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新しい眼鏡・紫外線・全自動

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 新しい眼鏡を買った。前の眼鏡がダメになったわけじゃない。まだ使えるし、なんならお気に入りだ。それなのに新しいのを用意した。それにはそれなりの理由がある。

 なんてことはない。

 単に気分の問題だ。それも随分と移り気な問題だ。けれど自分にとっては重要なこと。そんな話が身に覚えがある人も多いだろう。心機一転じゃないが眼鏡をかけかえることで自分に気合を入れようとしたのだ。

 転職活動。そのための第一歩。今の会社にいてもなにも変わらないし変えられない。そう思っての決断だ。眼鏡を変えたくらいでなにかが変わるなんて思っていない。変えるためのきっかけにしなくてはならないってことだ。

 フレームは比較的素早く決まった。自分に似合う眼鏡は決まってきている。できるだけまあるくてフレームが細いほうがいい。それよりも悩んだのはレンズだ。薄いのからカラーレンズ、ブルーライトカットレンズの効果はないという話が広まっていたのかプランからなくなっていた。なやんだすえに紫外線を防いでくれるUVカットレンズに決めた。

 眼鏡を通して見える世界に変わりはなかった。UVカットの効果を身にしみて体験することはない。そりゃ当然だ。少しくらいは背中を押して欲しいと思ったりもする。

 つまりは変えたい、変えたいと思っていても。その覚悟は決まってないのだ。全自動で次の職場まで決めてくれる装置があって欲しいとすら思う。

 覚悟が足りない。だれかにそう言われても反論できないかもしれない。そう思ったところで眼鏡を外した。

 そのままもらった眼鏡ケースにしまう。

 またかけたくなる日がくるだおろう。その時は、前に進めるといいな。なんて思いながら。

 そう思っているうちはきっと無理なのに。そうすることをやめられなかった。
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