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多肉植物・ゼンマイ・アグレッシブ

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 アグレッシブに動くのは苦手だ。休日は家にいたいし、仕事の日だって帰りにどこかへ寄り道をする元気はない。だから自然と楽しみは家の中へと集中していく。食、工作、読書、映画、テレビ、パソコン。どんどんと充実していく自室にだんだんと承認欲求が増していく。自室の充実具合を自慢したくなっていったのだ。

 けれど、自宅に呼ぶような友人は思い当たらない。悩んだ結果、SNSへ写真を登校するところから始めた。

 料理器具から始まり、自分の調理した料理。自作のテーブルや椅子。その日読んだ本や観た映画の感想などなど。その日したことあったことを広める毎日。しかしその成果はちっとも出ない。いいねを押されなければコメントのひとつもありやしない。インプレッションだって伸び悩んでいる。

 どこのだれとも知らない人間の自慢話など、興味がある者は少ないと言ったところか。

 そうなればなるほど、意固地になってどんどんと投稿の回数は増え、投稿するための生活へと移行していく。

 評論家の真似をして映画やテレビの感想を述べ始め、料理の飾り付けにも拘り始めた。

 そうしてようやっていいねも増え、コメントも多くなってきた頃。途端に覚めた。まるで巻いていたゼンマイが動ききってしまったみたいに。急に。

 脱力感に襲われた。なんでも揃っている自室がうっとおしくすら思えてくる。どうしてこんなことになってしまったのだと、考えるけれど思い当たらない。引っ込み思案だっただけだ。自室でいることがなによりも幸福だと感じていた。それなのにどうしてこんなことに。

 散々悩んだあげく、悩むことにも疲れて、そろえにそろえた物を全て捨てた。後ろ髪を惹かれながらもこれは必要なことなんだと自分に言い聞かせた。

 そして今、部屋にあるのは多肉植物が植わった植木鉢がひとつ。ただそれを眺める時間を大切にしている。

 この贅沢な時間を誰かに知ってほしいと。スマホを手に取るとSNSのページを開いた。
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