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見知らぬ世界
見知らぬ世界 その3
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目があった。尖すぎる眼光は人間のものとは思えないほど鋭く、獣に似たものを感じる。
やばい。そう本能が告げている。
「ほら。だから言っただろうに。下がりな」
いつの間にか背後に立っているマスターに驚きつつも目の前の圧が強くて反応できない。
「なんですかあれ」
「モンスターランクDゴブリンだな。あれ一匹倒してくれれば今日の飯くらいはありつける。いわゆる雑魚だ」
なにがランクDだ。ゴブリンだ。あんなのがウロウロしている街で命がいくつ合っても足りない。よく、このバーまでたどり着くことが出来たものだ。
「ほら。中に戻りな。ここまでは襲ってきやしないからよ」
マスターの言葉に従ってゴブリンから目を離さないようにしながら階段をゆっくり降りていく。マスターはその場に残ってやつらを牽制しているのかじっとしたまま動かない。階段を数段降りると、やつらの視線から外れると飛び込むように店に入った。
すぐさまイスに座るとカウンターに突っ伏して生きている感覚を取り戻そうとする。
「忠告を無視して地上へ踏み込むからそうなる。覗き見をしてすぐに戻ればそうはならなかった」
「なぜ最初に言ってくれなかった。あんな曖昧な忠告でどうしろっていうんだ」
「言ったところで俺の言葉を信じていないあんたは聞きやしなかっただろうな」
言い返せなくなってしまった。その通りだったからだ。あんなのがいるなんて思ってもいなかった。
しかし、見てしまった。存在を認識してしまった。そうなった以上、信じるしか無い。
「マスターはあいつらに勝てるのか?」
でなければここは残っていないだろう。ならば安心していいはずだ。
「俺にはもう無理だ」
予想は裏切られ続ける。だとすればここだって安全じゃない。どこか安全な場所へ移動しなくてはならない。
「マジかよ。じゃあどうやってここで暮らしてるんだ」
「もうそろそろ帰ってくる。ここの用心棒がな」
「そ、そうかなら安心だな。すまんが水をくれないか。あんなのを見せられたんだ。それくらいサービスしてくれてもいいだろう」
よくよく考えてみれば目覚めてから何も口にしていないのだ。渇きもすれば、腹も減る。
「うーん。そいつは困ったな。生憎、無駄にしていいような量の水は用意できないんだ。悪いがこちらも生活がかかってるんだ。許してくれ」
まさか断られるなんて思いもしなかったので怒りが湧いてくる。
「なんだって? 客に水も出せないのかここは」
「そうは言ってもね。お客さんっていうけれど対価は払えるのか? おっと、持ってるかもしれないしが貨幣なんてものに価値はもうないよ。発行していることころがなくなってるんだから当然だ。それとも、地上に戻ってゴブリンの一匹でも倒してくるか? そうすれば今日の寝床と食事を用意してやる。どうだ?」
さっきのあいつを倒せって。そりゃ無茶な依頼だ。とてもあいつらを見てどうにかできるようには思えない。
「た、倒せる訳無いだろ。武器のひとつもありゃしないのに」
マスターは肩をすくめると奥へ入ってしまう。それはないだろ。そう叫ぼうとしたときだ。
「ほらよ。武器だ」
ほいっと軽く渡されたのは小振りなナイフだ。軽くて手になじんでいる。木で出来ている柄の部分は使い込んでいるのか、薄黒く汚れている。
「これでやれっていうのかよ」
「ああ。武器があればできそうな言い分だったもんでな。用意してみたよ」
マスターはいたずらめいた表情を浮かべている。やれるもんならやってみろってことだろう。やってやろうじゃないか。このまま、飯にありつけないまま死ぬ可能性だってある。だったら。
「くそっ。見てろよ。やってきてやるよ」
「証拠に耳を切り取ってくるのをお忘れなく」
余裕そうなその表情に怒りが頭へ上がってくるのが分かる。なんだっていうんだ。乱暴に入口のドアを開けると。大きな音が地下の店に響き渡った。
その音と、自分の鼓動。どちらが大きいか分からないほどに。抑える術も見当たらずに一段ずつ階段を登った。
やばい。そう本能が告げている。
「ほら。だから言っただろうに。下がりな」
いつの間にか背後に立っているマスターに驚きつつも目の前の圧が強くて反応できない。
「なんですかあれ」
「モンスターランクDゴブリンだな。あれ一匹倒してくれれば今日の飯くらいはありつける。いわゆる雑魚だ」
なにがランクDだ。ゴブリンだ。あんなのがウロウロしている街で命がいくつ合っても足りない。よく、このバーまでたどり着くことが出来たものだ。
「ほら。中に戻りな。ここまでは襲ってきやしないからよ」
マスターの言葉に従ってゴブリンから目を離さないようにしながら階段をゆっくり降りていく。マスターはその場に残ってやつらを牽制しているのかじっとしたまま動かない。階段を数段降りると、やつらの視線から外れると飛び込むように店に入った。
すぐさまイスに座るとカウンターに突っ伏して生きている感覚を取り戻そうとする。
「忠告を無視して地上へ踏み込むからそうなる。覗き見をしてすぐに戻ればそうはならなかった」
「なぜ最初に言ってくれなかった。あんな曖昧な忠告でどうしろっていうんだ」
「言ったところで俺の言葉を信じていないあんたは聞きやしなかっただろうな」
言い返せなくなってしまった。その通りだったからだ。あんなのがいるなんて思ってもいなかった。
しかし、見てしまった。存在を認識してしまった。そうなった以上、信じるしか無い。
「マスターはあいつらに勝てるのか?」
でなければここは残っていないだろう。ならば安心していいはずだ。
「俺にはもう無理だ」
予想は裏切られ続ける。だとすればここだって安全じゃない。どこか安全な場所へ移動しなくてはならない。
「マジかよ。じゃあどうやってここで暮らしてるんだ」
「もうそろそろ帰ってくる。ここの用心棒がな」
「そ、そうかなら安心だな。すまんが水をくれないか。あんなのを見せられたんだ。それくらいサービスしてくれてもいいだろう」
よくよく考えてみれば目覚めてから何も口にしていないのだ。渇きもすれば、腹も減る。
「うーん。そいつは困ったな。生憎、無駄にしていいような量の水は用意できないんだ。悪いがこちらも生活がかかってるんだ。許してくれ」
まさか断られるなんて思いもしなかったので怒りが湧いてくる。
「なんだって? 客に水も出せないのかここは」
「そうは言ってもね。お客さんっていうけれど対価は払えるのか? おっと、持ってるかもしれないしが貨幣なんてものに価値はもうないよ。発行していることころがなくなってるんだから当然だ。それとも、地上に戻ってゴブリンの一匹でも倒してくるか? そうすれば今日の寝床と食事を用意してやる。どうだ?」
さっきのあいつを倒せって。そりゃ無茶な依頼だ。とてもあいつらを見てどうにかできるようには思えない。
「た、倒せる訳無いだろ。武器のひとつもありゃしないのに」
マスターは肩をすくめると奥へ入ってしまう。それはないだろ。そう叫ぼうとしたときだ。
「ほらよ。武器だ」
ほいっと軽く渡されたのは小振りなナイフだ。軽くて手になじんでいる。木で出来ている柄の部分は使い込んでいるのか、薄黒く汚れている。
「これでやれっていうのかよ」
「ああ。武器があればできそうな言い分だったもんでな。用意してみたよ」
マスターはいたずらめいた表情を浮かべている。やれるもんならやってみろってことだろう。やってやろうじゃないか。このまま、飯にありつけないまま死ぬ可能性だってある。だったら。
「くそっ。見てろよ。やってきてやるよ」
「証拠に耳を切り取ってくるのをお忘れなく」
余裕そうなその表情に怒りが頭へ上がってくるのが分かる。なんだっていうんだ。乱暴に入口のドアを開けると。大きな音が地下の店に響き渡った。
その音と、自分の鼓動。どちらが大きいか分からないほどに。抑える術も見当たらずに一段ずつ階段を登った。
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