【完結】見世物少女の転移逆転記

製作する黒猫

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 優雅に踊る、貴族の男女。周りの人々は、そんな彼らをお似合いだと言っています。



 そして、兄と踊る私を、嘲笑するのです。





「なぜ、彼らは婚約をしていると思う?」

「親が決めたから、ですよね?」

「そうだね。なら、なぜ親はそう決めたのだと思う?」



 踊りながら、兄は私に問いかけます。その答えを兄は知っているのでしょう、私に自分から答えを出す様に促しているようです。



「そのほうが家のためになるから。貴族の婚約とは、そういうものだと聞いています。」

「そうだね。でも、その意味も薄れつつある。それに、彼女との婚約は・・・平和な世だからこそなんだよね。」

「平和・・・」

「リリちゃんは知っているか?今は戦争をしているんだ。それを見ようとしない。見たいものしか見ず、平和だと思い込んでいる・・・それが今。」



 今は、平和ではないということですね。そして、マーレイフィ様との婚約は、平和だからこそなされたもの。なら・・・



「あの2人は・・・」

「もうすぐだよ。あと少しで、みんな目を覚ますことになる。」



 曲が終わり、兄と顔を見合わせた。



「それまでは、俺の手を取っていて、マイシスター。」



 繋がった手を引かれて、その手の甲に口づけを落とされた。

 周囲から悲鳴が上がって、次の瞬間に兄も悲鳴を上げた。



「ひぎゃっ!?」

「このシスコン。」



 いつの間にか兄の背後にいた彼のかかとが、兄の頭に命中し、兄は崩れ落ちる。彼は、目が笑っていない笑顔で兄を見下ろした。



「ガゼル、一生独身で暮らすつもりかな?確かに君の妹はかわいいけれど、君のその態度は異常だ。悪影響だよ、クラスメイトに。わかったかな?」

「何言ってるか、わかんねーよ。お前のその笑顔の方が悪影響だろっ!」

「笑顔は、貴族のたしなみだよ?」

「笑顔が何のためにあるか、よーくお前は考えたほうがいいぞ!」



 一時はシーンと静まり返りましたが、2人のやり取りに険悪なものがないと気づき、クラスメイト達は賑やかになります。

 こうやって見れば、悪い人たちには見えないんですけど・・・まぁ、別に良くても悪くても関係ありませんね。







 すべての授業が終わり、私は武道場で審判の仕方をヴィヴィにならっていました。

 まずは、雰囲気だけでも味わおうと言われて、隣に立つヴィヴィの言葉をそのまま発して審判をしました。これだけでも緊張しますね。



 ちょうど模擬戦に区切りがついたころ、武道場の外から私を呼ぶ先生が現れました。見たことがない先生ですが、呼ばれたのでは仕方がありません。私は先生に駆け寄って、武道場を後にします。



 先生は、武道場の脇にあるちょっとした空間のある場所に私を招きます。



「リリ・ドーナルドさんだよね?」



 優しい声で尋ねられました。どうやら、悪意はなさそうなので安心です。

 改めて先生を見ると、中世的な顔立ちをした男性で、肩まで伸ばした髪がさらさらと風になびいています。どうやら、風よけになってくれているようですね。こちらには全く風が来ません。



「はい。」

「・・・失礼に当たるかもしれないけど、雪見会のドレスは用意できそうかい?」



 雪見会のドレス。客側には必須のものですので、もちろん用意してあります。兄がプレゼントしてくれたのですけどね。5着くらい。

 そんなに着ないとは思いますが、最初で最後だからって押し付けられました。嬉しいですけどね?



「はい。兄が用意してくれましたが?」

「そうかい。それは失礼したね。ただ、君の転校は急に決まったことだから、ドレスの用意が間に合わないかと思ってね。用意があるなら結構、時間を取らせてすまないね。」

「いいえ。・・・その、もしも用意がなかった場合は、どうするつもりでしたか?」

「学校側でドレスの貸し出しがあるから、それで借りてもらおうかと思って。平民用のサービスだけど、制服で出るよりはいい。」

「お気遣いありがとうございます。ところで、先生は貸し出しの担当の方なのですか?」

「・・・」



 困ったような顔をして、先生は耳の辺りを触った。どうやら、貸出担当ではないようです。おそらく、私に貸し出しについて伝える義務もこの先生にはないのでしょう。

 そういうのは、担任の仕事のはずです。



「先生、詳しく聞かせていただけませんか?」

「参ったな・・・君に直接聞くべきじゃなかったようだ。」

「そんなことはありませんよ。」



 私は先生から経緯を聞いて、思わず笑みが浮かびました。



 これは、使えますね。



 いいことを思いついたので、私はすぐに行動に移しました。





 そして、次の日。

 兄が難しい顔をして話があると、廊下の人気がない場所に私を連れて行きました。



「話ってなんですか?」

「・・・困ったことがあるなら俺たちに言ってくれ、マイシスター。」

「わかりました。」

「・・・昨日、担任に何を相談した?」

「たいしたことではありません。」

「なら、聞かせてくれるか?」

「・・・」



 真摯な瞳が私を見下ろします。心配、助けになりたいという気持ち。嬉しくなるくらいにあたたかい瞳が、すぐそばにありました。

 本当の妹ではないのに、本当にいい兄です。



「ねぇ、お兄ちゃん・・・私が何か知ってる?」

「・・っ!」



 見開いた瞳を見て、私が魔物だということを知っているのだと確信しました。それでも、この人は私を妹と扱ってくれていたのですね。自然とほほが緩みます。



「私、お兄ちゃんよりずっと強いよ。」

「・・・強くたって、お前は俺の妹なんだ。兄は、妹を守るものだ。」

「守られてるの、知ってるよ。お兄ちゃんが私よりも早く学校に来る理由も、無理に時間を作って一緒にお昼ごはんを食べてくれていることも。」

「リリちゃん・・・」



 兄が私よりも早く登校するのは、私の汚された下駄箱を掃除するため。

 無理にお昼を一緒にするのは、誰もいなければより多くの陰口をたたかれるし、危害を加える可能性があるから。



「平和だって夢見てる人間に、私が負けるわけがない。だから、心配はいらないよ。担任の先生がどんな人かだって、ちゃんとわかっているんだから。」

「・・・そう、か。何か考えがあるんだな?」

「うん。お兄ちゃんたちに考えがあるようにね。」

「・・・わかった。俺はリリちゃんの意思を尊重する。たぶん、手助けもいらないんだろ?」



 よくわかっている兄だ。私は笑って答えた。





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