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幕間 夢の終わり

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「本当に取り返しのつかないことをしたと思っているんだよ」

 それは少女自身が話しているのに。少女の声ではなかった。創造主の声だ。

「だったら彼女を破棄するんだ。それがお前のためでもある。そうすることで多少はその罪の意識から解放されるだろう」

 その創造主と話して言る男との人は知らない人だ。

 ふたりが話しているのは研究室。アンドロイドの開発を進めていた場所。その知らない人は共同研究者だと言うことは創造主の記憶から判別できた。

「ああ。そうだろうな。けれど、そんなことはしない。いやできない。それは分かっているだろう。妻の想いも娘の想いも、すべてを込めたあの子を破棄することなんてできるはずもない」

 あの子とはお姫様のことだ。

 兵器開発を目的としていた創造主は意志の存在しないアンドロイドにそれを吹き込んだ。娘の記憶を妻の記憶で保管したものをお姫様へと入れ込んだ。それは禁止されている行為だった。

 バレでもしたら重罪。そうでなくても自分が踏み入れてしまった人間の領域を超えた場所に耐えきれなくなるのは創造主自体も理解していた。後悔していたけど、後戻りはできない。なかったことにもしたくない。創造主からしたらそれは当然のこと。

「事故であの子が亡くなったことは不幸な出来事だった。それは確かに同情するよ。けれど、だからと言って君がやったことは生命への冒涜だ。あの子もそれを望んでいたとは思えない。今生まれてしまった彼女にその重荷を背負わせ続けるつもりか」

 共同開発者は憤っているように見える。行ってはいけない領域に踏み込んでしまった友人を必死に取り戻そうとしているみたいにも見えた。

 けれど。すべては遅かった。

 創造主の悲しみは埋まることはなかったし、同時に世界情勢は最悪な状況へと向かっていったのだ。

 アンドロイドと言う兵器に恐れをなした各国が強力な大量破壊兵器で一掃しようとした。それが原因で人間がいなくなることも知らないで。

 創造主もそんな戦争に巻き込まれて息を引き取った。けれど、それを看取ったものいた。

 お姫様とお医者さんだ。

 ふたりのアンドロイドに見送られた創造主は確かに満足していた。
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