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第34話 戸惑いと恐怖
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「いったい何をしたの!」
お姫様が憤っている。その動きから精密さが消えた。探偵さんがどうにかなってしまったとでも思っているのだろう。
「なにも。強いて言えば起こしただけ」
「なんだとっ」
驚いたのはお姫様じゃない。お医者さんだ。少女にそんなことができるなんて思っていなかったのだろう。実際、さっきまで少女自身もできるなんて思っていなかった。
「どうしてキミなんかにそんなことが可能なんだ。少なくとも僕と同等の知識がなければ不可能なはずだ。それにその活性化のしかたは異常だ。ただ起こしただけではないのだろうっ」
焦るお医者さんに初めて優位に立てたことを実感し余裕が生まれてくる。それでもその生まれた余裕は一瞬だ。発砲音と共にお姫様が動き始めていた。
心のなかで復帰が早すぎると文句を垂れ流すけれど。あらかじめ予想はしていた。探偵さんを盾にするのも限界だったので動き回り始める。
とりあえず探偵さんが目覚めるまで。その瞬間までは逃げ回らなければ。負けじと少女も拳銃で応戦する。先程まではそんな隙すらなかったのに、少女の方から攻めることが出来る。それは少なからずお姫様はどうようしたままなのだ。
それほど探偵さんが大切だったんだな。きっと少女よりもずっと前に探偵さんと一緒だったのだろう。なんだか少しだけ羨ましく思う。長い間を探偵さんと一緒に過ごしたはずだ。リセットも乗り越えながら、一緒に居続けた。その結果、お姫様の影武者になった。リセットを否定する少女には考えられないことだ。それが故にお姫様の心の中は揺れている。
部屋の中は散らかっていく。棚に置かれた瓶は割れ、床へとばらまかれる。修理用の道具も同様だ。それが繰り返されれば足元は悪くなっていく。足の裏にガラス片が刺さり血の代用であるオイルが滲み出ていく。それは人間と同じ赤い色。それが偶然でないことを今の少女は知っている。そうまでしてアンドロイドを自分の娘に似せた創造主の気持ちまでは理解できない。たとえ記憶を共有したとしても、その時の感情までは読み取れないのだ。
「粘るのね。さっさと大人しくなった方が自分のためだと思うのだけれど?」
お姫様は徐々に焦り始めている気がする。それくらい探偵さんが目覚めるのが気になるんだ。
「そっちこそ、おしゃべりになった。探偵さんが目覚めるのがそんなに怖いの?」
「っ。余計なおしゃべりばっかり!」
お姫様の狙いの精度が明らかに下がっていく。
「余計なおしゃべりを始めたのはそっちでしょう」
「っ。ウルサイ! だまれ」
そうしている間にも探偵さんから漏れていた光が徐々に小さくなっていく。もうまもなく目覚めるのだろう。
一瞬、探偵さんに気を取られて瞬間にお姫様に距離を詰められた。
「アナタはどうして私達の邪魔をするの? そのことで世界が変わってしまう。そのことでこの街のアンドロイドたちはいずれいなくなってしまう。そのことが分かっているのっ」
確かにそのとおりだ。少女もそのことを理解している。リセットをなくすと言うことはそういうことだ。それは理解している。
「分かってる。でも、リセットを続ける以上。私達に未来はないの」
「未来がない? 私達がいる限り未来は続くの。そうやってこれまでも過ごしてきた。それも何年も何年も。アナタが想像もできないくらい長い時間をね」
「それに限界が来てアナタが犠牲になっているのでしょう? 次に限界が来た時はどうするの? 私が犠牲になる? それでも私はいい。でも、あなたには何も残らない。何も残せない。全てがなかったことになる。それこそ探偵さんと過ごした時間ですら……」
「それはリセットをやめたところで一緒でしょ? 時間が経って全てが壊れてしまう」
「そうならないための成長する個体でしょ。そのためにアナタたちは研究しているんじゃないの?」
「そう。でもそれはリセットを行う負担を減らすため。この世界を維持するために必要な処置。リセットをなくすなんてこの世界を壊すのと一緒。アナタは私達の邪魔をしたいの?」
「そんなことは……」
ないはずだったのに。はっきりと言えなかった。結局は少女の想いひとつでしかない。リセットでなにも残らないと。そのことが間違っているようにしか思えなかっただけだ。
「答えられないの」
お姫様は返答がなかったことが気に食わなかったのだろう。気がつけば少女のお腹へ膝がめり込んでいた。勢いで後方に吹き飛ばされる。崩れた棚がクッションになってくれたがその分、尖った破片が身体へとめり込む。痛みは危険な信号として頭へと送られてくる。しかし戦闘用アンドロイドはそれを抑制されている。だから危険な信号を受けてもまだ限界まで動ける範囲まで動き続ける。そのはずだった。
「っ」
けれど。あまりの痛みに声にならなない空気が口から漏れた。
なんで。どうして。考えているうちにお姫様は距離を詰めてくる。痛みに襲われているせいで身動きが取れない。このままだと、拘束されてきっとリセットされる。そうしたら、これまでの想いも全部なかったことにされる。
動け。動け。痛みに悶えながら少女は自分の身体をどうにか動かそうとする。でも、動いてくれない。
「私達の邪魔をするなら眠って。そして忘れなさい」
お姫様が目の前まで迫っていた。
お姫様が憤っている。その動きから精密さが消えた。探偵さんがどうにかなってしまったとでも思っているのだろう。
「なにも。強いて言えば起こしただけ」
「なんだとっ」
驚いたのはお姫様じゃない。お医者さんだ。少女にそんなことができるなんて思っていなかったのだろう。実際、さっきまで少女自身もできるなんて思っていなかった。
「どうしてキミなんかにそんなことが可能なんだ。少なくとも僕と同等の知識がなければ不可能なはずだ。それにその活性化のしかたは異常だ。ただ起こしただけではないのだろうっ」
焦るお医者さんに初めて優位に立てたことを実感し余裕が生まれてくる。それでもその生まれた余裕は一瞬だ。発砲音と共にお姫様が動き始めていた。
心のなかで復帰が早すぎると文句を垂れ流すけれど。あらかじめ予想はしていた。探偵さんを盾にするのも限界だったので動き回り始める。
とりあえず探偵さんが目覚めるまで。その瞬間までは逃げ回らなければ。負けじと少女も拳銃で応戦する。先程まではそんな隙すらなかったのに、少女の方から攻めることが出来る。それは少なからずお姫様はどうようしたままなのだ。
それほど探偵さんが大切だったんだな。きっと少女よりもずっと前に探偵さんと一緒だったのだろう。なんだか少しだけ羨ましく思う。長い間を探偵さんと一緒に過ごしたはずだ。リセットも乗り越えながら、一緒に居続けた。その結果、お姫様の影武者になった。リセットを否定する少女には考えられないことだ。それが故にお姫様の心の中は揺れている。
部屋の中は散らかっていく。棚に置かれた瓶は割れ、床へとばらまかれる。修理用の道具も同様だ。それが繰り返されれば足元は悪くなっていく。足の裏にガラス片が刺さり血の代用であるオイルが滲み出ていく。それは人間と同じ赤い色。それが偶然でないことを今の少女は知っている。そうまでしてアンドロイドを自分の娘に似せた創造主の気持ちまでは理解できない。たとえ記憶を共有したとしても、その時の感情までは読み取れないのだ。
「粘るのね。さっさと大人しくなった方が自分のためだと思うのだけれど?」
お姫様は徐々に焦り始めている気がする。それくらい探偵さんが目覚めるのが気になるんだ。
「そっちこそ、おしゃべりになった。探偵さんが目覚めるのがそんなに怖いの?」
「っ。余計なおしゃべりばっかり!」
お姫様の狙いの精度が明らかに下がっていく。
「余計なおしゃべりを始めたのはそっちでしょう」
「っ。ウルサイ! だまれ」
そうしている間にも探偵さんから漏れていた光が徐々に小さくなっていく。もうまもなく目覚めるのだろう。
一瞬、探偵さんに気を取られて瞬間にお姫様に距離を詰められた。
「アナタはどうして私達の邪魔をするの? そのことで世界が変わってしまう。そのことでこの街のアンドロイドたちはいずれいなくなってしまう。そのことが分かっているのっ」
確かにそのとおりだ。少女もそのことを理解している。リセットをなくすと言うことはそういうことだ。それは理解している。
「分かってる。でも、リセットを続ける以上。私達に未来はないの」
「未来がない? 私達がいる限り未来は続くの。そうやってこれまでも過ごしてきた。それも何年も何年も。アナタが想像もできないくらい長い時間をね」
「それに限界が来てアナタが犠牲になっているのでしょう? 次に限界が来た時はどうするの? 私が犠牲になる? それでも私はいい。でも、あなたには何も残らない。何も残せない。全てがなかったことになる。それこそ探偵さんと過ごした時間ですら……」
「それはリセットをやめたところで一緒でしょ? 時間が経って全てが壊れてしまう」
「そうならないための成長する個体でしょ。そのためにアナタたちは研究しているんじゃないの?」
「そう。でもそれはリセットを行う負担を減らすため。この世界を維持するために必要な処置。リセットをなくすなんてこの世界を壊すのと一緒。アナタは私達の邪魔をしたいの?」
「そんなことは……」
ないはずだったのに。はっきりと言えなかった。結局は少女の想いひとつでしかない。リセットでなにも残らないと。そのことが間違っているようにしか思えなかっただけだ。
「答えられないの」
お姫様は返答がなかったことが気に食わなかったのだろう。気がつけば少女のお腹へ膝がめり込んでいた。勢いで後方に吹き飛ばされる。崩れた棚がクッションになってくれたがその分、尖った破片が身体へとめり込む。痛みは危険な信号として頭へと送られてくる。しかし戦闘用アンドロイドはそれを抑制されている。だから危険な信号を受けてもまだ限界まで動ける範囲まで動き続ける。そのはずだった。
「っ」
けれど。あまりの痛みに声にならなない空気が口から漏れた。
なんで。どうして。考えているうちにお姫様は距離を詰めてくる。痛みに襲われているせいで身動きが取れない。このままだと、拘束されてきっとリセットされる。そうしたら、これまでの想いも全部なかったことにされる。
動け。動け。痛みに悶えながら少女は自分の身体をどうにか動かそうとする。でも、動いてくれない。
「私達の邪魔をするなら眠って。そして忘れなさい」
お姫様が目の前まで迫っていた。
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