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火薬・取扱い説明書・タピオカ

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 取扱い説明書を読むのが苦手だ。最初から丁寧に読んでも大事なところに辿り着く前に読み疲れてしまう。必要なところを探そうと思っても上手に探すことが出来ずにいつも諦めてしまう。

 丁寧に書いてあるのはいいことだ。そう思うけれど、堅苦しいしなにより読んでいて面白くない。もっと軽い文体で書いてくれれば少しは読みやすくなるのに。

 そう読む気がなくなった説明書をペラペラとめくる。数ページならまだしも、眼の前に置かれている説明書は数十ページにも及ぶ。これだけの量を書いた人を想像して、その仕事っぷりに頭は下るけれど。読みにくいよの一言を伝えたくなってしまう。

 タピオカミルクティーなんて今更になって飲みたいなんてお願いでもされなければこんなものと向き合わなくてよかったのに。そう愚痴も溢れる。

 大体、どこにでもお店があったのにもう賑やかな場所でしか見当たらないのもおかしな話だ。コンビニですら売っていたのにそれも見かけない。ブームが廃れるのが早すぎる。

 そんなときの流れについていけないものもいるのだ。そこももう少し考えてほしかったりもする。とは言えタピオカミルクティーとは自分すら今更と声を出してしまった。

 通販で取り寄せたタピオカ粉と説明書を交互に睨みつけながら格闘し始めてもう数十分が経とうとしている。

 原因は色々あるけれどすべての元凶はこの一枚の注意書きだ。

『作り方を間違えると火薬になる可能性があります。しっかり取扱い説明書をお読みいただき手順を間違えないようにしてください』

 なんてものを販売しているのだ。世の中どうなっているのだ。しかし、鵜呑みにしないという訳にもいかない。

 タピオカブームの中でちょっとだけニュースになったことがあったのだ。タピオカ入りの飲み物を飲んだ人たちが次々と爆発する事件。犯人も分からず、誰も信じやしなかった事件。都市伝説みたいな噂話に尾ひれがついてまわったものだとばかり思っていた。

 それがまさか、それを思い出させてくるとは。

 嘘だと突っぱねて好き勝手に作る勇気もない。それを鵜呑みにして説明書通り作る気力もわいてこない。

「よしっ。見なかったことにしよう」

 すべてをなかったことにする。なあに。タピオカミルクティーが飲めないくらい。我慢してもあろう。これは見なかったことにする。

 そう心を決めて台所の戸棚にしまった。

 でも、それもやっぱりだめだったのだ。ちゃんと捨てなくては。数週間後。散らかった台所を目にして取扱い説明書はしっかりと読まなくてはだめなのだと。身にしみた。
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