ボドゲタイム

霜月かつろう

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 賑やかな場所は好きなのだけれどはしゃぎすぎている人たちに囲まれ続けるのは苦手だったりする。せっかく整えた少しウェーブのかかった肩まで伸びた髪の毛が誰かに当たるのをいちいち感じるのも気を使わないといけないのも嫌だ。せっかくふんわりとセットしてきたのに崩れてしまうのも気に入らない。

 という理由が辺りの人たちに伝わるはずもなくて押したり押されたり。人より少しだけ体格が小柄な河野春こうのはるはまるで押し出されたピンボールみたいにあちこちの人に弾かれながらどこへと決める間もなく進む。

「ねぇ。君って新入生だよね」
「テニスサークル。バビロンだよー。今夜飲み会あるからよろしくねー」
「アニメって興味ある? 今期は良作ぞろいだよね」
「学園祭を一緒に盛り上げようよ」

 なんて言葉が飛び交うことから今が大学のサークル勧誘の時期であり、その人ごみに春がもまれているのは説明するまでもない。

 動きやすいようにズボン履いてきてよかった。慣れていないスカートなんて履いてきたらこの人ごみでどうにかされてしまったかもしれないとさえ思う。

 やっとのことで人ごみを抜け出すとようやく一息を入れる。

 こんな風に人が集まることなんていまだにあるんだと妙に感心してしまう。アニメや漫画だと見たことはある景色だったけれどまさか自分がその中に入り込むなんて考えたことはあったけれど信じてはいなかった。

 広いと思っていた大学構内が人で埋め尽くされている。こんなに多くの人が通っているのかと思うとこれからの大学生活になんだか、無性に不安をかじるのだけれどその原因にまったく見当もつかなくて考えるのをやめる。せっかくの大学生活精いっぱいに楽しむと決めたのだ。

 どこか楽しげなサークルはないかと辺りを見渡そうとするが人の垣根に阻まれて遠くを眺めることができない。であれば高台に向かうしかないと少しでも高いところを目指す。幸いこの大学は傾斜があって登ること自体は容易だ。でも人の心理がそうさせるのか人の流れは上から下へだ。その流れに逆らうには体力が必要そうだったので春はすぐに切り替える。

 抜け道とかないのかな。あたりを人の流れの隙間を利用して辺りをキョロキョロと探す。棟と棟の間に道が伸びているのを見つけて、あった。と思わず口にしてしまった。喧騒のおかげでだれにも聞こえなかっただろうけれど。無邪気にはしゃいでしまったことがすこし恥ずかしく思えてそこから逃げ出す様に駆け足でその見つけた抜け道へと入り込む。

 ようやく一息つける。そうしてから足を進め始める。まるで繁華街の裏通りに迷い込んでしまったようなその道で自分だけの道みたいで春は足取りが軽くなる。ぐるりと棟を回り込むようにしながら坂を上る。これからこの中で勉強するんだよね。と見慣れない横に長い机を建物の窓から眺める。

 あれ?なにか光った。

 首をかしげながら窓に近づいて中を覗き込むけれどその光源がなにかははっきりしなくて、好奇心だけが膨れ上がっていく。

 建物に入っちゃいけないとかないよね。もうここの学生なんだし。

 そう自分に言い聞かせ、どこからか入れる場所がないかを探り始めた。講義をするために作られたその建物には余計な物はなくて。春からの抗議のお知らせが張り出された掲示板とか、教授からのお知らせとか。これまでの人生で関りがなかった光景が広がり続ける。さっきの部屋はどこかなとその光景に後ろ髪をひかれながらも好奇心を優先する。

 なんだったんだろう。机に置いてあるのだから汚いものものではないはずだ。抗議に使うものだとしても想像ができない。もしかしたらなんでもない文房具の一部だったりするかもしれない。

 でも、だれも居ない建物にドキドキとワクワクが止まらなかったし。その先にあるものが気になって仕方がなかった。

 ここかなと思った扉を開けたところでどこも似たような景色が広がるだけ。それを繰り返すうちに目的の場所をすっかり見失ってしまった。それでもここまで来て引き返すわけにもいかず、とりあえずは開けてはその部屋をぐるりと見渡すのをしばらくしていた。

 そして。

「あった」

 思わず声に出してしまったくらいには諦めかけていたころだ。光るそれは傾きかけている太陽を反射しているように見えた。

 すぐさま駆け寄って手に取ってみる。

「さ、さいころ?」

 透明なサイコロがそこに転がっていた。小さなでもキラキラして中に何か浮かんでいる。

「きれい」

 思わずそう呟いていた。こんなさいころが存在するだなんて思いもしなかった。しばらくのあいだずっと見ていたいとさえ思えてくる。

 すごろくとかで使ったことがあるものより高級感がある。でも、なんでこんなところに。

「あー。それ。私のなんだ。拾ってくれたんだね。ありがとう」

 だれも居ないと思っていた部屋に突然声が響いて驚いてしまう。おそるおそる声の主の方を見ると、女の子がひとり立っていた。背は春より高く、身にまとっている雰囲気も大人びて見えるから先輩だろうか。

「ねえ。もしかしてサークル探してる新入生だったりする?」

 やっぱり先輩なんだ。もしかしてこのさいころもサークル活動で使うものなのか。だとしたらすごろくでもするのか。それとも丁とか半とか言うあれか。いやいや、そんなのが大学に認められているとは思えない。

「私もこれからボードゲームサークルに顔を出すんだけど良ければ一緒に行かない?」

 先輩だと思っていた同期の子からの誘いは思いがけないものだった。
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