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第35話 アンドロイドと言う命
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少女は覚悟を決めて目を閉じた。襲いかかるであろう痛みに。これから待ち受けているだろうリセットに。それは到底許容できるものではない。けれど、実力が伴わなかったし探偵さんも間に合わなかった。
けれど、中々その瞬間はやってこない。
「おいおい。嬢ちゃんがなにやってるんだよ。ってあれ。どっちも嬢ちゃんか? 一体どうなってやがる。俺はおかしくなっちまったのか?」
久しぶりに聞くその声は少女を安定させるには十分だった。そおれはお姫様も同様で。
「探偵さん」
そのお姫様の声には様々な感情が入り乱れている様に思える。郷愁、悲哀、憧憬、不安、絶望、期待。それらがお姫様の動きを止めていた。
「あっ? えっと、違ってたらすまんが、もしかしてあの嬢ちゃんなのか?」
「っ!?」
少女にはあの嬢ちゃんが誰なのかは分からないが、自分でないことだけは分かる。そして、そのことを覚えているのであれば少女の思っている通りに探偵さんを目覚めさせることができたのだ。
「ばかなっ! 意識覚醒……それも遡っての記憶を保持しているだんてありえない。いったいどうやったらそんなことが可能なんだ」
お医者さんが驚くのも無理はない。すべては創造主の記憶がなせる業。成功する自信がなかったのだけれど。探偵さんの様子を見る限り大丈夫そうだ。
「弟くんはなに怒ってるんだよ。つーか頭の中がごちゃごちゃしてるんだがなんだこりゃ。どうなってるんだ。同じような記憶が並行して流れているような。おいおい、意味わからんぜこりゃ」
探偵さんが混乱するのは当然だ。探偵さんの中に眠っていた記憶データをすべてたたき起こした。一応、時間軸を正しく流れるようにしたつもりなのだけれど。なにせ即席で行った処置だ。探偵さんの中で起きていることもすべて予測はできない。けれど、目覚めてくれただけでもありがたい。
「何をしたんだ答えろ!」
お医者さんが少女へと詰め寄ろうとするが、探偵さんが立ちはだかった。
「なんのつもりだ? 目が覚めたばかりで状況も把握できていないあなたに邪魔されたくはないね」
「まあ。確かにそうだがね。世界がまだ残っているってことはそれなりにいい方向に進んでいるってことじゃないのか? 何をそんなにイライラしているだよ」
「ああ。せっかく存続可能になった世界をぶち壊そうとしているやつがいるんだよ」
お医者さんの視線とともに探偵さんも少女の方を向く。その表情は困惑した表情を浮かべている。
「どうしてそんなことを?」
そう質問する瞳は真剣そのものだった。シンプルに知りたいのだと思った。それも、意識覚醒をした探偵さんだからだ。錯綜する情報の中で、判断材料を少しでも求めている。であれば少女もそれに応えなくてはならない。
「すべてがなかったことにされ続けるのが許せない。なんどもリセットされる街を見続けてそう思った。門番で助かった女の子は花が好きなの。危ないって言うのに街の外にある花を拾いに行っちゃう。それを集めて街で売って生活してた。そんな危ないことしてるから兵器に襲われて壊される。一度は助けられたのに気づけば壊されている。それがある日突然なかったことにされる。最初はうれしかった。今度はちゃんと助けようって思うの。そうしてちゃんと助けることができた。ずっと見守っていればそれも可能。でもね。それもなかったことにされる。リセットによって。結果が変わらない。私がどう行動してなにをしようともリセットが起きてしまえばすべて元通り。そしてそれは女の子に限った話じゃない。街で会った人が全員そうなの」
それは何をしても無駄ということ。どんな努力をしようとも反対になにもしなくとも、結果は変わらない。
「すべてがなかったことになるね。そんな些細な事。世界がなくなってしまうよりずっとマシだろう?」
「さっきも言った。何もなかったことにされる世界に意味なんてない。なくなった方がましだと思うほどにはね」
「っ! なにを知っていると言うんだ!」
お医者さんはどうしてもそれを受け入れられないようだ。でも、それに割り込むように探偵さんが口を開いた。
「確かに、そうかもな。それで? 嬢ちゃんはどうしたいんだ?」
「成長するアンドロイドが完成間近なのであれば、それを利用してアンドロイドたちの時間を進める。そう提案した」
ふぅん。と探偵さんは少しの時間考える。お姫様も黙って探偵さんの出す答えを待っていた。
「だいたい理解したよ。というわけで弟くん。俺は嬢ちゃんにつくよ。そもそも、弟くんが目指していた人間社会の模倣は嬢ちゃんの方が近そうに思える。それは弟くんも分かっているだろう?」
「失敗した場合にはどうなる? そんな実験もしない方法で、なんとかなるかもなんて希望だけで。この世界の命運を預けることはできない。せめて実験を重ねて、実用可能な領域に達してから……」
「それは出来ない。もうこれ以上リセットなんてさせない。それはアンドロイドたちの命を粗末にしていることに繋がるのだから」
少女自身も驚いている。アンドロイドに命なんてものがあるなんて思っていなかったのに。でも、確かに少女の中にある創造主の記憶データはそれを命と認めていた。
けれど、中々その瞬間はやってこない。
「おいおい。嬢ちゃんがなにやってるんだよ。ってあれ。どっちも嬢ちゃんか? 一体どうなってやがる。俺はおかしくなっちまったのか?」
久しぶりに聞くその声は少女を安定させるには十分だった。そおれはお姫様も同様で。
「探偵さん」
そのお姫様の声には様々な感情が入り乱れている様に思える。郷愁、悲哀、憧憬、不安、絶望、期待。それらがお姫様の動きを止めていた。
「あっ? えっと、違ってたらすまんが、もしかしてあの嬢ちゃんなのか?」
「っ!?」
少女にはあの嬢ちゃんが誰なのかは分からないが、自分でないことだけは分かる。そして、そのことを覚えているのであれば少女の思っている通りに探偵さんを目覚めさせることができたのだ。
「ばかなっ! 意識覚醒……それも遡っての記憶を保持しているだんてありえない。いったいどうやったらそんなことが可能なんだ」
お医者さんが驚くのも無理はない。すべては創造主の記憶がなせる業。成功する自信がなかったのだけれど。探偵さんの様子を見る限り大丈夫そうだ。
「弟くんはなに怒ってるんだよ。つーか頭の中がごちゃごちゃしてるんだがなんだこりゃ。どうなってるんだ。同じような記憶が並行して流れているような。おいおい、意味わからんぜこりゃ」
探偵さんが混乱するのは当然だ。探偵さんの中に眠っていた記憶データをすべてたたき起こした。一応、時間軸を正しく流れるようにしたつもりなのだけれど。なにせ即席で行った処置だ。探偵さんの中で起きていることもすべて予測はできない。けれど、目覚めてくれただけでもありがたい。
「何をしたんだ答えろ!」
お医者さんが少女へと詰め寄ろうとするが、探偵さんが立ちはだかった。
「なんのつもりだ? 目が覚めたばかりで状況も把握できていないあなたに邪魔されたくはないね」
「まあ。確かにそうだがね。世界がまだ残っているってことはそれなりにいい方向に進んでいるってことじゃないのか? 何をそんなにイライラしているだよ」
「ああ。せっかく存続可能になった世界をぶち壊そうとしているやつがいるんだよ」
お医者さんの視線とともに探偵さんも少女の方を向く。その表情は困惑した表情を浮かべている。
「どうしてそんなことを?」
そう質問する瞳は真剣そのものだった。シンプルに知りたいのだと思った。それも、意識覚醒をした探偵さんだからだ。錯綜する情報の中で、判断材料を少しでも求めている。であれば少女もそれに応えなくてはならない。
「すべてがなかったことにされ続けるのが許せない。なんどもリセットされる街を見続けてそう思った。門番で助かった女の子は花が好きなの。危ないって言うのに街の外にある花を拾いに行っちゃう。それを集めて街で売って生活してた。そんな危ないことしてるから兵器に襲われて壊される。一度は助けられたのに気づけば壊されている。それがある日突然なかったことにされる。最初はうれしかった。今度はちゃんと助けようって思うの。そうしてちゃんと助けることができた。ずっと見守っていればそれも可能。でもね。それもなかったことにされる。リセットによって。結果が変わらない。私がどう行動してなにをしようともリセットが起きてしまえばすべて元通り。そしてそれは女の子に限った話じゃない。街で会った人が全員そうなの」
それは何をしても無駄ということ。どんな努力をしようとも反対になにもしなくとも、結果は変わらない。
「すべてがなかったことになるね。そんな些細な事。世界がなくなってしまうよりずっとマシだろう?」
「さっきも言った。何もなかったことにされる世界に意味なんてない。なくなった方がましだと思うほどにはね」
「っ! なにを知っていると言うんだ!」
お医者さんはどうしてもそれを受け入れられないようだ。でも、それに割り込むように探偵さんが口を開いた。
「確かに、そうかもな。それで? 嬢ちゃんはどうしたいんだ?」
「成長するアンドロイドが完成間近なのであれば、それを利用してアンドロイドたちの時間を進める。そう提案した」
ふぅん。と探偵さんは少しの時間考える。お姫様も黙って探偵さんの出す答えを待っていた。
「だいたい理解したよ。というわけで弟くん。俺は嬢ちゃんにつくよ。そもそも、弟くんが目指していた人間社会の模倣は嬢ちゃんの方が近そうに思える。それは弟くんも分かっているだろう?」
「失敗した場合にはどうなる? そんな実験もしない方法で、なんとかなるかもなんて希望だけで。この世界の命運を預けることはできない。せめて実験を重ねて、実用可能な領域に達してから……」
「それは出来ない。もうこれ以上リセットなんてさせない。それはアンドロイドたちの命を粗末にしていることに繋がるのだから」
少女自身も驚いている。アンドロイドに命なんてものがあるなんて思っていなかったのに。でも、確かに少女の中にある創造主の記憶データはそれを命と認めていた。
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