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霜月かつろう

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見知らぬ世界

見知らぬ世界 その2

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「それは突然のことだった。ほんとに何気ない日だ。特別な行事があったわけでも。暦上特別な日だったわけでもない。式典が会ったわけでも祭事があったわけでもないとそう言われれいる。それくらいなにもない普通の日だった。それでもその日を境に世界は変わってしまった。それ以降の世界をアフターワールドっておえらいさんが名付けるくらいにはな」
 ゆっくりと話し始めるマスターの表情は変わることなく、淡々としている。一体なにがあったのだろうか、思い出そうとするけれど、当然のように何も思い出せない。
「なにが起きたのか。それを全部把握している人間はいないと言われている。なぜなら情報伝達手段のほとんどを人類は失ったからな」
 急に面白いだろ。みたいな顔しているけれど。まったく面白くない。世界の一大事ではないのか。であればここはどんな場所で。俺は一体誰なのだ。なぜ、生き残っている。なぜ、世界がこんな風に変わってしまってから目覚めた。
「モンスターって言ってもな。その種類は様々、能力も生態もわかっていないものも多い。そんなやつらがいきなり世界中にばらまかれたと聞いている。この目で確かめたことはないさ。この国を出る手段も失われた。お偉いさんの言うことを信じるならって前提が大事だ。いや、それもいらないか。ここから逃げることなんて出来やしなんだから、どちらにせよ一緒だよ。だんだん話は飲み込めてきたかい?」
 そんなはずはない。そんなおとぎ話、想像することもできやしない。
「まさか。信じられないよ。まだ大地震があったとか、戦争が始まった。とかのほうが納得できる。大体、ここの説明はどうなるんだ。外がモンスターだらけ、建物は殆どが半壊、人の気配もない中でここが存在している理由がわからない。どういう仕組なんだ。それに他の人は? まさか、マスターひとりしかいないってことはあるまい?」
「まあ、まあ。順番話をするからこれでも飲んでいるといい」
 出されたのはカップに入った黒い液体。おそらくコーヒーであると思われるが、状況が状況なだけに臭いを確かめる。
 確かに記憶の中のコーヒーと遜色はない。それでも、警戒心が勝り口にできやしなかった。
 そう言えば空腹を感じないのはなぜなのだろうか。喉の乾きもない。記憶を失う寸前まで飲み食いをしていたということだろうか。
「話を続けてもらおうか」
 コーヒーに口をつけないことを肩をすくめて呆れる仕草をしてくる辺り、性格がいいとは言えないな。もったいぶった話し方もそうだ。
 要点だけ話してくれればとっくに話は終わってそうなものだ。
「ここが残っているのはたまたまだ。ただ、ここから先はある程度保証されている。それが特別な力ってやつだ」
「はっ。バカバカしい。そんなゲームみたいに」
「その通り。言ったじゃないか。モンスターが現れたって。それこそゲームみたいだろう。同時に不思議な力に目覚めた人が何人もいるんだよ。ここが残っているのもそういった力の持ち主たちのおかげだ」
 頭がついていかない。実際にモンスターを見たわけでもない身としては到底信じることは出来ない。
「どうすればそのモンスターや特別な力をもった連中を拝めるんだ。さっきから、与太話ばかり。信じるに値する証拠が一個もありはしないんだよ」
 街が半壊していようと、人の姿が見当たらないと言えど、簡単に信じていい内容ではない。信じられるはずもない。
「お店の扉を開けて、地上までは上がらず、階段のところでじっと待っていればそのうちなにか通るだろう。見れば納得するのであればそうすればいい。ただし、絶対に地上に戻ってはいけない」
 やれやれと言った様子で入り口の扉を顎で指すマスターの余裕ぶりにこちらが荒ぶっているのが恥ずかしくもなってくる。
 ただ、からかわれているだけの可能性だってあるのだ。やってみれば分かるさ。
 席をゆっくりと立つと扉へ向かう。入ってきた扉のはずなのに外の様子がやたらと気になる耳を当てると外の音が少しでも聞こえないかと聞き耳を立てる。
 静まり返ったままの世界は先程歩いてきたままのはずで、モンスターなんているはずもない。
 ドアを引くとゆっくりと隙間から地上を見上げる。動く気配はない。慎重にする必要もないはずなのに、ゆっくりと階段をのぼる。
 一歩、二歩、三歩。
 先ほどと何も変わらぬ様子。やっぱり嘘じゃないか。いつの間にか、地上にたどり着く手前まで来ている。あたりの様子を伺うがあるのは崩れかけのビルばかり。確認するように辺りを見渡す。
 ゾクリと、背筋に悪寒が走った。
 なんだ。なにかいる?
 見られているような感覚がある。確かめるように一歩踏み出した。そこが戻ってはいけないと言われた地上なのも忘れて。
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