して。」

「ん?」

「……離してよ。……変態。」

 傍から見ると我ながら恥ずかしい体勢をしているのに今更気づいた。リンシンの顔も少し赤くなっている。

「ご、ごめん!」

 俺は反射的に手を離したが、それもそれでまずかった。支えを失った彼女はそのまま床に倒れてしまった。

「ああ! ごめん!」

「……いい。気にしないで。」

 リンシンはさっさと立ち上がるとユリとアラムの方に戻って行った。あとでなにか奢ってあげよう。

「さて、それじゃあ最後にユリ―――ってあれ?
 おーいユリさーん?」

 ユリはなぜだか下を向いてしまっている。どうしたんだ?

「どうしたユリ? 気分でも悪いのか?」

「リョーヤ……変態なの?」

「え? ごめん、聞こえないよ?」

 周りの訓練の音でユリの声が聞き取りづらいのだ。決して難聴ではない。

「リョーヤ、アンタって、変態なの?」

「え? いや違うぞ?
 あれは完全に事故で―――」

「言い訳無用!!!!」

 次の瞬間ユリの身体から凄まじいオーラがほとばしった。俺は身の危険を感じて結界を生成する。訓練していた他の生徒たちもアリーナの端に退避し始めた。

「アラム、リンシンを頼む!」

「っ! 了解!」

「ユリ、落ち着くんだ! 別にしたくてしたわけじゃないんだ!」

「したくなくてしたの!? 女の子の純情をもてあそんだの!?」

 ああ、これは何を言っても無駄だ。俺はそう判断して深呼吸した。

「ユリ、悪いけどこれ以上暴走するとみんなに被害が出る。

 ここで、強制的に終わりにしてもらうよ。」

 俺は静かに周囲の空気を冷気で冷ましていく。

「自分の非を認めないのは良くないことだって教わらなかったの、リョーヤ?」

「事実を言ってるだけだよ。でもそれ以上暴走されたらこっちが困るからね。」

「アンタを成敗したら治まるよ。」

 ユリはそう言うと切っ先を天井に向けた。

「出てきなさい、私の幻獣たち!」

 するとユリの周囲で炎が渦を巻き、動物の形をかたどっていった。

「これが私の幻獣よ。
 ケルベロス、キマイラ、朱雀、グリフォン。

 みんな、あの―――」

 そう言って切っ先をこちらに向けた。その目は明らかに殺意に燃えている。そんなに変態が嫌だったのか?

「―――変態を殺して。」

「その命令違わないか!? 成敗じゃないのか!?」

 そんな声は届かず、炎の幻獣たちが俺へと向かってきた。

 これは……死ぬかもしれない。
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