機械少女は人間の夢をみるか? 選択編

霜月かつろう

文字の大きさ
41 / 45

第36話 身勝手な選択

しおりを挟む
「ただの戦闘用のアンドロイドに何が分かる! 姉さんを模倣しただけのコピー品が、意識覚醒をしただけで。いっちょまえに人間にでもなったつもりかっ。もういい。研究は遅れるかもしれないがすべてリセットだ。お前らもすべてやり直す。そうして姉さんのためにもこの世界を存続させるっ」

 お医者さんが何かのスイッチを押した。大量の歯車がキュルキュルと音を立てて一斉に回り始める。

「なんだ。なにをしたっ」

 探偵さんが慌てている。たくさんの記憶が流れ込んでいるって言うのに、探偵さんは探偵さんだ。

 ガコンッ。エレベーターが動いている。下がったと思ったらすぐに上がってきて。何かを下から運んできた。

「おいおい。マジかよ」

 少女も事が動き始める前に戦闘態勢に入りたかったのだけれど。痛みで動けない。探偵さんが驚いている原因がエレベーターの扉が開いていく。

 ははは。探偵さんがマジかよって言うのも分かる。元気であれば少女もマジかよと一緒になってぼやきたいところだ。

 複数のの少女と同じ型のアンドロイドがエレベーターから降りてきていた。アンドロイドたちはどの子も表情がなく、任務を遂行するためだけに動いている。その姿に仲間たちが思い起こされるが。その仲間たちよりもたちが悪い。すべてお医者さんの意のままに動くようにしか出来ていない。そこに少女のような自立用の思考も搭載されてはいないのだろう。その手にはナイフか拳銃のどちらかが握られている。

 笑ってしまう。お姫様ひとりでもギリギリの闘いだったのに。たくさんいる。それも少女自身は動けないのだ。探偵さんがひとりでどうにか出来るわけもない。お医者さんの手の内で敵対すればこうなることは予想できた。だから言葉でお医者さんを納得させなきゃいけなかったのに。できなかった。その時点で少女たちの動きは抑えられたも当然。きっとリセットされてしまう。

 それなのに少女の心は落ち着いていた。それはきっと探偵さんが目覚めたからだ。それはそれは身勝手なことだと自覚する。リセットが止めたいとかいいつつ結局のところ探偵さんをどうにかしたっただけなのだ。まったく困ったもの。それに少女は諦めたわけでもない。それは探偵さんも同じみたいだった。なにをどうするか分からないが拳を握りしめて構えを取っている。

 少女もどうにか立ち上がったけれど、ふらふらで、まともに構えを取ることだって出来やしない。それでも探偵さんが諦めるまでは立ち上がろる。そう決めている。

 だって。守るって依頼を受けてしまっているのだ。やりとげなくては。

「はっ。この状況になってもまだ諦めないっていうのかよ。相変わらず往生際が悪いよっ」

 お医者さんの言葉で一斉にアンドロイドたちが襲いかかってくる。縦横無尽に動き回るアンドロイドたちにすぐに探偵さんは囲まれてしまう。ナイフを突きつけられそうになるのを必死になって防いでいる。動きたいけれど少女に対しても拳銃は向けられている。少しでも動いたら撃たれてしまうだろう。

「探偵さんっ」
「なぁに。なんとかなるでしょ。弟くんに目を覚まして貰わないとならないからね。嬢ちゃんはそこで見てなって」
「でもっ」

 そうしている間にも探偵さんの身体に傷が増えていく。止められないことが歯がゆくて仕方ない。

「ほらよっ」

 探偵さんが腕を振り払うとふたりのアンドロイドが吹き飛ぶ。

「えっ」」
「なっ、なんで貴様なんかにそんな力がある!」

 確かに探偵さんを起こす際に架せられているリミッターを外した。それはアンドロイドが人間の力までしか使えないって品物だ。それを外したのだから戦闘用アンドロイドと同等の力を有してもおかしくはないがそれにしても戦闘用アンドロイドをあんな簡単に飛ばせると思っていなかった。

「なぜって嬢ちゃんがやってくれたんだろうよ。それこそ弟くんよりアンドロイドに詳しいんじゃないのか?」
「くそっ。本人に直接聞くしか無いみたいだな」

 探偵さんが争っている横をすり抜けるようにお医者さんが近くまでやって来る。

「答えろ。どうしてそんな知識を有しているんだ」
「最初に言ったはず。創造主の記憶データがあるって」
「そんなバカなこと信じろと?」
「信じてもらわなくても構わないけれど、現状を考えればそうとしか思えないはず」

 お医者さんからすれば説明できないことが連続で起きているはずで。

「……キミのリセットはだけはしない。必要なデータだけを解析して破棄だ」

 お医者さんはそう手を少女の身体の中に突っ込んだ。

 痛みが無かった頃でもこの感覚は嫌いだったけれど、痛みが伴うともはや嫌悪感どころの感覚ではない。他者が自分の中へ侵入してくる感覚は何事へも変えがたいものだ。思わず苦痛でうめき声が漏れる。

「ははっ。いっちょまえんに人間気取りか。アンドロイドであるキミにそんな機能はないはずだろ。まあ。それもいい余興か。でも苦しむ時間は短くしてやるよ。そんな声を長い間、聞いていたくないしな」

 身体の中で探られているのは緊急用の停止装置だろう。外ではなく中にしかないのは自分で勝手に押せなくするためだ。お医者さんの手がその装置に近づいていくのが分かる。

 あの様子だと探偵さんはなんとか逃げられそうだし、ホンモノに必要なものも渡してきた。少女がいなくてもこの先、なんとかしてくれる可能性はある。

 身勝手なことばかりしてしまった気がする。お姫様やお医者さんがしてほしかったことはなにもしてあげていない。読んでくれたのはふたりだったと言うのに、都合のいいところばかり自分のものにして、ついには邪魔までした。その結果が自分ひとりの犠牲が済むのであれば悪くない気もする。もっと悲惨な目にあう可能性だってあったのだ。

「さて。これでキミの役目は一旦終わりだ。パーツは使ってやる。またリセット後の世界で会おうじゃないか」

 探偵さんが焦っているけれど、流石にそこからじゃ間に合わないよ。みんなの動きがゆっくり見える。覚悟を決めて目を閉じようとした時。

「ぐはぅ」

 お医者さんが横へ吹き飛んだ。少女の中に入っていた手も勢いよく抜ける。不快感が消え痛みだけが残る。同時にみんなの動きも元に戻っていく。

「なんでっ。なんでキミが僕の邪魔をするっ?」

 お医者さんを吹き飛ばしたのはお姫様だった。少女も戸惑う。お姫様が少女を助ける理由は思い当たらない。

「私が協力していたのはこの世界が続くと聞いていたから。それと探偵さんも……けれど、その探偵さんがその子に協力するって言うのだから私があなたの側につく理由はほとんどなくなったの」

 その割に、助けてくれるまで時間がかかったと思うが、お姫様も悩んだのだろう。この選択は未来へつながるが探偵さんはいずれ死んでしまう選択。

「ふざけるなぁ!」

 お医者さんは自らお姫様に飛びかかるが軽くあしらわられる。お医者さんは戦闘用じゃないのか。自分で前に出なかったのもそのせいか。

 お姫様と探偵さんのタッグは強かった。あっという間に戦闘用アンドロイドを動けなくしていく。

「なんでだよ。どうしてキミたちは僕が選択したことの邪魔をしてくいんだよ」
「それはきっと私達が選択したことにいつまでもしがみついているからでしょう」

 聞き覚えのある声。動けなかったはずの彼女のがどうしてここに?

 いつの間にか動いていたエレベーターから出てきたのは車椅子に乗ったホンモノだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...