氷炎の皇剣伝(ブレイド・ストーリー)

Orca Masa

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第2章 《煌帝剣戟》煌華学園予選 編

第22話 刃の光と真夏の記憶

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――煌華学園 第2アリーナ――


 ………2年前も、こんな眺めがあったな。

 振り下ろされるリクシードの刃が照明の光を反射したのを見た時、中学3年の夏にも似たような光景を見たのを思い出した。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


――梅原中学 3年C組――


「せんせー、教室がとてつもなく寒いでーす。」

 東京の郊外にある公立中学校、市立梅原中学校。そこの3年C組が俺のクラスだ。人数は約40人、男女の人数比は半々、陰キャラもいれば陽キャラもいる、インドア系がいればアウトドア系もいる、いたって普通のクラスだ。

 ………ただ一つ、このクラスに《超越者エクシード》がいることを除いて…。

「おかしいなー、エアコンは付けていないんだけどなー。」

「じゃあ付けてくださーい。」

「夏場にエアコンなんか付けたら、集中管理されてるから冷房しか付かないぞー?」

 先生が壁に設置されたリモコンを操作しながら言った。リモコンに表示された室温は28度、夏の高湿度の室内としては決して寒くはないはずだ。なのにこんなこと言うということは―――

「せんせぇー、アタシの右半身だけ真冬並みに寒いんですけどぉー。」

 金髪の女子生徒が手を挙げて寒さを訴える。その隣の生徒とは―――あぁ、俺だ。

「ん? 夏にはいい冷房になるだろ、沢木?」

「冷房どころか冷蔵庫ですよぉー。撤去お願いしまぁーす!」

 沢木の言葉で教室のあちこちで嘲笑が起こった。このシチュエーションは夏になってからもう何度目だろうか……。最初の方は堪えていたけど、今では慣れてしまった。

「じゃあ先生の膝の上に来るか? ぬくいぞ?」

「先生それセクハラだぜ? そんな事しなくてもそいつを廊下に出せばいいだろー?」

 クラス内順位カーストの頂点に君臨している男子生徒、木下 剛介ごうすけが立ち上がって近づいて来た。彼は小さい頃からラグビーをしていたからか体格が良く、圧倒的な威圧感で誰も歯向かうことはできない。

「おい、歩く冷蔵庫。寒いから外出ろよ。」

「………」

「あ、わりぃー。冷蔵庫に口なんてないもんな、返事出来ないか!」

「………」

「じゃあ障害物認定して教室の外に出しても、誰も文句言わないよな?」

「………」

 ひたすら無視し続ける。イジメとは相手が嫌がったり、怒ったりすることを楽しむ人がいるから起こる。なら無反応で過ごすのが一番だ。

 平均的な学力、最低限の人付き合い、それさえあれば社会に出ることすら拒絶したニートを除けば学校ほど過ごしやすいものは無い、そう思っていた。ニートの方が一番気楽かもしれない、けど両親のスネをかじってまで社会との関わりを断つつもりは無い。

 だから木下みたいなめんどくさいやつとは話さないようにしていた。極力そうしようとした。

 けど、どうしても許せないことが唯一あった。それは―――

「だいたいお前の両親も災難だろうな? ご自慢の息子が人間やめちゃったんだから。

 いや、もしかしたら両親も変わり者なのかもな! 親が親なら子も子、その逆だってあるよな? 子が子なら親も―――」

「黙れよブタ。」

「……あぁ?」

 木下の眉間にシワが寄った。彼がそう呼ばれることを一番嫌う呼び方、ブタ。俺はそれをハッキリと口にした。

 俺が唯一許せないもの、それは自分が気に入っている人や好きな人を侮辱されることだ。

「聞こえなかったのかイベリコ豚。もう一度言った方が―――」

「誰がブタだ、あぁん?」

 木下が俺の胸ぐらを掴んだ。勢いでワイシャツのボタンがいくつか弾け飛ぶ。

「もちろん、目の前にいる木下剛介の事だよバークシャー豚。

 ……あれ? まさか知らないのか?
 ブタって体脂肪率15%前後なんだぞ? 成人男性並の体脂肪率を持つ動物に例えて何が悪いんだよ?」

「――くっ、テメェ!」

 キーンコーンカーンコーン

 木下が拳を振り上げた瞬間、午前の授業の終了を告げるチャイムが鳴った。

「はいはい2人ともそこまで。もう昼休みになるんだからそこまでにしなさい。

 ほらほら、日直も。号令よろしく。」

「チッ……」

 木下は不満そうに舌打ちし、俺から手を離した。去り際に―――

「15分後に屋上に来い。」

 小声でそう言ってきた。この後の展開は………あらかた予想はついていた。



「うぉら! この! 死ね!」

 痛ってぇ……意識が朦朧とする。口の中で血の味が広がる……殴られた衝撃で口内が切れたのだろう。

 指定された時間に夏の日差しで高温状態の屋上へ行ってみると、案の定ドアを開けた瞬間に殴られた。もうかれこれ3分間は殴られ続けている。光の巨人さんですら流石に必殺光線放って、宇宙の彼方に―――いや、ヒトになって?―――帰っているだろう。

「バケモノのクセに生意気な口叩きやがって!

 大人しくどこかの研究所でモルモットになってりゃいいものをよ!」

 罵られながら一つ、また一つと馬乗りになった木下の拳で、顔面にあざが刻まれていく。

 一般人なら既に骨や歯は砕け、目は潰れ、鼻は折れて鼻血が止めどなく流れているだろう。だが《超越者エクシード》ととなった俺は一般人よりも身体が頑丈だ。流石に鼻は折れて、殴られる度に激痛は走るが、口の中の怪我以外に出血はない。

 ちなみに太陽光で熱せられたコンクリートに寝かされているため、背中は既に火傷しているだろう。こればっかりはどうにもならない、出血は短時間で止まっても、治癒能力が向上する訳ではない……。

 そして木下は、俺の頑丈さを逆手に取ってひたすら殴り続けた。カーストの頂点に立つ強者は弱者にバカにされることがあってはならない、そんなことを考えているのだろう。

 ましてやそのカーストの一番下、もはやヒトとして認められてすらいないモノに、ブタ呼ばわりされた怒りは到底収まらないだろう。

「どうだ? そろそろ謝れよ。でなきゃ俺が殺してやるよ。

 ヒトじゃないモノを壊したところで殺人罪は適応されないだろうからな。いいよな、殺しても?」

 木下はそう言うとおもむろに制服のポケットから、カッターナイフを取り出した。いくら《超越者エクシード》と言えど、あれで頸動脈を切られたら止血する前に死ぬだろう。

 不幸なことに―――あいつにとっては幸なことに―――屋上は暑さとセミの合唱コンクールの開催中で、生徒はおろかアリ1匹いない様子だった。

 目撃者はなし、か。

「前から気に入らなかったんだよ。

 俺を無視していつもひとりの世界にいるような顔しやがって、からかっても反応しねぇし、どついて何か言っても他人を見下すようなこと言いやがって。

 ムカつくにも程があるんだよ、テメェはよ。だから俺の目の前から消えろよな?」

 振り上げられたカッターの刃が真夏の眩しい日光を反射した。

 と、その時―――

「2人とも何してんの!?」

 屋上のドアを勢いよく開けて出てきたのは、俺の幼なじみである3年B組の藤ヶ峰 秋代だった。
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