機械少女は人間の夢をみるか? 選択編

霜月かつろう

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第29話 問題の先送り

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「ここまで知ってまだ悩むか。まあ。それもいいさ。少し時間をやる。探偵はそれまでこのままだ。ゆっくり考えるといいさ」

 お医者さんは少女から離れていく。

「ああ。この塔は好きに動き回ってくれていい。街に降り立って構わない。でも、僕たちの邪魔だけはしないでおくれよ。そうなったらキミを破棄するしかなくなるからね」

 その最後の一言が静かになった部屋にも反響し続けている気がした。

 少女は眠ったままの探偵さんを見下ろす。爆発に巻き込まれたとは思えないほどにキレイに元通りだ。話をしながら手を止めることがなかったお医者さんの腕は確かなのは間違いない。それを最初から知識として与えられていたとは思えない。長い年月を経てその腕を磨き続けたのだろう。世界を維持するのに必要なことだった。それは間違いないがだからと言ってこの腕前まで磨き上げることがイコールとはならない。

 少女とお医者さんは同じ型だと言うホンモノが放った言葉を思い出していた。つまり元はほとんど変わらないのだ。それでもお医者さんはその腕を磨き上げた。それ相応の研鑽を積み上げてきたはずなのだ。そんな彼が更に進もうとしている未来に否定している自分はやはり間違っているようにしか思えない。

「ごめんなさい」

 それは探偵さんに言った謝罪なのか少女自身にも分からなかった。ここにいても出来ることはない。なにをしていいのか分からないけれど、ここにいるよりはマシだ。街へ行くことへしよう。そう思った。

 塔の中には下に降りる方法が見当たらなくて、部屋から出る扉を見つけてそこを開けた。

 眼下に広がる世界に思わず足が止まった。

 こんなに高いところから世界を見渡したのは少女も初めてだった。山の向こうまで見渡せる。その向こうに広がるのはほとんどが砂漠地帯。少女も戦っていた地域が広がる。かつては人間が住んでいたその場所も大きな争いの後に誰もが住めない場所へと変化していたったのだと知識として知っていた。けれど、改めて見るとこの広大な土地にどれほどの人間が暮らしていて、どのような社会を形成していたのか。まったく想像できない。

 真下に広がる社会と違いはあるのだろうか。

 比べたところでなにかが得られるわけではない。しかし、模倣していると言うからには近しいところまで再現できているのだ。でも、人間社会にリセットはなかったはずだ。壊れてもお医者さんが動かせるように治してしまう。完全に壊れてしまったら次の個体を派遣するだけだろう。そしていずれかはオールリセットを行われすべてが総入れ替え。

 考えれば考えるほど歪んだ社会だ。人間社会とはまったく違うもののように思える。

 そんなことを考えながら当の周りを巻き付くようにぐるぐるとした階段を降りていく。その行為が少女の頭の中を表しているようで、途中から考えることをやめた。

 塔を降りたあともあてもなく歩き続けた。どこをどう歩いたのか覚えていない。気がついたらセントラルの外にいて、これまで出会ったアンドロイドたちをただ眺めていた。向こうは少女のことを知らないのだから、声を気軽に掛ける訳にもいかない。ただ、眺めているだけ。

 ここはどこだったけなとあたりを見渡すと五街区だと言うのが分かる。探偵さんの事務所のポスターが貼られているからだ。なんなら探偵事務所も近いところにある。

 ニャー。

 猫だ。アンドロイドだらけの街で本当におかしな話だけれど。この猫は確かに生きている。それに。

「猫の子ども?」

 小さな猫が数匹近寄ってくる。子を成す。これも知識でしか知らないことだ。自分たちで交配して勝手に増えるんだなんて不思議な存在。でなければ種族自体がいなくなってしまうのだ。当然と言えば当然なのだ。人間だってそうやって増えていった。増えるよりも一気に減ってしまったが故に絶滅してしまったのだけれど。

 ニャー。ニャー。

 少女の足元に子猫がすり寄ってくる。不思議な光景。

「もしかして君たちは私のこと覚えてるの?」

 子猫は流石に知らないのだけれどその周りの猫たちは少女のことを覚えているのだ。

「普通はそう。リセットされたくらいですべてがなかったことになっちゃうなんてやっぱり悲しいよね」

 猫たちもいつかは動かなくなるときが来る。でも、子猫が大きくなってその子がまた子を成して。そうやって猫の中で少女は忘れられないでいられる。

 本来人間もそうだったのだ。その人間を模倣しているアンドロイドの今の仕組みはやっぱり模倣しているに過ぎないのだ。

「あら。もしかしてお嬢ちゃん? 探偵さんはどうしたのよ。あのあとお嬢ちゃんを追いかけって通路へ入っていったのだけど。もしかして合流できなかったりした? それだと流石にくたばっちゃったかしら。ちょっといい男だったのに。やっぱり引き止めて置けばよかったかしら」

 ほんの数時間しか離れていないはずのお姉さんに少女はなんだか言いしれぬ感情を抱いていた。
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