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所詮は遊び
所詮は遊び その6
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「店長ー。ボードゲームってなんなんですかー?」
春がふくれっ面でそんなぶしつけにそんなことを質問するもんだから気が気ではない。
サークル室を追い出されるように飛び出し機嫌が悪いままセカンドダイスに辿り着くなりこれだ。雑居ビルのそれほど大きくない空間にその声が響き渡り、ほかのお客さんもなんだなんだとこちらに視線を向けてきている
「まあ、まあ、とりあえず落ち着きなよ。みんな楽しんでるんだから、邪魔しちゃいけないよ」
まるで子どもをなだめるようなその冷静な対応にくぐってきた修羅場の片鱗を感じる。春も言われてから周りがこちらを注目しているのに気が付いたみたいで途端に大人しくなった。子どもかあんたは。そう突っ込みたかったが、話が進まなくなるのでやめておく。
「とりあえず遊んでいくんでしょ。あそこのテーブル空いてるから。そこで待ってて。色々落ち着いたら話聞いてあげるから」
店長の言葉に素直に春がうなずく。それを隣で見ている千尋の元気がないのが気になるところなのだけれど、すぐに気づいた。なんてことはなくバイトの彼を探しているだけなのだ。気にするだけ無駄だったのだと思わずため息が出る。
「ね。あんなこと言われるなんてショック大きいよね」
美鶴が何かを間違って察したのかそんな風に話しかけてくる。
まあ、でもショックなのは間違いない。それってボードゲームなの。って思い出すだけで寒気がする。言葉自体もだし、それを言ってしまった先輩にもだ。
「ボードゲームってほんと、なんなんだろ」
コミュニケーションツールだとばかり思っていた。みんなでわいわい遊ぶためのもの。ルールがあって目標があってそこにたどり着くまでの過程を楽しむもの。ルールは色々あれど、みんなでテーブルを囲んで楽しくしていればそれあボードゲームだと思っていたでも違う考えの人もいるのだとさっき知った
そんな曖昧な定義なのだろうか。店長なら納得のいく答えが出るのかとセカンドダイスにやってきたのだ。
「よくわからなくなってきたね」
試験終わりのさっぱりとした気分が一気に落ち込んでいってしまった。美鶴の言うとおりだ。よくわからなくなってきてしまった。これじゃなんのためにサークルに入っているかも分からない。
ふと、鎌田先輩の顔が思い浮かんだ。鎌田先輩がサークルにあんまり顔を出さないのはこういうことの積み重ねなのかもしれない。だとしたら彼が主催しているボードゲームの集まりのほうが楽しいんじゃないのだろうか。
案内されたテーブルに移動しながら他の三人をぐるりと見渡す。決してつまらないわけじゃない仲良しっぽいグループ。けど出会ってまだ数ヶ月。これからどうなるかもよくわからない。
鎌田先輩の会に参加してみようかなと、気持ちが揺れ動く。そうすればこのもやもやした気持ちが少しでも晴れるのだろうか。
「なにしようか」
ちょっとだけ自分の世界に入り込んでいた美穂を春の声が現実に引き戻してくれる。椅子に座りながらつまらなそうに椅子をがたがたと動かしながら美鶴になだめられている春を横目に棚にキレイに並べられたボードゲームを軽く眺める。何度か見ているので見知った箱が多いのだけれど中身はよく知らないものがほとんどだ。この中でどれがボードゲームでどれがボードゲームじゃないって言うのだろうか。ボードゲームカフェにあるものは全部ボードゲームだろうに。その視線の先には先程まで遊んでいたスティックスタックの赤い箱があった。それを見つけてしまえば疑問を抱かずにはいられない。
みんなも同じなのか誰も何をしようか提案はしないし、積極的にボードゲームを探しにもいかない。
そんな気分にならないのだ。店長の方をちらっと見るけど、受付をしたり忙しそうに動いているのを見るとまだ少し時間はかかるみたいで、その間このまま気まずい時間を過ごすのはごめんだった。
とてもじゃないけれど空気に耐えられなくなって勢いをつけて立ち上がるとスティックスタックの赤い箱を手に取ると席に戻る。三人が少しだけ意外そうな顔でこちらを見ている。このままふさぎ込んでいたら言ったもん勝ちみたいで悔しかったから。あの意地悪な顔を思い出してそれに叩きつけるようにテーブルに箱を置いてやった。
「ね。今度はちゃんと楽しもうよ」
自分でも、らしくない事を言っているのはわかっているだいたいこういうのは千尋の役割だったはずだ。なんだか今日は様子がおかしい気がする。やけにおしとやかと言うか、大人しい。いつもの千尋だったらさっき先輩に言われた時に言い返すぐらいのことをしてもおかしくないと思ったのだけれど、ずっと黙っている。
まさか本当に例の彼が見当たらないから落ち込んでいるのではないかと疑いたくなるくらいだ。
「そうだね。ちゃんと楽しまないと損だよね」
千尋がやっと口を開いたと思ったらそれだ。妙な感じがして調子が狂う。あんたはそんなんじゃないでしょうと言いたいけれど、この雰囲気でこれ以上余計な波風を立てたくはない。
もくもくと先程と同じ様にスティックスタックを組み立てていく。出来上がってちょっとだけ違うことに気がつく。
「ねえ。これ使いすぎてバネ弱くなってない?」
明らかにぐにゃっとなっているそれは使い込んでいる証拠なのか、サークル室で見たときよりもよく揺れそうに見える。
「確かによく揺れるね」
春が笑いながら皿の部分を指で触って具合を確かめている。
ようやくみんなに笑顔が戻って来ている。空気が和んでいくのがわかる。こうじゃなきゃ、楽しくないよね。なんて自分でもらしくない感想が浮かんでは消えていく。
「さ、やろうよ。ボードゲーム」
そう三人に向かって、なにか心の中のもやもやしたものに負けないようにそう宣言した。
春がふくれっ面でそんなぶしつけにそんなことを質問するもんだから気が気ではない。
サークル室を追い出されるように飛び出し機嫌が悪いままセカンドダイスに辿り着くなりこれだ。雑居ビルのそれほど大きくない空間にその声が響き渡り、ほかのお客さんもなんだなんだとこちらに視線を向けてきている
「まあ、まあ、とりあえず落ち着きなよ。みんな楽しんでるんだから、邪魔しちゃいけないよ」
まるで子どもをなだめるようなその冷静な対応にくぐってきた修羅場の片鱗を感じる。春も言われてから周りがこちらを注目しているのに気が付いたみたいで途端に大人しくなった。子どもかあんたは。そう突っ込みたかったが、話が進まなくなるのでやめておく。
「とりあえず遊んでいくんでしょ。あそこのテーブル空いてるから。そこで待ってて。色々落ち着いたら話聞いてあげるから」
店長の言葉に素直に春がうなずく。それを隣で見ている千尋の元気がないのが気になるところなのだけれど、すぐに気づいた。なんてことはなくバイトの彼を探しているだけなのだ。気にするだけ無駄だったのだと思わずため息が出る。
「ね。あんなこと言われるなんてショック大きいよね」
美鶴が何かを間違って察したのかそんな風に話しかけてくる。
まあ、でもショックなのは間違いない。それってボードゲームなの。って思い出すだけで寒気がする。言葉自体もだし、それを言ってしまった先輩にもだ。
「ボードゲームってほんと、なんなんだろ」
コミュニケーションツールだとばかり思っていた。みんなでわいわい遊ぶためのもの。ルールがあって目標があってそこにたどり着くまでの過程を楽しむもの。ルールは色々あれど、みんなでテーブルを囲んで楽しくしていればそれあボードゲームだと思っていたでも違う考えの人もいるのだとさっき知った
そんな曖昧な定義なのだろうか。店長なら納得のいく答えが出るのかとセカンドダイスにやってきたのだ。
「よくわからなくなってきたね」
試験終わりのさっぱりとした気分が一気に落ち込んでいってしまった。美鶴の言うとおりだ。よくわからなくなってきてしまった。これじゃなんのためにサークルに入っているかも分からない。
ふと、鎌田先輩の顔が思い浮かんだ。鎌田先輩がサークルにあんまり顔を出さないのはこういうことの積み重ねなのかもしれない。だとしたら彼が主催しているボードゲームの集まりのほうが楽しいんじゃないのだろうか。
案内されたテーブルに移動しながら他の三人をぐるりと見渡す。決してつまらないわけじゃない仲良しっぽいグループ。けど出会ってまだ数ヶ月。これからどうなるかもよくわからない。
鎌田先輩の会に参加してみようかなと、気持ちが揺れ動く。そうすればこのもやもやした気持ちが少しでも晴れるのだろうか。
「なにしようか」
ちょっとだけ自分の世界に入り込んでいた美穂を春の声が現実に引き戻してくれる。椅子に座りながらつまらなそうに椅子をがたがたと動かしながら美鶴になだめられている春を横目に棚にキレイに並べられたボードゲームを軽く眺める。何度か見ているので見知った箱が多いのだけれど中身はよく知らないものがほとんどだ。この中でどれがボードゲームでどれがボードゲームじゃないって言うのだろうか。ボードゲームカフェにあるものは全部ボードゲームだろうに。その視線の先には先程まで遊んでいたスティックスタックの赤い箱があった。それを見つけてしまえば疑問を抱かずにはいられない。
みんなも同じなのか誰も何をしようか提案はしないし、積極的にボードゲームを探しにもいかない。
そんな気分にならないのだ。店長の方をちらっと見るけど、受付をしたり忙しそうに動いているのを見るとまだ少し時間はかかるみたいで、その間このまま気まずい時間を過ごすのはごめんだった。
とてもじゃないけれど空気に耐えられなくなって勢いをつけて立ち上がるとスティックスタックの赤い箱を手に取ると席に戻る。三人が少しだけ意外そうな顔でこちらを見ている。このままふさぎ込んでいたら言ったもん勝ちみたいで悔しかったから。あの意地悪な顔を思い出してそれに叩きつけるようにテーブルに箱を置いてやった。
「ね。今度はちゃんと楽しもうよ」
自分でも、らしくない事を言っているのはわかっているだいたいこういうのは千尋の役割だったはずだ。なんだか今日は様子がおかしい気がする。やけにおしとやかと言うか、大人しい。いつもの千尋だったらさっき先輩に言われた時に言い返すぐらいのことをしてもおかしくないと思ったのだけれど、ずっと黙っている。
まさか本当に例の彼が見当たらないから落ち込んでいるのではないかと疑いたくなるくらいだ。
「そうだね。ちゃんと楽しまないと損だよね」
千尋がやっと口を開いたと思ったらそれだ。妙な感じがして調子が狂う。あんたはそんなんじゃないでしょうと言いたいけれど、この雰囲気でこれ以上余計な波風を立てたくはない。
もくもくと先程と同じ様にスティックスタックを組み立てていく。出来上がってちょっとだけ違うことに気がつく。
「ねえ。これ使いすぎてバネ弱くなってない?」
明らかにぐにゃっとなっているそれは使い込んでいる証拠なのか、サークル室で見たときよりもよく揺れそうに見える。
「確かによく揺れるね」
春が笑いながら皿の部分を指で触って具合を確かめている。
ようやくみんなに笑顔が戻って来ている。空気が和んでいくのがわかる。こうじゃなきゃ、楽しくないよね。なんて自分でもらしくない感想が浮かんでは消えていく。
「さ、やろうよ。ボードゲーム」
そう三人に向かって、なにか心の中のもやもやしたものに負けないようにそう宣言した。
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