2 / 2
後半
しおりを挟む
「えっと。これを振ればいいの?」
手に持ったのは不思議なサイコロだった。一の目から三の目までしかないのに六面体だ。さっき見つけたものとは違ってキラキラしていない。その木目のサイコロが二つ春の手の中にある。
「そ。そのダイスを二つ振って出た目を足した分だけこのチップの上を進むことが出来るの。奥にある宝物の方が得点が高い可能性があるんだけど。海の底まで潜り過ぎると帰ってこれなくなるから気を付けたほうがいいよ」
海の底と言うのは比喩なのだけれど妙に不安を煽られて本当に帰ってこれない様な気がしてきてしまう。
野上千尋と名乗ったその同期生はサークルに入るなり体験させてくださいと、我が物顔で箱の選別を始めてしまった。ひとり取り残された春はどうしていいものか分からずに辺りをキョロキョロと見渡す。その途中で何人かの男の先輩と視線が交差してしまって気恥しくなって千尋のもとへと駆け寄った。
『これってなにするものなの』
色とりどり、形様々な箱たちは見たこともなくて大事そうに本棚にしまってあるのは分かる。でもそれがなにをするものなのかさっぱり見当もつかなかった。
『ボードゲームだよ。まったく知らない?』
さっきも言っていたけれど。知らない。すごろく?と聞くと千尋は少し顔をしかめた。
『すごろくもボードゲームの一種だと思うけど。なんていうかもっと奥深いの。考えることがたくさんあって。私も動画見るくらいで実際にやったことはないんだけど』
そう口にする千尋の目は輝いていて。その瞳を見ているだけでボードゲームと言うものが素敵な物に思えてきた。
『私にもできるかな』
春が口にしたその言葉は千尋を喜ばせるには十分だったみたいだ。その結果二人でこうやってテーブルをはさんで遊ばせてもらっている。
テーブルには三角形、四角形、五角形、六角形のチップ。それが蛇行しながら小さい面体から大きい面体へ進むようになんとなく並んでいる。色もだんだんと濃くなっていって。海を潜っていくような感覚に襲われる。
『海底探検って言うんだけど。すごろくみたいなものだから一緒にやろうよ』
そう言われてわからないままに勢いに押されて頷いていた。そうしててきぱきと準備が進んでいって出来上がったのがそのチップの列だ。
「これを振って進んでいくんだね。で。宝物ってなに?」
「ボードゲームに得点を稼ぐことで勝利につながることが多いんだけどこれもその一種だね。このチップが宝物なんだけど。得点がそれぞれ隠されているの。持ち帰ったチップの裏面に書かれている得点を多く集めたほうが勝ちってこと。宝物はそれをフレーバーとして使ってるの。イメージしやすいでしょ?」
そうかもしれない。海底に沈んだ宝物であるチップを潜水艦に持って帰ればいいってことらしい。確かに分かりやすい。でも。
「このゲージはなに?」
同じくテーブルに置かれている潜水艦のボードに書かれている一から二十五までを表す点。
「これは酸素。みんなで共有で持っているチップの数だけ酸素が減っていって」
千尋が点の上に赤いマーカー置いてそれを動かしていく。ゼロであろう場所には×印が書いてあって。それが意味するところは。
「ここまで減ったら酸素がなくなって宝物を持ち帰れなくなっちゃうんだ」
「なにそれ。こわっ」
「そうだよねー。本当だったら怖いよね。でもゲームだから大丈夫だよ」
「チップってどうやって手に入れるの?」
チップを手に入れなければ酸素は減らないのだという。であればなるべく持たない方がいいのだろうけれど。それだと勝利に繋がらないと言ったところか。
「ダイスを振って出た目分進んだ場所のチップを取るか取らないかを毎回決めるの。あと、ダイスを振る前に戻るかどうかも決められるよ。引き際が肝心ってやつだね」
簡単に説明してくれるが。要はすごろくみたいにサイコロの目の分だけ進んで止まったマス。このゲームではチップを取ることが出来る。
「あっ。持ってるチップの数がダイス目から引かれるから要注意だよ」
なんだかまたルールが増えてついに混乱し始める。
「う。わかんなくなってきた。ボードゲームってこんなに難しいの?」
さっきからルールが多すぎて頭の整理が追い付かない。これならよっぽど高校までのテストの方が簡単に思えてくる。
「え。あっ。そのごめん。テンション上がり過ぎちゃったみたい。ちゃんと順番に説明するね」
そう大人しくなった千尋は本当に楽しみにしていたんだろうと思う。動画で見ていただけでは物足りなくなって遊んでみたくて仕方なくなったのだろう。その魅力があるのであれば、一緒に楽しみたいとも思えた。
順番に説明書を読みながら一緒にルールを学んでいく。『海底探検』はサイコロでコマを進め、誰よりもたくさんの宝物を持ち帰ることを目指すテーブルゲームです。とある。なんでも欲張りな乗組員たちは我先にと海底に眠る財宝を探索したいらしい。でも酸素の供給されるタンクはひとつ。無謀な人がひとりでもいると全員の命が危険にさらされる。そんな中、宝物を持ち帰ることができるでしょうか。そう問いかけられている。
これがさっき千尋が言っていたフレーバーってことなんだ。ようやく理解するのと同時に自分が潜水艦の乗組員になった気にもなってくる。隣にいる千尋より、より深くに潜って宝物を持ち帰ればいい。でも欲張りすぎると空気がなくなってしまう。だったらサイコロの目をより多く出せばきっと勝てる。
自信満々にサイコロを握る。さっきの続きだ。
「あれ。千尋」
もう呼び捨てでいいや、競争相手に遠慮は無用だ。そんなことより気になることが書いてある。
「これ三人から遊ぶみたいなんだけど。ふたりでもできるの?」
「えっ?確かに動画でも四人でやってた……もしかしなくてもダメかも」
途端に瞳の輝きが消えて落ち込み始める千尋。ああ。そんなんじゃこっちもせっかく盛り上がってきたのにテンション下がっちゃう。
「ね。だったら探しに行こうよ。一緒に遊ぶ相手」
驚いた表情で千尋が顔を上げてこちらを見てくる。その瞳には炎が灯った気がして春もわくわくしてくる。
「そんな人いるかな」
私はどうなのさ。そう言いたくなったけれどここでそんなことを言ってもしかたない。
「私みたいにサイコロに反応する人もいるかもしれないし、その辺りに置いてみようよ。そうじゃなくてもゼミに知り合い位できるでしょ。端から誘っていけばきっとみつかるよ」
そうかもしれない。居ても立っても居られないと言った様子で千尋が立ち上がる。
「よし。じゃ、いこ。仲間探し」
なんだ。そのワクワクする言葉は。
慣れない大学生活。見たこともない未知の遊び。
偶然迷い込んだこの世界はもしかしたら自分を予想以上に楽しませてくれるものなのかもと。
千尋と一緒にサークル室の扉を開けた。
後ろで、あいつらなんなんだと呆れた声が聞こえてきて。そういえばまだ、なにも表明していないことに気がつく。
「私たちこのサークル入るのでよろしくお願いしますっ」
まだ勧誘もしてないのに。そう言っているみたいな表情の先輩たちが妙におかしくて千尋と声を上げて笑ってしまった。
手に持ったのは不思議なサイコロだった。一の目から三の目までしかないのに六面体だ。さっき見つけたものとは違ってキラキラしていない。その木目のサイコロが二つ春の手の中にある。
「そ。そのダイスを二つ振って出た目を足した分だけこのチップの上を進むことが出来るの。奥にある宝物の方が得点が高い可能性があるんだけど。海の底まで潜り過ぎると帰ってこれなくなるから気を付けたほうがいいよ」
海の底と言うのは比喩なのだけれど妙に不安を煽られて本当に帰ってこれない様な気がしてきてしまう。
野上千尋と名乗ったその同期生はサークルに入るなり体験させてくださいと、我が物顔で箱の選別を始めてしまった。ひとり取り残された春はどうしていいものか分からずに辺りをキョロキョロと見渡す。その途中で何人かの男の先輩と視線が交差してしまって気恥しくなって千尋のもとへと駆け寄った。
『これってなにするものなの』
色とりどり、形様々な箱たちは見たこともなくて大事そうに本棚にしまってあるのは分かる。でもそれがなにをするものなのかさっぱり見当もつかなかった。
『ボードゲームだよ。まったく知らない?』
さっきも言っていたけれど。知らない。すごろく?と聞くと千尋は少し顔をしかめた。
『すごろくもボードゲームの一種だと思うけど。なんていうかもっと奥深いの。考えることがたくさんあって。私も動画見るくらいで実際にやったことはないんだけど』
そう口にする千尋の目は輝いていて。その瞳を見ているだけでボードゲームと言うものが素敵な物に思えてきた。
『私にもできるかな』
春が口にしたその言葉は千尋を喜ばせるには十分だったみたいだ。その結果二人でこうやってテーブルをはさんで遊ばせてもらっている。
テーブルには三角形、四角形、五角形、六角形のチップ。それが蛇行しながら小さい面体から大きい面体へ進むようになんとなく並んでいる。色もだんだんと濃くなっていって。海を潜っていくような感覚に襲われる。
『海底探検って言うんだけど。すごろくみたいなものだから一緒にやろうよ』
そう言われてわからないままに勢いに押されて頷いていた。そうしててきぱきと準備が進んでいって出来上がったのがそのチップの列だ。
「これを振って進んでいくんだね。で。宝物ってなに?」
「ボードゲームに得点を稼ぐことで勝利につながることが多いんだけどこれもその一種だね。このチップが宝物なんだけど。得点がそれぞれ隠されているの。持ち帰ったチップの裏面に書かれている得点を多く集めたほうが勝ちってこと。宝物はそれをフレーバーとして使ってるの。イメージしやすいでしょ?」
そうかもしれない。海底に沈んだ宝物であるチップを潜水艦に持って帰ればいいってことらしい。確かに分かりやすい。でも。
「このゲージはなに?」
同じくテーブルに置かれている潜水艦のボードに書かれている一から二十五までを表す点。
「これは酸素。みんなで共有で持っているチップの数だけ酸素が減っていって」
千尋が点の上に赤いマーカー置いてそれを動かしていく。ゼロであろう場所には×印が書いてあって。それが意味するところは。
「ここまで減ったら酸素がなくなって宝物を持ち帰れなくなっちゃうんだ」
「なにそれ。こわっ」
「そうだよねー。本当だったら怖いよね。でもゲームだから大丈夫だよ」
「チップってどうやって手に入れるの?」
チップを手に入れなければ酸素は減らないのだという。であればなるべく持たない方がいいのだろうけれど。それだと勝利に繋がらないと言ったところか。
「ダイスを振って出た目分進んだ場所のチップを取るか取らないかを毎回決めるの。あと、ダイスを振る前に戻るかどうかも決められるよ。引き際が肝心ってやつだね」
簡単に説明してくれるが。要はすごろくみたいにサイコロの目の分だけ進んで止まったマス。このゲームではチップを取ることが出来る。
「あっ。持ってるチップの数がダイス目から引かれるから要注意だよ」
なんだかまたルールが増えてついに混乱し始める。
「う。わかんなくなってきた。ボードゲームってこんなに難しいの?」
さっきからルールが多すぎて頭の整理が追い付かない。これならよっぽど高校までのテストの方が簡単に思えてくる。
「え。あっ。そのごめん。テンション上がり過ぎちゃったみたい。ちゃんと順番に説明するね」
そう大人しくなった千尋は本当に楽しみにしていたんだろうと思う。動画で見ていただけでは物足りなくなって遊んでみたくて仕方なくなったのだろう。その魅力があるのであれば、一緒に楽しみたいとも思えた。
順番に説明書を読みながら一緒にルールを学んでいく。『海底探検』はサイコロでコマを進め、誰よりもたくさんの宝物を持ち帰ることを目指すテーブルゲームです。とある。なんでも欲張りな乗組員たちは我先にと海底に眠る財宝を探索したいらしい。でも酸素の供給されるタンクはひとつ。無謀な人がひとりでもいると全員の命が危険にさらされる。そんな中、宝物を持ち帰ることができるでしょうか。そう問いかけられている。
これがさっき千尋が言っていたフレーバーってことなんだ。ようやく理解するのと同時に自分が潜水艦の乗組員になった気にもなってくる。隣にいる千尋より、より深くに潜って宝物を持ち帰ればいい。でも欲張りすぎると空気がなくなってしまう。だったらサイコロの目をより多く出せばきっと勝てる。
自信満々にサイコロを握る。さっきの続きだ。
「あれ。千尋」
もう呼び捨てでいいや、競争相手に遠慮は無用だ。そんなことより気になることが書いてある。
「これ三人から遊ぶみたいなんだけど。ふたりでもできるの?」
「えっ?確かに動画でも四人でやってた……もしかしなくてもダメかも」
途端に瞳の輝きが消えて落ち込み始める千尋。ああ。そんなんじゃこっちもせっかく盛り上がってきたのにテンション下がっちゃう。
「ね。だったら探しに行こうよ。一緒に遊ぶ相手」
驚いた表情で千尋が顔を上げてこちらを見てくる。その瞳には炎が灯った気がして春もわくわくしてくる。
「そんな人いるかな」
私はどうなのさ。そう言いたくなったけれどここでそんなことを言ってもしかたない。
「私みたいにサイコロに反応する人もいるかもしれないし、その辺りに置いてみようよ。そうじゃなくてもゼミに知り合い位できるでしょ。端から誘っていけばきっとみつかるよ」
そうかもしれない。居ても立っても居られないと言った様子で千尋が立ち上がる。
「よし。じゃ、いこ。仲間探し」
なんだ。そのワクワクする言葉は。
慣れない大学生活。見たこともない未知の遊び。
偶然迷い込んだこの世界はもしかしたら自分を予想以上に楽しませてくれるものなのかもと。
千尋と一緒にサークル室の扉を開けた。
後ろで、あいつらなんなんだと呆れた声が聞こえてきて。そういえばまだ、なにも表明していないことに気がつく。
「私たちこのサークル入るのでよろしくお願いしますっ」
まだ勧誘もしてないのに。そう言っているみたいな表情の先輩たちが妙におかしくて千尋と声を上げて笑ってしまった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
『 ゆりかご 』
設楽理沙
ライト文芸
- - - - - 非公開予定でしたがもうしばらく公開します。- - - -
◉2025.7.2~……本文を少し見直ししています。
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
――――
「静かな夜のあとに」― 大人の再生を描く愛の物語
『静寂の夜を越えて、彼女はもう一度、愛を信じた――』
過去の痛み(不倫・別離)を“夜”として象徴し、
そのあとに芽吹く新しい愛を暗示。
[大人の再生と静かな愛]
“嵐のような過去を静かに受け入れて、その先にある光を見つめる”
読後に“しっとりとした再生”を感じていただければ――――。
――――
・・・・・・・・・・
芹 あさみ 36歳 専業主婦 娘: ゆみ 中学2年生 13才
芹 裕輔 39歳 会社経営 息子: 拓哉 小学2年生 8才
早乙女京平 28歳 会社員
(家庭の事情があり、ホストクラブでアルバイト)
浅野エリカ 35歳 看護師
浅野マイケル 40歳 会社員
❧イラストはAI生成画像自作
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる