機械少女は人間の夢をみるか? 選択編

霜月かつろう

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第21話 弟の思惑

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「その減らず口を塞がないと次はその歯車を止めるぞ」

 いつの間にか現れたお医者さんは少女に乗りかかっている。おそらく地面に転ばせたのも彼だろう。そしてそのお医者さんの顔の向こうに見えるお姫様の表情はさきほどまでの穏やかなものとは違って、なにかに怯えている様に見えた。

「姉さん。上に戻ってくれないか。そんな状態じゃ、こいつの面倒なんて見れないだろう。僕もすぐに行くからさ。お願いだよ姉さん」

 お医者さんの口調の違いに驚きながらも少女を今すぐどうにかするわけではないようなので床に押し付けられたまま大人しくしていた。よく見えないのだけれど、お姫様は両手を顔に当てていて表情は歪んだままだ。

「え、ええ。分かりました。その子は任せました」

 足を引きずるように歩きながらお姫様は来た方向へと去っていった。

「ねえ。いつまでこうしているつもり? もういいでしょ?」

 少女の上からどこうとしないお医者さんに対して強めの語気で言ってみる。軽い挑発の意味も含めている。こんなことをわざわざしたのだ。少女の言葉に反応したとしか思えない。

「余計なことを姉さんに吹き込まないでほしいな」
「余計なこと? 真実だと思うのだけれど」
「それが余計なことだと言うんだだよ」
「真実が余計なことだなんて、随分なことね。お姫様って言うのは飾りなの?」
「ちっ。随分と頭が回る個体だな。ほんとに戦闘型か? それともあの探偵が余計なことばかり吹き込んだか? まあいい。キミは大人しく頭の中の情報を引き出させてくれよ」
「それで終わるなら喜んでそうするけど。あなた達はこれをいつまで繰り返すつもり?」

 自分でも驚く。挑発しているつもりではあったけれど、そんなことを言うつもりはなかった。自然と出てきたし、たしかにそう思っている。

「いつまでって。先に進めるその時までだよ。この世界は人間がいなくなったって終わらせない。それは姉さんも同じ想いだ。それが僕らが造られた理由だからね」
「さっきからそればかり。それはもう分かった。それ以外に理由ないの? いなくなった人間のための社会なんて意味がないと思うのだけれど」
「キミにその意味が分かるとは到底思えない。何も知らないのに余計なことばかり言って欲しくないんだよ。大体キミに関係あることじゃない。キミは戦うために造られ、データを持ち帰るためだけに呼ばれた。あとはその使命を果たすだけだ。そこになんの問題がある?」
「あなたちは今のこの世界を簡単にリセットすると言った。それも何度も。この街のアンドロイドたちのことをなかったことにしようとしている。彼らを犠牲にするほどの意味があるの?」
「たった数日の交流ですっかり感情移入か。まったくもって理解できない思考だ。意識覚醒をする個体はどいつもこいつも能書きばかり、理想ばかりだ。こっちだってやりたくてやってるわけじゃない。他に方法がないからやってるんだ。生まれたばかりのお子様が口を出さないでほしいね」

 お医者さんの言う事はきっとそうなのだ。この場所のことを何も知らず、管理者たちの都合も、理想も、行ってきたことも知りはしない。でもだからって。

「あなたちはアンドロイドとして生きることを諦めてしまったの?」
「はっ。それこそ、何も知らない新しい個体の言葉だね。そんなことはとっくの昔に考え、考え抜いて、過ぎてしまったことなんだよ。キミは大人しくこちらの言うことに従っていれば良いんだ」
「今のままでは無理。少なくともお姫様は私に納得してから協力をお願いしていた。あなたは違うのね」
「あれはそういう風に出来ているからね。それは仕方がないことだ。しかし、だからと言ってそれが全てではないのだよ」
「話が平行線ね。そろそろ私の上から降りてもらえるかしら」
「キミが同意してくれればすぐにどいたのだけれどね。まあいい。一旦はどいてあげるよ」

 お医者さんはゆっくりと立ち上がる。ようやく解放された少女は素早く起き上がるとお医者さんとの距離を保とうと一歩下がった。

「それでどうするの? 実力行使でもするの?」
「いや、それはどうでもいいかな。どちらにせよキミは戻ってくるんだ。今更どうこうできる問題でもない。素直に言うことを聞いてくれたら、楽だったというだけの話だ」
「戻ってくる? 私はそもそもどこかへ行くなんて言っていないけれど?」
「どうだろうか。キミに選択する機会を与えよう。このまま素直に言うことを聞いて、この社会の発展のために犠牲になるのか。ここから逃げ出してアンドロイドの尊厳とやらを守り、世界とともに何も変わらずただ朽ちていくかだ」

 それが選択肢? もっと他にもありそうなものだけれど。どうしてその二択なのだ。

「個々から逃げ出すことがどうして何も変わらないと言えるの? もしかしたら変えられるかもしれないでしょう?」
「どうやら逃げる気みたいだね。それなら手伝ってあげよう」

 お医者さんが指を弾いて音を出すと、後方からスッと探偵さんが姿を現した。

「探偵さん?」

 でもその様子はどこかおかしいように見えた。黒服たちと同じ様に動きに迷いがない。それは不自然でしかない。探偵さんであるのに探偵さんでない。

「探偵さんに何をしたの?」
「少しいじらせてもらっただけだ。素直に言うことを聞いてもらえるようにね」
「元に戻して」

 湧き上がってきた感情はきっと怒りと言うのだろう。自然と言葉に力がこもる。

「ああ。戻してやるよ。もしもまたここへ戻ってこられたらの話だけどね」

 お医者さんの言葉の意味を理解する前に探偵さんに何かを突きつけられ身体に触れたと思った瞬間に意識が失われていった。
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