機械少女は人間の夢をみるか? 選択編

霜月かつろう

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第2話 物騒な街

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「ここ?」

 見上げた建物は、特に意匠を施されていない、無骨な建物だ。ここの三階が探偵さんの探偵事務所。おばさんから教えてもらった。ちょっと迷ったりはしたけれどまだ夕刻。日は顔を隠してはいないし、探偵事務所もまだ開いているだろう。

 おばさんは、ずっとかわいがってくれた。それが初めての経験で戸惑いもしたのだ。

『お礼でも言うのかい? あの人にとってはいつものことだから特に気にしちゃいないさ。そんなことより、あんた随分とかわいいね。よかったらここで働かないかい?』

 さらにはおばさんにそう提案されたのだけれど、働くってことが分からなかったし、行かなきゃいけない理由があったから断った。そうしてようやくここたどり着いた。

 着慣れない服に戸惑ってしまい、建物を見つけるのも一苦労。どうしてこんな動きにくい服を着せられたのだろう。白いワンピースは少し走るだけでスカートの裾が舞い上がりそうになって素早く動けやしない。

「おい! いたぞ! あいつだ!」

 突然の大声に反応してそちらを見てみると、黒服スーツを着た男たちが大群で押し寄せている。狙いは間違いなく自分だと判断し、スカートの裾がまくれ上がるのをお構いなしで全力で走り始めた。

 本来であれば逃げる必要はないのだけれど。

 この格好で目立ちたくないし、探偵事務所の前で争っていたら、依頼をお願いした時にも迷惑が掛かるかもしれない。

 動きにくいことに文句を覚えながらも、黒服たちとの距離を離していく。

 なんだ。大したことないな。街の入口を警備していた人たちも同じ格好をしていたから、きっと仲間なのだろうが、外の世界の猛者に比べればちっとも強くない。

 それに、外にはもっとヤバいやつらもいるのだ。

 路地裏に逃げ込む。周りに人がいないことを確認して、建物の出っ張りに身体を隠す。小さい身体はこんな時には便利に働く。

「こっちに逃げたぞ! 追え! お前らは回り込むんだ」

 戦力を分断してくれるのは非常に助かる。

 近づいてきた黒服の足元に対して少女は自らの足を差し出す。走っている黒服はそれにつまずいて転ぶ。地面に倒れる前に反対足でお腹の辺りを蹴り上げる。すると、黒服は宙に舞い上がる。

 驚いたのはそのあとに続く黒服たちだ。いち、に、さん。今蹴り上げたのを含めて四人。狭い路地では黒服ふたりが並ぶのに精一杯の幅だ。どうしたってひとりずつ並ぶ。

 倒れたひとりの懐から拳銃を奪い取ると、すぐさま追ってくる黒服に向かって構える。黒服は一瞬ギョッとした表情を見せるけれど、お構いなしに距離を詰めようとする。

 正解だ。こちらとしてはおののいて、立ち止まってくれた方が狙いがつけやすい。黒服たちも拳銃を少女に向けて応戦する。避けている暇はなく当たらないことを祈りながら、構えた拳銃を撃ち放つ。

 何発か身体を掠めたが分かった。

 けれど。どちらにせよ、結果は変わらない。

 連続して細い路地裏に銃声が響き渡る。瞬時に三回。

 ひとり当たり一発で倒れるなんて大したことない。街の中はやはり平和なんだ。

「私は呼ばれてここに来たって言うのに。どうして、こんな出迎え方をされているの?」

 動かなくなった黒服たちは返事もしてくれない。仕方ないので探偵事務所へ足を向ける。日が出ていたのに、もうすっかり辺りが暗くなっている。探偵さんはまだ事務所にいるだろうか。

 念のため拳銃を倒れている黒服から奪っておく。両方の太ももにベルトを付けてそこに装着する。そこで気づいたのだけれど、いつの間にか皮膚がめくれて中身があらわになってしまっていた。よく見れば腕もだ。

 まあ、気にすることもない。見られたところで大した騒ぎにもならないだろう。そんなことより、スカートが汚れてしまった。あちこち走り回っていたのだから仕方がないが、おばさんに対して申し訳ない気持ちが浮かびがる。

 とりあえず、探偵さんに会いに行かなくては。

 暗くなって辺りを照らし始めたのは街中のガス灯の光だ。それが照らしているのは街の景観。パイプが建物から突き出している。歯車があちこちに設置されていて何かを動かし続けている。金属製の歯車はガス灯の明かりを柔らかく反射して辺りを更にぼんやりと染めている。

 こんな街もあるんだ。少女が知っている街とは随分と違う印象を受ける。これまで見てきた街はもっと洗練されていた。整っていたとも言えるし、人間味もなかったとも言える。

 この街に呼ばれた理由は分からなし、呼ばれたのにもかかわらず拒まれているのも理解が追いつかない。さらに行かなきゃいけない場所はこの街の中心。そびえ建つ塔だ。そこに行くにはもっと警備が厳しい場所に行かなかればならない。

 そのために探偵さんが必要だって言うのは、教えてもらった。

「さっ。急がなきゃ」

 追手がいつ襲い来るのかも分からないことだ。急ぐことに越したことはない。
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