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45度・くじら・地球人

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 自分のことを地球人だと思ったことがない。それは当然で、この世界、地球人しかいないんだから地球人と思う必要がない。だからその意味で思ったことがないだけで、実際は地球人他ならない。

 なんでそんなことを急に思ったかかと言えば、宇宙人の話をしているから。よくあるいるかいないか論争ではない。いるのだからどんな姿をしているかで話題になったのだ。

 昔ながらのタコ型火星人を始め色々なSF作品から引用した様々な宇宙人の形態が提案され続けた。その中には精神体などの実体をもたないものまで出てきたのだけれど。その中でも盛り上がったのはくじら型宇宙人だ。

 それはもう盛り上がった。最初はくじら型であればそれはそもそも宇宙人じゃなくて宇宙船じゃないかとか。宇宙空間でも通信可能な音波を発信するのではないかとか。宇宙に漂流しているプランクトン代わりの鉱石を身体に蓄積しながら成長していくだとか。話はだんだんと宇宙人と言うより宇宙を漂うくじらの話にシフトしていった。

 その宇宙を漂う姿を想像するだけでなんだか心地よい気持ちになれるのだ。くじら自身も気持ちよさそうに広大な宇宙を漂い続ける。目的は少なく、宇宙に転がる塵を体内に取り込む様子は掃除屋さんのようでもある。

 いずれこの地球にたどり着くときがあるのかもしれない。それをこの地上から見上げることが出来るのであればそれはとても素晴らしい天体ショーになる。

 そんなことを言ったらそんなに大きかったら何らかしらの影響が出そう。と言われたけれど。きっとなにか不思議な力で影響を与えないことが出来るとした。そうでもしなければただ漂うことなんて到底無理だからだ。

 そこまで言ったら精神のみの生物のようにも思えるけれど。ちゃんと身体はある。鉱石の身体だ。それは速度さえ違えど彗星のようなものかもしれない。ただ、くじらにはちゃんとした目的があって漂っている。

 宇宙に存在する同種と出会うためだ。どれくらいの時間を要するのかわからないその旅路は次の世代へ生命をつなぐためのもの。

 斜め45度。それがくじら同士が出会ったときに行う儀式だ。身体をずらして出会いをよろこぶ。

 なぜだかわからない。けれどそうすることで互いの腹がぶつかり合い。新たな鉱石が産まれる。そこから新しいくじらが孵る。

 不思議なくじらは三匹で宇宙のどこかで漂っている。そんな妄想を全員で共有したところで不思議な会合は終わりを告げた。
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