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33 平和の終わり
しおりを挟むすべての授業が終わり、剣術部のマネージャーの仕事も終えた私は、グレットを待っていました。
そう、女子生徒に呼び出されて、屋上へ向かったグレットを待っているのです。
一人、武術場の出入り口の前で、冷たい風にさらされて待っています。中に入っていればいい?早く、グレットの姿を見たいので、ここでいいのです。私は、人間ではないので、寒さに負けたりなんてしません。
それにしても、屋上に呼び出しとは・・・手紙で呼び出されたと聞きましたが。
「婚約者がいる方に、告白とは・・・貴族の方ではないのでしょうね。おそらく、平民・・・いや、勇気のある方がいるものですね。」
屋上に呼び出すイコール告白!まさか、実際に目にするとは思いませんでしたが、容姿端麗、文武両道、家に財あり、位あり・・・こんな完璧な人間がいるのですから、物語でしかないような出来事も起こりえるのですね。
なんてことを考えていた私の耳に、私を呼ぶ声が届きました。その、噂の完璧人間の声が。
「グレット・・・」
屋上にいるグレットが私を呼んでいます。特に鬼気迫ったものはないので、私は走ったりはせずに歩いて屋上へと向かいました。
「来たか。」
屋上の扉を開けると、逆光になっているグレットが、嬉しそうに呟きました。私の登場で喜んでくれているのだとしたら、私も嬉しいです。
自然とほほが緩みました。
「本当に耳がいいんだな。正直、この距離で聞こえるとは思わなかった。」
「・・・グレットの声ですから。グレットの声なら、どんなに遠くにいたって聞いてみせますよ。」
「さすがにそれは無理だろう。ふっ。お前も面白い冗談を言うようになったな。」
「冗談ではありませんが・・・それで、どうしたんですか?」
ここに呼び出された理由を問えば、彼は私を手招きしました。私はそれに首をかしげながらも、彼の傍に行けることに嬉しくなって、駆けました。
彼の隣に立つと、彼は夕日に向かって指をさします。
「いい景色だ・・・これを見せたくて呼んだ。」
「そうだったんですか・・・確かに、下から見るよりここで見たほうが・・・綺麗ですね。」
夕日・・・前の世界では嫌いでした。だって、夕日は夕方の象徴。夕方の次には夜が来ます。私は夜が大嫌いなのです。
夜は、辺りを暗くします。冬の夜なんて、多くの仲間たちの命を奪うほど、寒くなります。夏は少しだけ過ごしやすいですが、汗をかいた身体を必要以上に冷やして・・・そのせいで死んだ仲間もいました。
そんな夜が来ることを感じる夕日が、私は嫌いでした。
でも、ここで見る夕日は、こんなにも綺麗なものなんですね。
彼が、いい景色だと言ったせいでしょうか?夕日の苦手意識が、無くなったような気がします。
微笑んで夕日を眺める私の耳に、不届きな声が聞こえるまでは、本当にそう思っていました。
上から、降ってきたその声は、全身に注がれたように感じるほどの強大な咆哮。以前なら、足が震えて動けなくなったかもしれません。
顔を上げれば、私の予想通りの魔物が、上空を飛んでいました。
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